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仮定世界のログキーパー -仮定世界創造神録ー  作者: 田園風景
創世時代 (神韻残響95)
14/67

1-3裏.なるようになれの精神で

  ふと気がつくと、リアル時間で一時間が過ぎていたらしい。

 あれだけ長時間没頭していたはずなのに、推測としてはせいぜい二、三十分ってところだったのにな。

 それくらい、あの世界は俺を惹きつける。

 視るだけでも飽きない。創造の喜びと観察の面白さが、どんどん中毒になってくる。


 だが、それを見透かしたようにヒガンが俺に警告してきた。


「万が一、お主に身体の不調が起これば、このゲームが問題視されるかもしれぬ。そうなれば、このゲーム自体が続けられなくなるじゃろ?」


 まったく、その通りだ。

 この世界をフルダイブで管理しているのは俺一人。俺が倒れたら、この世界は存続できなくなる。


「休憩したらまた戻ってくるからな!」

「うむ。では待っておるぞ」


  ヒガンにそう告げて、俺はログアウトを実行する。

 視界が暗転し、次第に輪郭を取り戻していく光の中で、俺は現実世界へと帰還した。



  目を開けると、カプセル型のベッドの中。

 マスクは外れ、蓋が開く。ログアウトは正常に行われたらしい。


 ベッドから身体を起こして、軽く伸びをする。

 長時間仮想世界にいたとは思えないほど、目は冴えている。身体は重くない。むしろ軽い。

 さすが高性能フルダイブカプセルだな。次世代感すごい。


「お疲れ様でした。ご気分は如何ですか?」


  扉を開けて、小糸さんが現れた。

 相変わらず、柔らかい笑顔と丁寧な口調。……ほんと、癒し力が高すぎる。


「問題無し! まだまだいけるぜ!」


  思わず元気に答えてしまう。大丈夫、元気なのは本当だ。


「それは良かったです。では10分以上の休憩をお願いします。ロビーで寛いで頂いても構いませんし、シャワーもご利用いただけますよ」


  再びカプセルのボタンを押してみるが、反応しない。

 システムでロックされているらしい。

 こっそり戻ろうとしたのも、見抜かれてるかもしれない。さすがに抜け道は用意されてなかったか。


 仕方ない。じゃあ素直に休憩しようか。




「なんだ、俺だけか」


  ロビーに来てみたら、見事に誰もいなかった。

 受付の小糸さん以外、まったくの無人。寂しいけど、静かなのは悪くない。


 この感じ、俺以外にも何人かプレイしてるとは思うんだけど、時間帯がズレたかな。

 ま、いいか。

 他の人のプレイも気になるし、初対面なら新鮮な感想を交換したかったけど、またの機会だな。


 無料の自販機でジュースを一杯もらいながら、ロビーのソファに腰を下ろす。

 濃いめのオレンジジュースが思ったより美味くて、ちょっと笑った。


 少しの休憩が終われば、すぐに再ログインするつもりだった。

 今日プレイできるのは、次が最後だ。明日もまた来るつもりだが、今日のうちに少しでも進めておきたい。

 進捗欲というやつだな。ゲーマーの血が騒ぐ。




  ログイン直後、意識が戻った場所はいつもの『天界』のソファだった。

 このソファ、本当に最高。フワッと包み込む座面、足を伸ばせる横幅、さすが神用仕様。


「お、戻ってきたようで。なによりじゃ」


  ヒガンが笑みを浮かべて傍らに現れる。


「あったりまえよ! で、『現世』は今どうなっているん?」

「人が増えて来ておるが、まだまだじゃな。それよりお主に捧げものが届いておるぞ」

「捧げもの?」


  ヒガンの言葉と同時に、俺の前に現れる二つの物体。

 ひとつは明らかに上質な肉の塊、もうひとつは瓶に詰められた穀物だった。


 肉は……おお、シャトーブリアン!? 写真でしか見たことないが、なんとなく高級なオーラを放ってる気がする。

 正直、うまそう。焼いて食いたい。でも、今は見るだけなのが残念すぎる。


「持ってきたのはアダムの息子。肉は長男のサリムで、穀物は次男のカイレルが用意したものじゃ」


  そうか。アダムの子供たちか。


 瓶を開けて中を見ると、ぎっしりと穀物が詰まっていた。……なるほど、ちゃんと育てて収穫したのか。

 でも正直、肉ほどのインパクトは無い。俺には良さがよくわからないのが申し訳ない。


「ヒガン、これ保管しておいて。後、二人に肉ありがとねって、褒めておいて」

「分かったのじゃ」


  ヒガンが軽く触れると、肉と穀物の表示がスッと消える。仮想保存庫に転送されたのだろう。

 いやー便利なもんだ。冷蔵庫いらず。テクノロジー万歳。


「所でワタルよ」

「ん?」


  ヒガンが思いついたように、こちらを見て問いかけてきた。


「この世界を聖書を参考にしているのなら、アダムたちを『楽園』に戻れるように助けたりしないのかの?」

「ああそれか」


  聖書のあれね。

 確か、アダムとイヴは罪を犯したあとでも希望を与えられていたはず。

 けれど俺の世界では、そもそも唆す蛇も悪魔もいない。

 彼らは、自分で選んで実を食べた。


 だから、罰を受けるのも、自分の行動の結果として当然……というのが建前。


 実のところ、俺はこの世界の流れをコントロールし過ぎたくないのだ。

 手を出し過ぎたら、全部“予定調和”になってしまう。それでは世界の面白さが半減する。


「そういうことで、アダムたちは不完全なまま成り行きに任せるつもりさ。なるようになれの精神で」

「ワタルの目的は分かった。覚えておこうぞ」


  ヒガンは納得したように頷く。

 彼女には、俺の放任主義と介入癖のバランスも理解してもらってる……はず。




  その後も、しばらく『現世』を見守っていた。

 アダムの子供たちは、誰も有能で建築スキルが高すぎる。

 建物も、素材だけでなく、自然との調和を重視して作られていた。


 もはや、理想郷そのものだ。


 文明としてはまだまだ未熟なはずなのに、あまりにも完成度が高い。

 人が少ない分、個々の能力と時間が集中してるからかもしれないな。


 そんな景色を俯瞰視点で楽しんでいたその時――


 世界の一角で、視認できるほどの大規模な戦闘が起こっているのを発見した。

 俺は驚きよりも、やっと来たか!という気持ちだ。


「おっしゃ、イベントが発生したみたいだな! ヒガン、早速いくぜ! まずはアダムの所だ」

「ふむ、これか。分かったのじゃ。何時でも飛んで良いぞ?」


  これは……この世界で最初の、記念すべき大きな戦闘になるかもしれない。

 俺の中の観察者としての血が、激しく騒いでいた。


 胸の高鳴りを感じながら、俺は転送準備に入った。

 次の瞬間、舞台は『現世』のアダムの下へと切り替わる――

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