表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仮定世界のログキーパー -仮定世界創造神録ー  作者: 田園風景
創世時代 (神韻残響95)
17/67

1-6裏.将来、大きく咲けよ~

  『現世』の大地は、ゆっくり、しかし確かに文明の歩みを始めていた。


 丘の上には神殿が建ち、市場では交易が芽吹いている。家々は整い、道が生まれ、人々が集い、語り、笑い合っていた。

 ――まるで「始まりの物語」が、ゆっくりと呼吸を始めているかのようだった。


 ソファに寝転びながら、その光景を上空視点で観察していた俺は、しみじみと思った。


「……やっぱ、世界って面白いな」


  最初はただの広大な箱庭だった場所が、いつの間にか血の通った“世界”になっていた。そこに暮らす人々には物語があって、悲喜こもごもの歴史が刻まれている。

 アダムとイヴ、そして彼らの子供たち……。その血が今、この世界の至る場所に流れている。


 ……でも、穏やかな時こそ、何かが起こる予感がするのが“神視点あるある”なんだよな。


 俺の目が、不意にモニターの揺らぎを捉えた。


「ん……? これは……」


  空間が、いや――世界が、揺れた。

 物理的な地震じゃない。もっと根源的なもの……エネルギーの震え、神音残響の歪みだ。


 神音残響。俺がこの世界に設定した存在強度の指標。

 アダムが95、イヴが94、彼らの子供たちは良くて93止まり。


 だが、今回の震え方は異常だった。

 まるで、100を超えようとする“何か”がこの世に誕生したかのような、そんな震え。


「ヒガン。今の……何が原因だ?」

「少し待て……ふむ、原因は……生まれたばかりのイヴの新しい子じゃ。その子が発したもののようじゃな」

「え……イヴって、まだ子ども産めるのか」


  正直、それが最初の感想だった。

 すでにアダムとイヴは高齢に差しかかっていた。

 何世代も続く子孫たちが各地に家族を築いている今、まさか本人たちがまた子供を授かるとは。


 だが、モニターに映し出された映像は、それが紛れもない事実だと告げていた。

 イヴが赤子を抱いていた。アダムも傍にいて、その瞳は驚きと、わずかな警戒を湛えていた。


「なんか……あの赤ん坊、異常に強くね?」


  俺は正直、言葉が漏れていた。


 その子の神音残響は98。

 アダムを超えたどころじゃない。完全体に届く寸前だ。

 しかも、その力が生まれつき備わっているとなれば……これはもう、“設定の想定外”と言っていい。


「言うなれば、世代の異端児。世代に一人現れるかどうかの万能の天才という奴じゃな」

「天才……いや、これは……天災かもしれんぞ……」


  その赤子――アークライトと名付けられたその存在は、美しさと力を兼ね備えていた。

 アダムとイヴの血を濃密に受け継ぎながら、さらに洗練された造形。

 その未来を思うと、華やかな光景が広がる一方で、濃密な影もまた想像されてしまう。


「ヒガン、あの顔……アダムたち、どう見ても浮かない顔してる。分かるか?」

「ふむ。どうやら、未来を見通したようじゃ。アークライトの将来が、この世界に災いを齎す……と、考えたようじゃな」


  それはつまり、“どんな育て方をしても、同じ結果になる”という絶望の予感だ。

 親として、創世の担い手として、そんな予感を持ってしまった時、彼らが選ぶ行動は――


「封印……か」


  アダムとイヴは、アークライトの力を完全に封じた。

 力を使えなくするのに、アークライトと名付けるとは……心中の複雑さが察せる。


「だが、しかし。面白いな」


  俺は指輪に触れ、封印が完了したあの赤子に対して、アダムに気付かれぬように設定を追加した。


「何をするのじゃ?」


  ヒガンが興味深そうに聞いてきた。


「アダムの気持ちを考えて、あの子には何もしないさ。ただ、あのとびきりの才能を無くすのは惜しいからな。もしあの子に将来子供が出来るのであれば、その才能を受け継ぐようにしたのさ。受け継ぐとは言っても、それが開花するか確実じゃないし、開花しても時代のレベルには引っ張られる。だから、ほどほどのアクセントになるさ」

「ふむ……好きにするのじゃ」


  ヒガンのジト目が若干刺さるが、気にしない。

 だって俺、神だし。ちょっとくらいお遊びしたって、バチは当たらない。


  アークライトは封印されたまま成長し、やがて親元を離れていった。

 アダムとイヴは、その姿を寂しそうに見送っていた。

 彼らがどんな気持ちで手を振っていたのか、想像するだけで胸が痛くなる。


 その背中を見ながら、俺は静かに呟いた。


「……きっと、大丈夫だよ」


  誰に向けた言葉だったか、もうよく覚えていない。




  さらに時は過ぎた。


 俺は天界から、日常のように世界を観察していた。

 ある日、ある家族の祈りの声が届いた。だが、その内容が全く理解できなかった。


「*#$**……」

「は? 今、何て?」


  聞き取れなかったんじゃない。理解できなかったんだ。

 それはまるで、未知の言語――いや、新しい文明の“音”だった。


「どうやら、大きく違った言語のようじゃな。少し待つのじゃ」


  ヒガンがすぐに翻訳対応してくれたおかげで、祈りの意味は把握できたけど……問題はそこじゃない。


 言語の変化、それは文化の独立。

 つまり、人々が“神の言葉”を手放し、彼ら自身の言葉で世界を記述し始めたということだ。


「アダムとイヴも……もう表には出てこないみたいだしな」


  祈りは届いている。神としての存在も消えてはいない。

 でも、もう俺を直接知る者はいない。創造主の名は、徐々に伝承の彼方に消えていく。


 この瞬間、俺は理解した。


「――これが、『創世時代』の終わりか」


  始まりの物語は、幕を下ろした。

 アダムとイヴは姿を消し、言葉は変わり、人々は神を“語る存在”として記憶に刻む。


 ならば、俺もそれに倣おう。


「この時代を……記録に伏すか。さて、次の世代は、どんなドラマを見せてくれるのかな」


  俺は新たな物語の胎動を胸に、そっと世界を見守る姿勢に戻った。


 創世時代の幕は、確かにここで閉じた。

 だが、神としての俺の旅路は――ここからが本番だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ