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仮定世界のログキーパー -仮定世界創造神録ー  作者: 田園風景
神話時代 (神韻残響80)
20/66

2-3.迫る混沌

  空が震えた。

 神力の衝突により、世界そのものが軋んだかのような衝撃の余波が広がっていく。


 激突の結果、ライラの身体は後方へと弾き飛ばされ、空中で姿勢を立て直したものの、顔には焦りが浮かんでいた。

 彼女の力では、アリアンの力を凌ぎ切るには足りなかったのかもしれない――そんな不安が、脳裏をかすめた。


「せっかく創った俺の城だ。……創り直せるとはいえ、手間がかかる。外でやらせてもらおうか」


  アリアンの言葉と共に、彼の姿が玉座の間から飛び出してくる。

 その直後、ライラが数本の破壊の波動を撃ち出した。

 一本一本が致命的な神力を孕んだ斬撃のようなそれは、まともに受ければ身体を砕かれるに違いない。


 だが、アリアンは冷静だった。

 すべての波動を、掌の一振りで打ち払い、空中に爆発の花を咲かせる。

 轟音と光の嵐が、まるで祝祭のように夜空を染めていく。


 そして、爆炎の中から現れたのは、拳を構えたライラだった。

 彼女は一瞬の隙を突き、渾身の一撃をアリアンの頬に打ち込む。

 アリアンの身体が空を切り、森へと吹き飛ばされた。倒木がなぎ倒され、土煙が濛々と舞い上がった。


「どう……?」


  ライラは息を切らしながら、わずかに微笑みを浮かべた。だが次の瞬間、その笑みは凍りつく。

 煙の奥から、何事もなかったかのようにアリアンが歩み出てきたのだ。衣の裾さえ乱れていない。

 その異常さに、ライラははっきりと“絶望”を覚えた。


「今度はこちらからだ」


  アリアンの掌に、深紅の炎が灯る。

 その熱は周囲の空気を震わせ、木々を瞬時に発火させた。


「この『炎の矢』を受けきるならば、認めてやろう。――行け」


  炎の概念が空を走る。

 光速に近い速度で放たれたそれは、もはや回避など不可能。

 ライラは避け切れないと判断、防御障壁は間に合わない。ならば――と、彼女は自身の神力を極限まで身体に集中させ、熱耐性と熱拡散に集中した。


「……うっ!」


  閃光と共に、爆風が炸裂する。

 その熱量は森林一帯を焼き尽くし、緑はたちまち灰色の大地と化した。


 紅蓮の海の中を、アリアンは笑みを浮かべながら歩いていく。

 灼熱すら、彼の歩みを止めることはできなかった。


 ――そして、その空から、一つの影が落ちてきた。

 焦げついた外套、全身に煤をまといながらも、確かにまだ呼吸している少女――ライラだった。


「すごいな……この一撃を受けて、なお生きているとは。普通なら、跡形も残らないはずだが……」


  ライラの身体は黒く焼け焦げていたが、その目にはまだ、意志の光が残っていた。

 その瞬間、アリアンの脳裏に微かな迷いが生まれる。


 刹那――。


 黒く焦げた“外殻”が剥がれ落ち、ライラの姿がかき消える。


「……っ!」


  背後。アリアンが気づいたときには、すでに遅かった。

 ライラの拳が背中に炸裂し、その衝撃でアリアンの身体が宙へと浮き上がる。

 さらに雷撃が追撃となって空を裂き、直撃。アリアンの体が僅かに発光した。


「……これで……」


  地に膝をつくライラ。

 彼女はすでに限界を迎えていた。命の炎はかすかに揺らいでいる。だが、その姿は誇りに満ちていた。


「……驚いたよ」


 耳に届いたのは、アリアンの声だった。

 次の瞬間、衝撃。

 視界が横へと傾く。彼の掌が彼女を吹き飛ばしていた。


「まさか“炎の矢”を受けた上で、反撃する力まで残していたとは……俺の想像以上だ。やはり君は、ただの一族ではない。だが――残念だ」


  アリアンが空中に浮かべた無数の光球。

 一つ一つが山を吹き飛ばすほどの破壊力を秘め、稲光を孕みながら彼の背後に列を成していた。


 それらが、一斉に放たれる。


 空が裂け、大地が震える。

 何度も、何度も。爆発のたびに、世界が悲鳴を上げるかのようだった。


 爆煙が晴れたその場所には――ただ、瓦礫の山だけが残っていた。


「……逃げられたか」


  アリアンは地面を見下ろし、目を細める。

 自分の放ったこの攻撃に、ライラが耐え切れたとは考えにくい。だが、あの彼女が、跡形もなく消し飛ぶとは思えなかった。

 直感が告げていた。彼女は、どこかへ逃れたのだ。


「……いや、俺にも甘さが残っていた、ということか」


  その考えが、アリアンの胸の奥にわずかな重みとなって沈殿する。

 ライラは、かつての仲間であり、同胞だった。一族としての絆、それ以上のもの――情があったのかもしれない。

 その可能性に気付きながら、彼はあえて背を向ける。


 迷いは捨てねばならない。

 道を選び、進むと決めた以上は――。


 アリアンは静かに踵を返し、城へと戻っていった。


 


  そのころ、とある都市国家の広場では、人々がいつも通りの穏やかな時間を過ごしていた。

 しかし、空間に突如“歪み”が走った。

 まるで空気そのものが引き裂かれたような光景に、民衆は息を飲んだ。

 その歪みが弾け飛んだ次の瞬間――そこには、深く傷ついた少女が倒れていた。


 それは、ライラだった。

 彼女は戦いの直前、万が一に備え、緊急離脱用の空間跳躍を準備していた。

 最後の一撃を受ける寸前、彼女は神力を行使し、命を繋ぎ止めるためにその術を発動させていたのだ。


「くそ……止められなかった……」


  かすれた声で、ライラは呟いた。

 彼女の視界に、人々が駆け寄ってくるのが見えた。驚きと恐怖、そして焦りの表情がそこにあった。


 治癒の術が施され、応急処置が始まる。

 しかし、彼女の言葉は周囲には届かない。ただ、その言葉が、何か重大な異変の始まりを示唆していることだけは――誰もが感じていた。


 そして、その予感は的中する。


 ほどなくして、遠く離れた別の都市に――異形の軍勢が姿を現す。


 黒き城の主。

 アリアンの手によって創られし魔物たちが、静かに、しかし確実に人々の暮らしに牙を剥こうとしていた。


 神の加護なき時代に。

 新たな“神話”が、血と炎によって刻まれようとしていた――。

神話時代の『炎の矢』


基本原理

根源的なエネルギーを「炎」という属性で束ねる事で、対象の分子構造や熱力学的平衡を強力に撹乱し、破壊する。熱と運動エネルギーを極限まで集中させることで、物質を燃焼させ、溶解させ、気化させることに特化している。


破壊プロセス

1.炎の概念の顕現とエネルギーの限定

 自身の内に宿る神力を「炎」という特定の属性に集中させる。これは根源的なエネルギーの奔流から、熱、光、燃焼といった「炎」を構成する要素だけを抜き出し、それを具現化する。

 この段階で既に「炎の矢」として、視覚的に認識できる灼熱の光と熱を帯び始める。このエネルギーは、熱力学的な法則に縛られつつも、常識を遥かに超えた高密度で集中する。


2.熱エネルギーの伝達と分子結合の破壊

 形成された「炎の矢」が対象に着弾すると、その膨大な熱エネルギーが瞬時に対象へと伝達される。

 これは、単に表面を焦がすだけでなく、対象の内部構造へ急速に浸透。電圧された熱は、対象を構成する分子の運動エネルギーを急激に増大させ、分子間の結合力を弱める。これにより、物質は急速に燃焼、融解、あるいは気化し始める。


3.二次的な物理的効果と消滅

 分子結合の破壊に加え、急速な気化や膨張による内部からの圧力も発生。これにより、対象は内部から破壊され、場合によっては爆発的な現象も引き起こす。

 最終的には、対象は燃え尽き、蒸発し、あるいは溶解して原形を留めない形で消滅する。残るのは、焼け焦げた痕跡、溶けた残滓、そして高温の空気の渦のみとなる。

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