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仮定世界のログキーパー -仮定世界創造神録ー  作者: 田園風景
創世時代 (神韻残響95)
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1-1裏.決めたルールを秒で破られたんだが!?

  ここは『楽園』――

 この世界における最も豊かで、最も平和な階層世界。人が望むものはすべて揃っていて、誰も飢えず、誰も傷つかない。居心地の良い風景、目に心地良い光彩、空を舞う鳥たちの旋律さえ完璧に設計された、俺の創造した“理想”のひとつだ。


 木々は風にそよぎ、川は澄んだ水を静かに流す。自然と調和するように配置された動植物たちは、相棒として寄り添い、食料として循環し、環境の維持すら担っている。


 そして、この楽園において、ただそこに“居る”というだけで、人間たちは強くなる。

 まぁ、アダムとイヴは最初からこの『楽園』で創造され、何一つ欠けることのない状態で存在しているので関係無い。

 この二人は、強さも、知性も、そして美しさも――あらゆる意味で、“始まりの人間”にふさわしかった。


 二人が俺の前に立ち、指示を待っていた。


 ワタルである俺は、神としての姿を装っている。

 威厳に満ちた口調、風になびくような衣、背に広がる光の輪。……うん、演出には結構気を使ってる。

 だって“神”だもんな。舐められちゃ困る。


 そんな中、俺は彼らに向かって“開拓”という使命を与えた。

 神からの指令。それを受けたアダムとイヴは、まるで宝物でももらったように顔を輝かせ、深く頭を下げた。

 ああ、ここまで喜んでもらえると、ちょっと照れるな……。いや、神っぽくいけ、俺。


 その瞬間、ふとあるアイデアが頭をよぎった。

 ここまで設定をなぞってきたんだ。いっそ、アレもやってしまうか。


「一つだけ、ルールを設定しよう」


 俺は指輪にそっと触れ、目の前の地面に一本の木を生やした。どこにでもあるような普通の果樹――だけど、見た目はしっかりと整えた。少し神秘的に、でも過度に恐ろしくならないように。


「お前達は、この世界……『天界』を除いたその他の階層世界も含め、どんな物も自由にして良い。ただし、この木から成る実だけは例外である。これを食べてはならない」


 俺は静かに空を見上げ、目を閉じ、神らしく語りかけた。


「この実を食べることは、我への反逆を意味し、命を終える結果をもたらすだろう。この言葉、忘れるな」


  ――うん、決まった。完璧な神の演出だ。

 これで彼らの信仰心を試す布石もできた。あとは数日様子を見るだけだ――


「ワタル……悦に入っておるところ悪いが、二人を見るのじゃ」


  隣に立っていたヒガンが、申し訳なさそうに囁く。

 相変わらず、冷静かつ真面目モードのヒガンは、ちょっとだけ申し訳なさそうな顔をしていた。


 いやな予感がして、視線をアダムとイヴに戻す。


 ……え? ……食ってる……?


 いやいやいや、どうしてそうなった!?

 まだ説明してから数秒しか経ってないぞ!? まさか、ルールの通達より先に果物のほうが気になったってことか!? というか、神の言葉よりも食欲が勝ったってマジか!?


「神シーク・ワタル様……何か……我々は……」


  その表情は驚きと困惑に満ちていて、どうやら“悪気はなかった”らしい。

 説明が不十分だったのは俺の落ち度かもしれないが、ルール設定後に実食って……! 


 ヒガンは、やれやれといった顔でため息をついている。


「……タイミングが悪かったことは理解しているけど、ルール決めちゃった後だからなぁ。しょっぱなからルール無視は駄目だなぁ」


  アダムとイヴは涙目だ。もう取り消してあげたいくらいだ。でも、ここで甘くしたらこの世界の“神”としての格が落ちる。


「だから、アダム、そしてイヴ。……悪いけど、『楽園』から追放ってことで」


  心の中では申し訳なさMAXだったけど、表情はあくまで神の威厳を崩さず、腕を上げて転送命令を出した。

 向かう先は、次なる階層世界――『現世』だ。


 転送の合間に、ヒガンが時間を早めて聞いてきた。


「最初っから変な事になったが……あのルールにはどんな意味があったのじゃ?」

「あれはな。二人の俺への信仰を見るものだったんだよ。あのルール一つを守っているのなら、俺への信仰は有るものと見ている。その信仰の見返りが全てだった訳だったんだけどな」


  奇しくも。同じ原罪を負うことになったが……なかなか、理想通りの世界にはならないもんだな。




  転送された四人が降り立ったのは、別の階層世界――『現世』だ。

 この世界は、ファンタジー準拠ではあるがリアルに近い構造を持ち、死が存在する世界。

 風は冷たく、地は硬く、空は高い。ここでは甘えも躊躇も通用しない。


「原罪を犯したアダムとイヴは、この世界で生きていくことになる」


  厳しい言葉だが、ちゃんと伝えないといけないのだ。それが神の役目だからな。


「お前たちはもう不老不死じゃない。子孫も同じ仕様になる……注意して、生きてくれ」


  うっ……二人の涙に、どんどん罪悪感が湧き出てくる。

 こういう湿っぽい雰囲気は苦手だ。言う事言ったらすぐに退散するとしよう。


「これにより、神韻残響は95まで下がってるからね。……気をつけて」


  イヴが肩を震わせながら頷いている。ちゃんと聞いてくれたようだ。

 じゃ、とっとと退散だ。

 指輪に触ってヒガンと共に『天界』へと戻る。




  『天界』の神殿。広くて静かな空間で、俺はソファに身を沈めていた。

 見上げる天井の装飾すら、いまは妙に遠く感じる。


「神韻残響、95か……不老不死がなくなったんだから、もっと下がるかと思ったんだけど」


  神韻残響。それはこの世界における存在強度、俺が勝手に設定したステータス指標だ。

 創造したての不老不死なアダムを100とした時、リアル現代の子供基準は1である。

 数値が1違うだけで、能力は大人と子供並みかそれ以上の差があるのだ。


「100という完全な状態から欠けるというのは、数値以上に重大なことなのじゃ。不老不死を失い、老いていく……その重みじゃな」


 ヒガンが静かに答えた。


「ふ〜ん……まあ、いいか。最初から理想通りにいくわけないしな」


  そう、これは創造の始まりにすぎない。

 人類の歴史は、ここから動き出す。アダムとイヴの失敗も、きっと未来の礎になるはずだ。


 ――さて、次はどんな物語が生まれるのか。

 俺は再び画面を開き、彼らの動向を見守ることにした。

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