1.仮定世界の神に俺は成る!
初めましての方は初めまして。引き続き読んでくださっている方に感謝します。
稚拙な個所は多々あると思いますが、
どうぞ、よろしくお願いいたします。
窮地に立たされていた。
剣士カインの剣は折れ、魔法使いシエラの魔力も尽き果てている。
弓使いジードは逆に射抜かれ、僧侶ミレーネは必死に回復魔法を唱え、命を繋いでいた。
もはや、全員が限界だった。
唯一、立ち上がっていたのは勇者レイ。
邪悪な攻撃を防ぐはずの聖なる鎧は半ば損壊し、防具としての役割をほとんど果たしていない。
全身に深い傷を負い、流れる血は仲間の誰よりも酷かった。
それでも――勇者の瞳には、消えぬ決意の炎が灯っていた。
「超魔王デス=アグナス=ザイロード! 俺は……俺たちは、決して諦めない! たとえ刺し違えることになっても、お前を倒してみせる!」
「そ、そうだ!」
「私たちは、負けられない……!」
カインが、シエラが、ジードが超魔王に視線を向ける。
ミレーネは、残された気力を振り絞って祝福を祈り求めた。
それぞれの瞳に、覚悟の火が灯る。
「ほう……そうか……」
超魔王が振るった杖から、凶悪な波動が放ち広がる!
その波動は、勇者一行を更に打ちのめした。
「が、がはっ!」
ギリギリ耐えた勇者レイが剣にもたれ掛りながら膝を付く。
必死に周囲を見回せば、仲間はかろうじて生きているものの、誰もが瀕死の状態だった。
「さて……終わりにしようか」
超魔王が掲げた杖に、禍々しい魔力の光が灯る。
その光は次第に膨れ上がり、空気を震わせるほどの圧倒的な力を放ち始めた。
その影響で、周囲の脆い壁が崩れていく……
「この魔法で……お前たちだけではない、お前たちの背負う国全てが消え去るのだ!」
「や、やめろぉぉ!」
「ふははははは! これですべて終わりだ! 消え去れ!」
――ドォンッ!
その瞬間。
腹の底に響くような鈍い炸裂音とともに、魔法の光があっさりと弾け飛んだ。
何が起こったのか、誰にも分からなかった。
超魔王も、笑い顔のまま固まり、砕け散った杖を呆然と見つめている。
勇者レイも、目を見開いたまま動けずにいた。
――ドォンッ!
再び響く激しい炸裂音は、超魔王の胸に大きな風穴を穿つ。
空いた穴から、一瞬の間を置いてから紫色の体液が流れ出る。
チャキン、カシャン……ガチャリッ
硬質な金属音が静寂に刺さる。
続いて「ガチャン」という音がこだました。
「な、なんじゃこりゃぁぁ!」
事態を把握した超魔王は、ようやく叫び出した。
収束した破壊の魔力は完全に霧散。
その大穴が開いた体で超魔王が立って喋っているのは、不思議を通り越して滑稽にも見えた。
「流石、超魔王って所か。対物ライフルを受けて生きているなんて、まさにファンタジーだぜ」
「お、お前はツバサ・カンナズキ! ジュウとか得体の知らない武器を使う転生者!」
勇者レイが驚愕の表情を浮かべる。
あいつは無能だから追放したはずなのに……と。
「なら、コイツでどうだ!」
ツバサは肩に担いでいた対物ライフルを投げ捨て、どこからともなく……いや、絶対にありえない所から、2丁のガトリングガンを取り出し、両手に構える。
振り回された弾帯が、周囲の瓦礫の上に埃を立てて横たわった。
「オォォォォォォォッ!!」
両腕に構えた巨大なガトリングガンが声と共に唸りを上げる。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!
嵐のような銃声と共に、怒涛の弾丸が吐き出される。
火花と硝煙が渦巻き、肩が外れそうなほどの反動が腕を軋ませる。それでも引き金は離さない。ただただ、全てを薙ぎ払うために――。
レイ達は突然の音に耐え切れず、耳を塞いで頭を下げていた。
果てしなく続いた爆音が、唐突に止まる。
「魔法の威力は認めるさ。けど、倒すなら銃の方が早いだろ?」
超魔王デス=アグナス=ザイロードは、文字通り粉微塵となって、この世界から消滅した……
俺は、その後に続く勇者一行と転生者ツバサのやり取りをスマホで眺めていた。
知る人ぞ知る「未知と幻想の箱庭」
世界そのものをパソコン上でシミュレートしてしまう、脅威のアプリだ。
宣伝など一切されていないが、ネットの一部では、その認知度を高めている。
シミュレートしたものは、付属の機能で編集し動画化。一般に公開できるらしい。今のやり取りも、学友が遊んだものを動画化したものだ。
画面の中では、現代兵器で超魔王を打ち砕くという、滅茶苦茶な展開が繰り広げられている。
正直、ツッコミどころ満載だが、妙に惹きつけられる迫力がある。
「どうだ、すげーだろ?」
隣で得意げに笑うのは、動画の作成者であるクラスメイト。
「……設定がありきたりだな」
そう返すと、案の定、呆れたように肩をすくめられた。
「何言ってるんだよ。今はこういうのが流行ってるんだって。お前、新しい流行になるようなもの、考えられるのかよ?」
「俺には無理だな」
「だろ?」
そんな軽口を交わしながら、いつの間にか学校の一日が終わっていた。
明日からは、待ちに待った夏休みだ。いや、今日の午後から休みと言って良いだろう。
皆何処へ行くかと話し合っていた。俺にもお誘いの声が掛かってきたが「予定があるから」と、全部断った。
そう、俺は……幾瀬 渡にはこの夏を丸ごと使って挑む、特別な予定があるのだ!
「待ってろよ! 今から俺が行ってやるからな!」
帰り道の途中、人目も憚らず、思わず独り言を漏らしてしまった。
胸の奥が、熱く高鳴る。
「未知と幻想の箱庭」はこれまで、設定した世界の流れを、ただ観測するだけだった。
しかし新たに、フルダイビング方式で、あの世界を体験できる時代が来たのだ!
それは、当然ながら家庭用パソコンでどうにかなる話ではない。
専用のフルダイブ施設でのみ体験可能な、厳選されたプレイヤーだけの特権。
抽選倍率は凄まじかったらしい。
けれど俺は、幸運にもその枠を引き当てた。
――選ばれし、数少ない“神の座”に。
初回は面倒な手続きが色々あるらしいが、今日からついにプレイできる。
「さて、荷物を家に置いて、早くいかないとな。遊ぶ時間は有限だぜ!」
夏の夕陽が、家々の壁を紅く染めていた。
俺は、少しでも早く向かうため、普段は歩きたがらない坂道を駆け上がる。
心の中は、期待と高揚でいっぱいだった。
――“この夏は、俺が世界を支配する”。
そんな、中二病じみたフレーズを胸に刻みながら、俺は家路を駆けた。