1-2裏.AIの仕事が完璧すぎる件
ヒガンがホログラムモニターを操作する中、俺は『天界』の神殿に設置されたソファに身を沈めて、アダムとイヴの様子を観察していた。
このソファがまた、最高に快適なんだよな……身体を沈めると重力から解放されたような気分になる。
これも俺が神殿に贅沢を詰め込んだ成果の一つだ。
さっきまであんなに泣いてたアダムとイヴだったけど、意外にも切り替えが早い。
表情に陰りは残っているものの、そこに浮かんでいるのは決意の色。
見ているこっちが驚くほどに、素早く立ち直っている。
……俺もあんなふうに、物事をすぐに受け入れられたら良いんだけどな。
人間は逆境に強い、って言うけど、最初の人類がすでにこのレベルって、なにそれ。
あ、アダムが何かを作ろうとしてるっぽい。
「ヒガン。またアダムの所に行こうぜ」
「ふむ。承知したのじゃ」
ヒガンがスッと腕を払うと、それに合わせて空中に浮かんでいたモニターが音もなく消える。その仕草がまた格好良いな。
ともかく、アダムが何をするのかこの目で見たい。きっと何か面白いものができる予感がする。
俺は指輪に触れ、ヒガンと共に転送を実行した。
「ここでもいいかな?」
「ええ。とても、良い土地ですわ」
アダムとイヴは、何か場所を決めたタイミングだったようで丁度良い。
二人の傍らに、俺とヒガンは登場した。
「何してんの?」
「これは神シーク・ワタル様、そしてヒガン様……!」
俺たちが現れると、二人は自然に敬意を示してくれた。
けれど、過度に頭を垂れたり地に伏したりというような、重苦しい敬礼ではない。
敬いながらも、俺という存在を“遠い雲の上の存在”とはせずに、手の届く神として接してくれる感じがして、個人的にちょうど良かった。
「これから我らの住まいを建てようと、準備していたところです」
なるほど、家か。確かにそれが無いと始まらないよな。
ところで、どうやって作るつもりなんだろう?
不老不死ではなくなったとはいえ、その能力は万能に近いはず。なら、面白い建築風景が見られるかもな。
あ、時間掛かりそうなら時間の流れを調整しないと……
「なら、その建築を見せてよ!」
俺は興奮気味に腕を組み直し、じっくり観察する構えを取る。
基礎からちゃんと作るのか、資材の扱いはどうするのか――あらゆる可能性が頭を駆け巡る。
「神の御業に及ぶはずもありませんが、どうぞ、お納めくだされば幸いです。イヴ、私が建設に集中する間、お二人のもてなしをお願いできますか?」
「はい、もちろんです」
イヴが愛らしい微笑みのまま俺の脇に立つ。
イヴは壮絶美人だしなぁ。近くにいるだけで緊張する。
どこか神秘的で、気品のある美しさがあるし、何より“崇拝されている”って目で見られると、照れくささで変な汗が出そうになる。
アダムの人妻というのも……あ、なんか新しい扉が開いちゃうかも。
そんなイヴが、俺の隣に簡易なテーブルを生成し、冷えた水差しと、果物の入った籠を用意してくれた。
もてなしが完璧すぎて、逆に申し訳なくなってくる。
と――何やら空気が静まり返った。妙に静かだ。
俺がふと前方に目を向けると、そこには――
何もなかった平原に、巨大な建築物が忽然と姿を現していた。
開いた口が塞がらなかった。
それはまさに古代ギリシャ風の荘厳な建築。
白亜の円柱に、風通しの良い回廊、中心には光が優しく差し込む中庭。
神話の世界から抜け出てきたかのような美しさだった。
アダムとイヴは、建築物に静かに視線を向けていた。どこか懐かしむような、愛着の籠もったまなざしだった。
「こんな所でしょうか」
アダムは控えめにそう言って、俺に一礼した。
いや、ちょっと待て、これ本当に一瞬で作ったのか? 俺の知らない技術がふんだんに使われている。
装飾ひとつとっても、ただのデザインじゃなくて、それぞれに機能や意味があるっぽい。
もしかして、リアルの建築より数段上なんじゃないか? いやいや、これは凄すぎる。
少し考えれば、場所も建築材料も無制限で、全ての知識を活用してAIが最高に思える物を表現するのだ。
それを考えれば、この出来は当然と言えるのかもしれない。
「う、うん。見事だと思うよ。ま、まぁ創造主の俺には及ばないけど~うん、綺麗」
ヒガンが黙々と何か操作してるのが見える。……きっと、俺のこのセリフを神らしく変換してくれてるんだろうな。
ありがとな、ヒガン。あと、ゴメン。
アダムが仕事を終えると、イヴが水を差し出し、彼の額を優しく拭っていた。
その光景はまるで一枚の絵画のようだった。
ヒガンも、用意された水を口にして「おいしいのじゃ」とか言ってたが、俺はその感覚を味わえない。
物を食べることは出来るけど、ぼんやりとしか味が分からないんだよな。
これはドリームコクーンのシステムとしての限界だから仕方ない。
用意してくれたイヴには悪いけど、それに手を付けずにいよう。
「神の御業に比べれば……まだ未熟なものでございます。今後も改善を重ね、よりよい住まいへと高めてまいります」
「いや、今のままでも十分すぎるでしょ。いやー凄い立派だよな。けど、こんなの一瞬で作るのなんて、疲れなかったの?」
俺がこの世界の設定を考える時も、凄く苦労したのだ。
しかし、アダムは元気アピールか、腕を振り上げている。
「いえ! 神よ、まだまだ私の力は尽きておりません。イヴと共にある限り、どこまでも進み続けられます」
「まぁアダムの能力なら、倒れる所を想像できないしな。おじゃ、俺は『天界』に戻るから」
『天界』に戻ってきた俺とヒガン。
この世界最初の建築物が想定を遥かに突き抜けていたけど、それはそれで良いんじゃないかな?
これからどうなっていくか、少し楽しみだ。
今回以降、月・木曜日朝の週二回投稿としますので、宜しくお願いします。




