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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

機動特殊部隊ソルブスシリーズ

巡査 一場亜門

作者: 日比野晋作
掲載日:2025/01/01

 明けまして、おめでとうございます!


 二〇二五年の新年は「機動特殊部隊ソルブス」シリーズの短編からスタートです。


 お正月に似つかわしくない、問題作ですが、私、個人としては、去年、三月以来の投稿ですので、気合が入っております!


 皆様、是非、ご拝読の程、よろしくお願いいたします。


「あぁ、湯上りで私の虹色の頭脳が冴えるよ。亜門君」


 一場亜門は交際相手の研修医である、久光瑠奈と表参道の複合商業施設、東急プラザ原宿、通称、ハラカド内にある、銭湯に入った後にそこに併設されている休憩室で山村フルーツ牛乳を飲みながら、くつろいでいた。


「瑠奈・・・・・・さっきから、何を読んでいるの?」


 瑠奈は何かの本を読んでいた。


「あれだよ。完全自殺マニュアル」


「悪趣味・・・・・・マッドサイエンティストじゃん?」


「いやぁ・・・・・・こうすれば、確実に人の命は絶たれるんだな?」


 止めてくれよ・・・・・・ただでさえ、人を切りたいから外科医を志したとか言い出す時点で怖いんだから。


 瑠奈のサイコパスな一面を眺めながら、山村乳業のフルーツ牛乳に手を出そうとしていた時だった。


「一場?」


 ふと振り返ると、女性用のスーツを着た、女がいた。


 よく見ると、それは自分のハコ(交番の通称)時代の上司、三塚麗奈巡査部長だった。


 亜門は警察官であり、現在の所属は警視庁警備部独立特殊機甲部隊(Independent Special Armored Team ISAT アイサット)通称ISATの隊員で、階級は巡査だ。


 だが、警視庁に入庁した後にしばらくは新宿署の地域課に所属していた時期があったのだ。


「三塚部長・・・・・・」


「久しぶり」


 えっ・・・・・・何で、三塚部長がいるんだよ?


 ハコ時代は相当、辛く当たられたから、身構える自分がいる。


「そんな身構えなくても、もう、所属が違うんだから、怒鳴ったりしないから」


 いや、怒鳴る時点で、今のご時世は問題ですよ・・・・・・


 と言っても・・・・・・まぁ、警察官という特殊な職業で、命のやり取りをするからこそのパワハラめいたことが起きるんだけど、第一、階級制度があるし?


 それにしても、三塚部長の叱責は今でも、心がえぐられた記憶があるから、顔を見るだけで、しんどい・・・・・・


「彼女さんと一緒だと、邪魔しちゃうかな?」


「だぁれぇ?」


 瑠奈がそう言うと「・・・・・・昔の上司だよ、新宿署勤務時代にお世話になったんだ」と簡単に説明する。


「嫌そうね?」


「そりゃあ、手のかかる部下でしたから」


「嫌味ね。そう言えるところが大人になった証拠かな?」


 そう言った後に三塚は「タバコはまずいよね?」と言い出す。


「ハラカドは禁煙ですよ」


「極めて、常識人だね」


 そう言った、三塚は「まいたなぁ・・・・・・」と言いながら、亜門たちの隣に腰を掛ける。


 えっ? 居座るの?


 マジで迷惑なんだけど?


「あんたほど、手のかかる、新人はいなかったけど・・・・・・だいぶ、筋肉、付いたね? すっかり、特殊部隊員ね?」


「・・・・・・件のISATです」


「あんたが入庁時通りの確定ルートであの準軍事組織に行くのは分かっていたけどね。かなりの出世よ。ヘタレだったのに?」


「そういう三塚部長は私服ですけど、デカに戻れたんですか?」


「えぇ、原宿署の勤務よ」


 そうウィンクする、三塚に対して、瑠奈は「亜門君がタジタジしている・・・・・・面白そうだから、聞きたいんですけど、こいつの交番時代はどんな感じだったんですか?」と意地悪な笑いを浮かべながら、三塚に聞いてきた。


 すると、スマートウォッチから、相棒の自立志向型AIである、メシアが起動して「まぁ、お前の失敗談ならば山程、あるが、目立つ話と言えば、あの事件だろう?」と言い出した。


「あら? メシア? 相変わらずね?」


「三塚・・・・・・あの事件の話は問題ないか?」


「良いんじゃない? その事件の顛末を話そうと思って、一場を探していたし?」


「何です? それ?」


「まぁ、話をしましょう・・・・・・銀座の事件でのあんたの活躍を見て、奴のことを話そうと思ってね? その飲み物を飲んで良い?」


 三塚が腰を掛ける。


「・・・・・・湯上りだと、もっと美味しいですよ」


「私は時間が無いんだよ」


 三塚がふっと笑う。


 夏のお盆の終わりに銭湯で思い出話が行われようとしていた。



(至急、至急、警視庁より各局、警視庁より各局)


 それは西暦二〇四二年の七月のことだった。


 眠らない街である新宿署管内でいわゆる、トー横界隈に出入りをする、少年・少女を狙った、猟奇的殺人事件が発生。


 警視庁刑事部捜査一課は捜査本部を新宿署に立てて、早期の事件解決に動いていたが、容疑者はこの時点ではまだ、確保されていなかった。


 そんな中で、六件目の事件が起きてしまった。


 亜門は地域課の警察官として、三塚と共に事件現場の新宿中央公園で現場保存を終えた後に捜査一課が臨場する間の規制線外での警邏任務に当たっていた。


 勤務地ではあるが、学生時代から、新宿は嫌いだ。


 富裕層や貧困層もごちゃ混ぜにした、あの感覚も嫌いだが、渋谷の再開発でチーマーが淘汰された影響からか、ヤクザがただでさえ、多いのに、不良なガキどもが流れ着いたから、この数十年で治安が格段に悪くなった。


 ましてや、トー横なんて、自分たちの様な制服を着た警察官やスーツを着たサラリーマンという社会の秩序を担う存在を敵視する、バカなガキどもが市販薬でのオーバードーズや淫行を行う遊び場と化している。


 何が、居場所だよ・・・・・・


 社会に迷惑をかけて。


 補導して、地元に返しても、親との不和などの理由で、また、舞い戻ってくるという、警察とのイタチごっこも続いている。


 親との不仲や親が子どもに無関心、子ども自身の学業不振などが相まって、居場所として、トー横に集まるのは構造としては理解出来る。


 だが、心情としては一切、理解出来ない。


 本質的に自分が貧困を経験していないというのもあるが、犯罪に手を染める可能性があると分かっているのか・・・・・・分かっていないにしても、愚かな子どもたちだ。


 僕の中学、高校時代はもっとマシな思考能力で行動していたけどな?


(新宿署管内において、殺人事件が発生。場所は新宿区西新宿二丁目一番一号の新宿中央公園ーー)


 警察無線が飛び交い、赤色灯の赤い光が公園を照らす中で、亜門が脳内で毒づいていた時だった。


「おう、亜門、もう慣れたらしいな? 現場保存」


 腐れ縁の捜査一課の主任警部補である、兵頭隆にそう声をかけられる。


「腐乱死体は未だに厳しいですけどね。匂いと蛆が湧いているのを見ると、肉がしばらく、食べられなくなるんですよ」


 腐乱死体に初めて、遭遇した時は本気で吐いた。


 その後、食事は三日取れなかった。


 だが、普通の死体は慣れると、それほど、見ていても、苦にはならない。


 とりあえず、現場保存をして、鑑識に引き渡せば良いだけで、余計なことはしないのが、地域課のいわゆる、お巡りさんのヤマ(事件の通称)の引き継ぎ方だ


 だけど、未だに腐乱死体だけはダメだ。


 腐ったものが基本的には誰しもそうだが、どうしても、嫌いだ。


「それがデカへの登竜門だよ。早く、警備部の誘いを断って、デカになれよ!」


 そう言って、兵頭は規制線の中へ入る。


 あの人は基本的には死体を見ても、平気でステーキとか食えるタイプだろうな?


 亜門は兵頭の豪胆さが羨ましく思えた。


「兵頭さんほどの腕利きがあんたにご執心なんてね? 警備部からの推薦で鳴り物入りで入庁はしたけど、仕事が絶望的に出来ないあんたがねぇ?」


 三塚がニタニタ笑いながら、そう言う。


 その途中で鑑識が現場を走り回る。


 現場保存した後に鑑識に無傷で現場を渡す。


 それは完了した。


 故に今、鑑識はデカも含めた、一人の捜査官も入れずに鑑識活動を行っている。


 唯一、入れるとしたら、所轄署の偉い人か、本部の偉い人、いずれも偉い人だけで、出来れば、鑑識としては現場を荒らされたくないから、入って欲しくないというのが本音で、ドラマとはその点が違うのだ。


 そんな緊迫した中で、三塚は不気味に微笑んでいる。


 しかし、三塚が・・・・・・この状況で、この人が笑うか?


 本心からか?


 普段は散々、自分の事を怒鳴り倒すのに?


「・・・・・・ご迷惑をおかけしています」


「本当だよ。後で日報をよろしく」


 仕事出来ないとか人のことを言う割には面倒事は僕に押し付けるんだよな・・・・・・三塚部長は?


 三塚麗奈は二十代で巡査部長に昇任する程の優秀な女性警察官で元デカだ。


 将来を嘱望されていたが、元来の人にも他人にも厳しい性格が災いして、部下の一人にパワハラをしていたと認定されて、新宿署の地域課に左遷させられたというある意味では気の毒な人だ。


 そのパワハラをされた、デカもゴンゾウ(不良警察官の蔑称)で有名だったので、三塚は嵌められたという見方も出来るが、若くして、昇進をして、今まで、部下を持ったことが無いが故に・・・・・・と言ったところだが、自分自身も相当、辛く当たられているのだ。


 顔は美人だが、気の強い、キツイ性格なので、正直言って、顔を見るだけで気分が悪くなる。


「一応、朝の十時にはあんたは非番になるけど、通報が入ったら、出なきゃいけないからね?」


「分かっていますよ」


「分かっていないから、言っているんだよ。あんたは肝心な基礎を忘れる。そういうのが許されるのは極端な天才だけ」


 小言・・・・・・


 ねちねちと小言を年中、言われるのだ。


 後でPC(パトカーの略称)に乗った時も延々と小言か説教みたいなことを言われる。


 唯一の慰めは三塚が運転をしてくれることだけだ。


 だが、それを差し引いても、小言と説教だけならば、運がいい方で、もし、自分が何か、致命的なミスをしようものならば、延々と怒号が車内に響くのだ。


 監察に訴えようかなぁ・・・・・・


 そう思っていた矢先だった。


 一人の少女が事件現場を延々と眺めている。


 挙動がおかしい。


 警察官を見て、びくびくしている


 中学生ぐらいか?


 こっちを見た。


「一場? あの子はこっちを見ているね?」


「・・・・・・関係者ですかね? 持ち場を離れて、職質かけますか?」


「・・・・・・石谷! 牛田! ちょっと、ここを見てくれない?」


 そう言われた、巡査長の二人は「部長、また、一場の教育に出るんですか?」や「二人とも仲良いですねぇ、職場結婚でもします?」などと冷やかしに入る。


「ハッキリ言って、セクハラね。怪しい奴がいたから、職質かける。一場にも正しい、職質のかけ方を指導する。大義名分はばっちりよ。次、夫婦なんて言ったら・・・・・・分かっているよね?」


「・・・・・・持ち場を任されました!」


 二人が震えながら、敬礼してきた。


「ということよ。早速、あの子を追おう」


「えぇ・・・・・・でも、あの子、未成年ですよ」


「少年犯罪もあり得る」


 そんな、怪しいからとりあえず、声をかけるなんて、非効率な・・・・・・


 まぁ、この人は自分の進言なんて、聞かないだろうが?


 亜門は三塚のアクティブさとパワハラ言動に閉口しながらも後を付いていった。


 時刻は午前三時三四分。


 深夜の公園前には野次馬が出来ていた。



 少女を見かけると、亜門と三塚はすぐに職質をしようとする。


「あんたが声をかける」


「えっ・・・・・・僕ですか」


「正しい職質のかけ方を指導するんだから。いい? 職質はナンパをするかのように軽いタッチでがベストだからね?」


「三塚部長はプライベートではナンパするんですか? されるんですか?」


「あんたにしては珍しい、セクハラ発言だけど、私はお堅いのよ。はい、行ってきなさい」


 そう言われて、亜門は少女に近づく。


「すいません・・・・・・見ての通り、警察ですけど、ちょっと、よろしいですかね?」


 すると、少女はいきなり、逃げ出す。


「おい! 逃がすなよ!」


 三塚が後方から猛ダッシュで追いかけ始める。


 亜門も気付けば、ダッシュをしていた。


 場所は都庁前に移るが、近くではホームレスが寝込んでいる。


 そんな中で少女と僕たちの追跡劇が続く。


「待てぇ!」


「逃げるな!」


「ごめんなさぁぁい!」


 少女が涙声でそう言いながら、逃げるが、泣くぐらいならば、逃げるなよ!


 そう思うと、三塚が追いつき、合気道の小手投げの要領で少女を拘束する。


「痛い!」


「何で、逃げる!」


「ごめんなぁぁさい!」


 少女が泣きながら、そう言うと、亜門は「ごめんねぇ、このお姉さん、乱暴だよね・・・・・・ちょっと、持ち物だけ見るよ」と言って、少女の持っていたポーチを取り出して、中身を見る。


「止めてぇ! お願い!」


 やましいことがあるんだな・・・・・・


 中身を見ると大量の市販薬と精神安定剤が入っていた。


「これって、もしかして、オーバードーズするつもりだった?」


「お願いです・・・・・・止めてくださいぃ!」


 まぁ、市販薬のオーバードーズじゃあ、検挙は出来ないかぁ。


 そう思っていた時だった。


 カード状の何かを見つけて、中身を見ると、すぐに自分たちがやらかしたことに気付いた。


「三塚部長、放してください」


「何で! 重要参考人の可能性がーー」


「この子、知的障がいがありますね」


「はぁ? 何それ?」


 三塚はそういう障がい者に対する、合理的配慮に乏しい、典型的な警察官なのだから、当然の反応だ。


「二級だから、中程度の障がいで介助は不要ですけどね。恐らく、親御さんと関係が悪くて、何か分からずにとりあえず、新宿へ来て、深夜まで徘徊と言ったところじゃないですか?」


「いや、未成年者の深夜徘徊ならば、尚更、同行させないとダメでしょう?」


「障がい者を無理やりに警察が拘束すると、反権力を掲げる弁護士とか市民団体が怒鳴り込んでくるんですよ。オヤジ(警察署長の警察内での通称)が頭を抱える事態になりますね」


 三塚は考え始める。


「拘束を解いて下さい。署で保護をして、その不仲な親御さんに連絡をしましょう」


「分かったわよ! ただし、あんたがその子の面倒を見るのよ?」


 そう言って、三塚が拘束を解くと、少女は「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」と泣き始める。


「ごめんねぇ・・・・・・このお姉さん、乱暴でねぇ。とりあえず、一緒に警察署行こうか?」


「怖いことしない?」


「それは・・・・・・しないように努力するけど、お茶は出せるかな?」


「・・・・・・お茶、味なくて、嫌い」


「ダメ?」


「オレンジジュースが良い」


「それは・・・・・・利益誘導と言ってーー」


 すると、三塚が亜門の胸倉を掴んで「あんた、福祉の職員じゃあないんだからさ! 何を悠長なことをしているの!」と怒鳴りだす。


「おい! 止めろ! お前ら!」


 そこに兵頭が現れる。


「兵頭警部補・・・・・・」


「兵頭主任、こいつ、何とかしてくださいよ! あんまりにも生ぬるくて!」


「三塚、だから、デカ外されるんだよ・・・・・・亜門の対応は良くも悪くも理想的だよ。とりあえず、その子を保護して、署に連れていけ。亜門、その子を介抱してくれ」


「分かりました。ごめんねぇ。ちょっと、話聞きたいから、お兄さんたちとパトカー乗ってくれるかな?」


「パトカー?」


「そう、パトカー」


「・・・・・・乗る。何か、格好良いから」


「ありがとう・・・・・・兵頭警部補、オレンジジュースとか署にありましたっけ?」


「お前、俺のことを階級で呼ぶの止めろ。第一、新宿署の茶菓子のことは俺は知らん。茶じゃあ、ダメか?」


「子どもは甘い物ですよ」


 亜門がそう言うと、兵頭は「常識的に考えて、ダメだろう」と言い出す。


「茶か白湯じゃないと嗜好品扱いだから、利益誘導になるだろう? 常識だぞ」


「あぁ、ダメですか・・・・・・」


「この子は金は無いのか? 弁当は自分で払えば、出せるだろう?」


「交通系ICカードはありますけど、現金は無いですね」


「計算が出来ないのかぁ・・・・・・かなり、難しいぞ。こいつの対応は? ますます、三塚じゃあ、ダメだ」


 兵頭がそう言うと、三塚が「どういう意味ですか?」と聞き返す。


 そこに応援の地域課の警察官が駆け寄る。


「お前ら、その子、障がい者だから、扱い、気を付けねぇと、弁護士連中が飛んできて、オヤジが存分に困るから、その覚悟でいろよ」


 それを聞いた、同僚たちは「そんなにマズいんですか?」と聞き返す。


「いや、反体制派ってのはなぁ、権力を持つ側のチョンボは見逃さねぇんだよ」


 そういう兵頭は「じゃあ、タバコ吸ってくらぁ」と言って、その場を去る。


「・・・・・・一場、どうすればいい?」


「お前、彼女が医大生だから、そういう知識をかじっているんだろう? マジで問題にはしたくないから、これに関しては先生だわ。一場、頼むよ」


「とりあえず、PC回してくれます? あと・・・・・・オレンジジュースは出せます?」


「ダメだろう。茶だったら、問題ないけどな?」


 そうだよなぁ・・・・・・ジュースは嗜好品になるからなぁ。


 少女を見ると「うぅぅぅぅ!」と唸り出す。


「何? この子?」


 三塚部長・・・・・・それは差別ですよ。


 口に出しても、無意味だから、あえて言わないが、今の亜門は対応を考えるので、精一杯だった。


 今日は朝の十時明けに帰るのは無理だな?


 考えただけで気が遠くなりそうになるが、とりあえず、今やることに着手することにした。



 その後にウチのハコ長が同席する形で、亜門がシラベ(取り調べの通称)をすることになったが、オレンジジュースが出せないことが分かると、女の子は腕をかきむしり始めて、それを抑えるので、大変だった。


 名前は田中瑞希か・・・・・・


 これは相当、骨が折れるけど、僕がやらないといけないんだ・・・・・・


 そう思っていた時だった。


「一場・・・・・・オヤジが呼んでいる」


 同僚の清水がそう声をかけると、亜門は「まだ、シラベは終わっていないですよ?」と言うが「その子は返せってさ、親御さんがタクシーで千葉まで送れって」と言い出した。


 一応は瑞希には聞こえない様に話をする。


 家に帰りたくないと言っている中で返すのだから、癇癪を起こされたら、溜まったもんじゃない。


「じゃあ・・・・・・返すんですか?」


「うん、その時までは待ってもらうが、お前が片付けろよ、これ」


 時刻は午前六時かぁ・・・・・・


 今日は第二当番だ。


 あと、四時間で家で寝られると思っていたんだけどなぁ?


「それとオヤジは三塚部長も呼んだ」


 そう言われた、亜門はバツの悪い表情を浮かべて、亜門は署長室へ向かうことにした。


 オヤジに会うのは、地域課に赴任して以来か・・・・・・


 警備部の特殊部隊に警察官としての基礎が出来次第、返すという前提で、鳴り物入りで新宿署地域課の巡査として、赴任したが、ここまで、ハコの皆の足を引っ張ってばかり。


 だが、今日の一件では珍しく、頼られているのだ。


 その時点で何か、悪いことが起きそうな予感がするのは自分に自信が無い証拠かと思えるが?


 そう思いながら、亜門は署長室の前に立つと、ドアをノックする。


「失礼します」


 そう言って、部屋へと入ると、新宿署の署長である、大塚とおふくろ(副署長の略称)の菅野が立っていた。


 そこには三塚が立っていた。


「・・・・・・そこに立て」


 新宿署の署長は代々、警視庁本部捜査一課長を歴任した、ノンキャリアのエリートデカがなるというのが慣例で決まっている。


 大塚の眼光が鋭いのもそうだが、部屋中の威圧感が凄い。


「例の障がい者のガキだが、早速、弁護士からクレームが来たよ。あいつは支援団体を振り切って、深夜に徘徊していたらしい」


「もしかして、新宿で女の子の支援活動をしている団体ですか?」


「極右の連中から、年中、嫌がらせされている、あの団体だ。気が付いたら、外に飛び出して、事件現場に来たらしい。あのガキは好奇心が人一倍、強いらしい」


 大塚はため息を吐く。


「対処を間違えた、三塚とギリギリで踏みとどまった、一場か?」


 何で、三塚部長の前でそういうことを言うんだよ? この人は?


 三塚が亜門を睨みつける。


「質問」


 どうやら、さっきまで三塚部長がコテンパンに怒られていたようだな。


 ぶっきらぼうに質問があるかを聞いた、大塚に対して、亜門は「彼女の送り迎えはタクシーで千葉までと聞いたのですが・・・・・・親御さんは来ないんですか?」とだけ聞いた。


「警察で保護された以上はそれが普通だけどな? 一応は連絡したが、仕事とあのガキの弟の塾への送り迎えで忙しいから、本人にタクシーで帰るように言えと言われたよ」


「それって・・・・・・ネグレクトですよね?」


「そういう親も世の中にはいるんだよ。俺はデカの生活が長いから、そういうのは経験則上知っている。だがなぁ、あのガキ深夜の新宿を放浪こそはしていたが支援団体の保護下にいる。しかも、弁護士付きだ。そして、文句を言いに来る。しかし、ガキは毎回、大人の監視を振り切って、深夜の新宿を徘徊する。殺人鬼がうろついている中で迷惑な話だ」


 そりゃあ、制圧なんかしちゃった、三塚部長は叩かれるわな?


 亜門は極力、三塚を見ない様にした。


「そこで、一場。お前、ガキを見送れ」


「えっ? 私ですか?」


 警察で僕なんて、言ったら、張っ倒されるので、瞬時に主語を私に変えた。


「あの子がお前以外のサッカン(警察官の通称)は怖いから、嫌だと言うんだ。とりあえず、行ってくれ・・・・・・その後の業務の負担は軽くする」


「はい・・・・・・」


「以上だ。その場にいた、兵頭に感謝するんだな?」


 兵頭警部補が根回ししてくれたか。


 そこは素直に感謝だな。


「失礼します」


 三塚と共に去ろうとすると、大塚署長は「三塚、お前には他人に対する想像力が無い。デカとしては致命的だ。一場をバカにしていたが、その点では一場は新宿署のサッカンの中ではずば抜けている。よく、考えおけよ」と言ってきた。


 何で、そういうことを本人の前で言うの・・・・・・


 僕が後で気まずくなるじゃないか?


「分かりました」


「頼んだぞ、お前ら」


 そう言われた後に二人は署長室を出る。


「何なの! あのクソオヤジ!」


 そりゃあ、三塚じゃあなくても、怒りたくはなるわな?


「あんたは良いよね? 結果論としては褒められたんだからさ!」


「まぁ、確かにオヤジの怒り方には問題はありますよね」


 そう言われた、三塚は黙り始める。


「三塚部長?」


「あんた、そこはマウント取らないの?」


「取って、何になるんです? 変な軋轢が生まれるだけです」


 三塚が腕組を始める。


「あんたって、極端に攻撃性が無いというか・・・・・・サッカンという職業に付く、男って、そこはチョンボをした、女性警察官を嘲笑うもんだけど、あんたは本当に・・・・・・うん、何でもない」


 そうねぇ、自分でも適正には難があると思うよ。


 そう思った後に三塚は「仕方ない。日報と報告書は私が書くから、あんたは定時になったら、帰りな」と言い出した。


「えっ? 良いんですか? でも、職務としてーー」


「チョンボを起こしたのは私だし、これぐらいはバツとしては妥当。私が挽回するには倍以上働くしかないから、とりあえず、あんたの仕事を私に寄越しなさい」


「・・・・・・ありがとうございます」


「・・・・・・とりあえず、時間までは仕事しろよ」


 何か、三塚に優しくされたのは初めてな感じがする。


 そう思うと、同時に三塚が亜門を見て、微笑む。


「三塚部長?」


「いや? 別に?」


 何だよ、それ・・・・・・


 亜門と三塚は交番へと戻ろうとしていた。


 時刻は午前七時前。


 眠らない街に朝がやって来た。



 とりあえず、亜門が瑞希を送ったが、当人は「またねぇ!」と手を振るぐらいに呑気なもので、弁護士には凄く怒鳴られ、凄まれ、最悪だった。


 その後にハコに戻って、軽くなった日報と報告書を書いて、定時の午前十時になったら、帰宅することにした。


 ハコ長の飯塚警部補と三塚や他の同僚に簡単にあいさつした後で、亜門は半蔵門にある、警視庁の官舎へと向かう。


 そこが独身の新人警察官である、自分の寝床だ。


 家賃が安く、他の地方警察だと、ボロボロなので、人気の無い、官舎だが、警視庁の官舎はかなり、キレイに整備されているので、入居の倍率は高かった。


 しかし、受かった。


 警察官人生で今のところ、良いことはそのぐらいか・・・・・・


 あとは民間人に感謝されるぐらいが良いことかな?


 そう思った亜門は半蔵門駅へと向かう。


 半蔵門には某大手FM局があることをふと考えるが、後でradikoのタイムフリーで昨日の夕方の番組でも聴くかな・・・・・・


 そう思いながら、歩き続けていると、気が付けば、官舎に入り、部屋の前に立ち、ドアのカギを開けて、荷物を適当に投げ込むと、服を脱いで、パジャマを来て、そのまま布団に入る。


 だが、室内が暑いので、すぐにクーラーを付ける。


 暑い・・・・・・今年も夏は異常な暑さだ。


 そう思っていたが、クーラーの涼しさが届くと同時に亜門は眠った。


 そして、気が付けば、部屋は暗くなっていた。


 そこから、起きた時刻は午後十八時。


 瑠奈は今日、時間あるかな?


 もう、医学部の四年だけど、暇かどうかは亜門には分からない。


 とりあえず、電話をかける


(自習中です)


「お勉強の最中、申し訳ないです」


(・・・・・・仕事終わった?)


「シゴオワだね。これから、高円寺に行こうと思うけど、勉強があるんじゃあーー」


(行くね! 煮干しラーメンの店に連れていけ!)


「決まりだね? じゃあ、現地で」


 そう言って、亜門はデートへと出かけることにした。


 風呂は・・・・・・これから、高円寺の銭湯に入るから、良いとして。


 亜門があれこれ、思念を働かせながら、東京メトロ半蔵門線に乗って、半蔵門駅から九段下で東京メトロ東西線の三鷹行きに乗り変え、中野で降りると、JR中央線に乗って、そこから目的地に着いた。


 学生時代に高円寺に住んでいたので、詳しいことは詳しい。


 JR中央線の高円寺駅に着くと、瑠奈が後ろから抱き着く。


「うっ! クサッ!」


「銭湯行くから、良いかなぁと思ったんだけど・・・・・・」


「先に銭湯行こう。何か、獣臭いよ?」


 瑠奈が鼻をツマミながら「あぁ、クサ・・・・・・」と言いながら、亜門の手を引く。


 そして、高円寺の純情商店街に入って、そのまま住宅街へと行くと、世の中ではカリスマ銭湯と呼ばれて、コンビニ並みに人が入ることで有名な銭湯が目に入る。


 二人で入ると、番台さんが「あっ、いらっしゃい。今日は二人ですか?」と聞いてくる。


「えぇ、この後に煮干しラーメン食べるんですよ」


「あそこ、ジャンボ餃子が美味しいんですよね・・・・・・いいなぁ、銭湯は行った後に食事なんて?」


「でっ、大将が『量があるでしょう!』とか言うんですよね。良い人ですよ」


 亜門と番台さんがそう会話すると「さっ、獣臭い、亜門君の洗浄に入るぞ」と言って「バスタオルとフェイスタオル両方で」と言い出す。


「仲良いですねぇ」


「えぇ、自慢の彼氏ですよ」


 瑠奈・・・・・・嬉しい!


 そう思った時だった。


 スマホが鳴り出す。


 嘘だ・・・・・・まだ、風呂に入っていないのに臨場か?


 三塚からだった。


「・・・・・・出なよ」


「うん」


 そう言われた亜門は「はい、一場」と電話に出る。


「三塚だけど、今、何処?」


 それは答える義務はありません・・・・・・


 でも、言わないと怒り出すからなぁ。


「彼女と高円寺の銭湯に居ます」


「・・・・・・あぁ、彼女いるんだよね? 物好きだよねぇ」


 はぁ?


 一言多いな?


 いちいち、腹の立つ上司だ。


「えぇと、要件は?」


「私もあんたの仕事、片付けて、非番になって、安心していたけど、例の障がい者の女の子が遺体で発見されたらしい」


「えっ・・・・・・」


 亜門は時が止まる感覚を覚えた。


 そして、彼女の笑い声が聞こえる。


 彼女が殺されたのか?


「また、支援団体を振り切って、トー横に出入りしていたら、心臓を一突きよ」


「・・・・・・・」


「何か、思うところある?」


「・・・・・・いえ、特には」



「まぁ、私たちは地域課だから、即、臨場ということは無いけど、当直になったら、ジ(刑事部の略称)の応援に駆り出される可能性があるわね・・・・・・とりあえず、今は夜勤明けなんだから、存分に高円寺で遊んでな? じゃあ」


 そう言って、三塚からの電話が切れる。


「はぁ・・・・・・」


「大丈夫?」


「次の当直、忙しいって」


「あぁ、ご愁傷様」


 瑠奈と番台さんが手を合わせる。


「入ろうか?」


 そう言って、亜門と瑠奈は男女、別々の脱衣所にに入る。


 仕事のことは休みの時には考えない主義だ。


 人が死んだとしても、警察官である以上はその生死が入り乱れる現場に慣れないといけない。


 いちいち、マル害(被害者の略称)の生死に泣いて喚いていたら、精神が持たなくなるんだ。


 だから、僕は決して、非情な男ではない。


 銭湯の名物のミルク湯の匂いがここまで充満してくる。


 ここは浴室がキレイなのが、ありがたいよな?


 亜門は全裸になって、浴室に入った。


 平日なので、若干空いているのだけが、救いだった。


 身体を洗い始めるときには事件のことを一時的に忘れていた。



 地域課の警察では四交替という勤務スケジュールを取って、第一当番日勤、第二当番夜勤、非番夜勤明け、週休休みというサイクルだ。


 つまりは第一当番は朝早くから出て、早朝に柔道なり逮捕術の訓練を行い、そこから、業務開始で、一七時一五分に退庁。


 第二当番は一六時に勤務を開始、そこから日をまたぎ、午前十時に退庁。


 そこから、休みに入り、翌日は丸々、一日、休みになるのだ。


 まぁ、警察官としては恵まれた勤務スケジュールだが、途中で事件が起きれば、かなり、時間がずれ込むことは日常茶飯事だ。


 ハードな職場かもしれない、捉えようによるが。


 そして、この日は新宿署管内での少年・少女を狙った、連続殺人事件は七人目のマル害の瑞希が遺体で発見されたので、今日は捜査本部はかなり、ピリついていた中で、亜門たちは交番で第一当番業務をしていた。


 警視庁には正式に瑞希を支援していた団体から、弁護士が抗議を始めて、会見まで、開き、いわゆる警視庁が犯人を早く逮捕していれば、彼女は殺されなかったやそもそも論として、彼女を不当に拘束した、警視庁の対応はなどと言っていたが、それは一部の左翼しか共感しない内容で、XなどのSNSでは早くも支援団体と弁護士たちには「お金目当てですか?」や「障がい者の被害者のことを真摯に考えているならば、逃亡させて、徘徊なんかさせないはずですけどね?」に「そもそも論として、暴れるなり、逃げるなりするならば、支援団体でも括りつけておけば良いのに? 警察のやった拘束行為はベターですよ」ならば、まだ、良い方の意見で酷い奴だと単純に「殺処分しろ」の一言で済ませる、輩なアカウントの投稿も多く見られた。


 それを見たことは見たが、亜門は気分が悪くなったので、途中でスマホを寝室に放り投げていた。


「今は捜査会議中ですかね?」


 亜門がそう三塚にそう言うと、三塚は「七人も管内で殺されているから、上はカンカンだね。マスコミは警察批判が凄いからさ。ネット上じゃあ、考察がひどいよ」と言いながら、日報を書いている。


 Xを始めとする、各種SNSでは新宿の連続殺人鬼の正体を考察する、論説で満ち溢れていた。


 どれも、警察が掴んでいる情報に比べて、的外れなもので、見る価値も無いものだが、瑠奈から教えてもらってなかったら、忙しいので、SNSのことを考える余裕は無かった。


 とにかく、今は忙しいのだ。


 管内で七人も殺される、殺人事件が発生しているのだから、地域課もフル稼働で、パトロールや職質をしなければいけない。


 これから、三塚とハコを出ようとした時だった。


「邪魔するぜ」


 兵頭隆警部補が新宿署のデカを連れて、やって来た。


 三塚や他の同僚は立ち上がり、敬礼する。


 亜門も遅れて、敬礼する。


「ちょっと、亜門、借りて、良いか?」


「一場をですか?」


 ハコ長の飯塚警部補が呆気に取られた、表情を浮かべる。


「大塚のオヤジがすぐ来いってさ? 奴と対面だ」


 奴って・・・・・・誰だろう?


「奴って、誰ですか?」


「鈍いなぁ? お前、それでもサッカンか? お前の相棒だよ」


 相棒って、まさか?


「メシアがお前と事件解決をしたいとよ」


 今度は亜門が絶句を覚えた。



「いやぁ・・・・・・俺が恋しかったか?  亜門?」


 三塚が運転するPCで新宿署からハコへと戻る途中だった。


軍用兵器ソルブスを構成する自立志向型AIを搭載した、スマートフォンとスマートウォッチから、メシアという名のAIが洋楽の歌詞を歌い出す。


「今回はお前の出番は無いけどなぁ・・・・・・」


「俺は戦闘だけではなくて、推理でも役立つんだよ!」


 亜門とメシアがそうはしゃぐ中で、三塚は兵頭に対して「自立志向型AIの捜査への介入ですか?」とだけ聞いた。


「ジがなぁ、ビ(警備部の略称)の小野に頼み込んで、メシアをレンタルしたが、問題としては地域課のお前以外とは組まないと言い出して、デカ連中からの総スカンを食らって、捜査本部から追い出されたんだよ。部長もお前の経緯を知っているから、容認はしているが・・・・・・メシア、もしかして、お前はマル被の目星付いているのか?」


「まぁ、ここまで科学捜査が進展している中で難航するのも珍しいがな? だが、犯人の素性に関する決定的な法則は一発で分かったが・・・・・・車の中ならば、誰も聞かないな」


 つまりは人に聞かれると困る話しというワケだ。


「事件が起きたサイクルを考えてみろ、お前らならば、一発で分かるはずだ」


 メシアが兵頭のタブレットに事件の起きた日数をまとめた、電子資料を送る。


「・・・・・・必ず、四日に一回は起こるか?」


「これ・・・・・・四交替のスケジュールですよね」


 亜門のその一言を聞いた、全員が唖然とする。


「じゃあ、つまり、マル被は現職のサッカンってこと?」


 三塚は信じられないという声音を吐きながら、運転する。


「逆に俺が追い出されてよかったよ。サッカンは身内意識が強いから、最初からサッカンを疑う捜査手法には反発を覚えるだろうな?」


「・・・・・・動機は?」


「いずれも刺殺だ。心臓を一突きだな。そこから、推察するにマル被はそれなりに武力に長けているということだ。動機は俺は心理学には疎いから、何ともいえないが、連続でストリートチルドレンのようなガキどもを殺すというのは一種、ホームレス狩りにも似た感覚を覚えるな」


「つまり、ゲーム感覚ということか?」


「真っ当なサッカンではないと俺は踏んでいる。大家刑事部長は木口捜査一課長がその可能性を全力で否定をすることを踏まえて、俺たちにこういうことをやらせているのさ」


 大家刑事部長はキャリア出身だから、合理主義の固まりなんだろうな。


「それならば、科学捜査にも精通はしてそうね」


「・・・・・・だが、映像で粗はあるはずだ。そして、パトロールをして、怪しい奴はとっ捕まえる。それしか、方法は無い」


 そう言った亜門は拳を握りしめる。


 本来だったら、市民を守るはずのサッカンがゲーム目的で、自分よりも立場の弱い、少年や少女を狩りの名目で殺し続ける。


 それは僕でなくても、許せないと思うのは普通の心情だよな?


「お前ら、気を付けろよ。相手はかなり強いぞ」


 メシアの言葉が重く響く。


 時刻は午後一時一分。


 夏の暑さが鬱陶しかった。



 深夜のパトロール中でも残暑は厳しかった。


 PCの中から、遠目で見て、歌舞伎町のあたりは客引きが凄いように思えるが、今はそれに構っている場合じゃない。


 外国人観光客が歌舞伎町の辺りで写真を取る中で、途中で大柄な男が吐瀉物を吐いたのを目撃してしまった。


「最悪・・・・・・飲みすぎだよ」


 三塚が「うぇぇ」と言い出す。


「・・・・・・ショックでしたか? サッカンがマル被の可能性があると知って」


 亜門は三塚にそう言うが、当人は「私はそのAIを信用していない」とだけ行った。


「お前もしょせんは身内意識に凝り固まった、サッカンということか?」


 メシアはそう言って、鼻で笑い始める。


「そのスマホと時計、壊していい?」


「ビに怒られますよ?」


 気が付けば、亜門と三塚は笑っていた。


「お前ら、聞いた以上に良いコンビだな? 血で血を洗う関係とは聞いていたが?」


「誰だよ? それ言ったの?」


「まぁ、私は嫌いだけどね? こいつ、使えないから」


 まぁ、僕も三塚部長が嫌いだからなぁ・・・・・・


 そう思っていた時だった。


 歌舞伎町を通り過ぎて、PCは大久保公園近くへと入る。


「一場ぁ?」


「はい?」


「大久保公園の方に子どもと一緒に中年がいたよ」


 それは職質をかけるしかないな。


 何せ、殺人鬼がうろついているのだから。


「どの辺ですか?」


「今、入っていった。今、応援をかけるから・・・・・・」


「待て、呼ぶな」


 メシアがそう言うと、三塚が「何で?」と言い出す。


 しかし、亜門は「そういうことか・・・・・・三塚部長、二人で行きましょう。オヤジには後で怒られれば良いです」と言って、PCを出た。


「ちょっと、待ちなさい!」


 そう言って、亜門が大久保公園に入ると、男が少女に対して、刃物を持って、近づいていた。


 男は亜門を見ると、一瞬戸惑いを見せる。


「新宿署です。ちょっと、よろしいですか?」


 しかし、男は少女の肩を掴むとナイフを同人の顔に付きつける。


 亜門は戸惑いを見せると、そこに三塚がやって来る。


「無駄な抵抗は止めろ!」


 しかし、男は無言のまま、ナイフを納めない。


「亜門・・・・・・出来るか?」


「・・・・・・後で怒られるぞ?」


 そう言って、亜門はホルスターから警察官に付与される、リボルバー式の拳銃、SAKURAを取り出して、男に向ける。


「両手を上げて、膝を付け。そして、その子を離せ」


「一場・・・・・・あんた、人質がいるんだよ! 何やってんの!」


 三塚は亜門と男の相互を見続けているが、男は限りなく、動揺していた。


 そして、亜門は明後日の方向に拳銃を撃ち始める。


 弾丸は男のこめかみを通り過ぎ、奥にある柱にぶつかった。


「・・・・・・次は外さない」


 すると、男の顔は恐怖で固くなり、そのまま、少女を放すと、すぐに両手を上げた。


 それを三塚が確保して「午前一時五四分! 銃刀法違反で検挙!」と言って、ワッパ、すなわち手錠をかけるのだ。


「お疲れさん」


「これから、怒られるんだよ・・・・・・小野隊長の見えざる手がなければ、左遷が妥当だよ」


 亜門はそう言うと、ようやく警察無線に手をかけて、応援を呼んだが、帰ってきたのは怒号だった。


 真夏の陰惨な事件が終わろうとしていた。



 そこから、午前三時には大久保公園には大量のPCがなだれ込んで、赤色灯の灯りの中で、公園内に多くのサッカン、外では野次馬が多く入り乱れる光景が広がっていた。


「お前ら、応援を呼ばないどころか、発砲をしたそうだな?」


 親父の大塚が怒りを露わにしながら、こちらに詰め寄る。


「何故だ! 答えろ! 一場巡査!」


 仕方ない、答えるか・・・・・・


 その後の処遇は小野隊長任せだろうな?


「マル被は警察無線を傍受していました」


 大塚は絶句する。


「何か、Amazonで警察無線が傍受できる無線機が売っているらしいですね。故にこちら側の動きは筒抜けで、捜査の攪乱も容易に出来ていたし、科学捜査の基礎的な知識があったので、それを悪用していたというのが、メシアの見立てだったんですがーー」


 それを聞いた、大塚は「だからと言って・・・・・・応援を待たずになぁ!」と怒鳴りだすが、亜門は「応援を待って、逃げられたらどうされるおつもりだったんですか? 彼女も殺されていたと思いますよ?」と反論する。


「後は発砲したそうだな? 威嚇抜きで? それと人質がいたのに撃ったそうだなぁ! えぇ!」


「最初から外すつもりでしたよ」


 亜門がそう言うと、メシアが「亜門は警察学校時代は同期の中で射撃成績ナンバーワンですよ?」と言い出すが、大塚の表情を見る限り、火に油を注いだ形となったようだった。


「確かにお前は戦闘能力と人相手の駆け引きにおいては一般のサッカン以上に秀でている。だがなぁ、組織への従順生が無いから、お前は除け者扱いされるんだよ! 射撃の腕の問題の話じゃない、銃を使ったことが問題なんだよ! それと人質がいるのに撃ったという事実が問題だ!」


 大塚の怒鳴り声が大久保公園に響く。


「署長、大声を出すと、SNSに上げられますよ」


 大塚は憤怒を顔に表しながら「とにかく、お前は新宿署から出て行け! 小野隊長に連絡して、早急に引き取ってもらう!」と言って、その場を去った。


「あんた・・・・・・オヤジ相手に喧嘩を売って、大丈夫?」


 三塚が心配そうな顔付きでこちらを見つめる。


「大丈夫ですよ、ビの小野隊長が引き取ってくれますから」


「帰るところがあるって、強いわね・・・・・・私もあんたとは離れたいわよ」


 三塚がそう言うと、メシアが「守旧派の頭の固い警察官側に付くか? まぁ、亜門みたいなクレイジー坊やには近づかない方が良いな? デカに戻りたいんだろう?」と言い出す。


「その人の心を見透かした言い方がムカつくわ」


 そう言って、三塚は亜門に「帰って、報告書。そうして、大塚のオヤジの説教を受けたら、帰る・・・・・・地域課のサイクルをこなしましょうよ」とだけ言って、PCでハコへと戻る。


 その後にハコに戻った後に知ったことだが、ジのシラベの結果、マル被の正体は池袋署の地域課所属の長井正人巡査長、44才であり、動機は昇進も出来ず、いつまでも、地域課から抜け出せずにパワハラめいた扱いを受けていたが、警察を辞めようにも待遇の良さから、辞められずにストレスだけを貯め込み、その発散のために新宿の非行少年・少女たちを殺すゲームを続けていたと供述を始めた。


 警察の捜査の攪乱は科学捜査の知識を一通り、習っていたのと、警察無線をAmazonで買った、市販の無線機で傍受していたので出来たというのだ。


 そして、驚くことに長井は極真空手の有段者だった。


 亜門が格闘戦をせずに拳銃を使ったのは結果論として、正しかったということになるが、大塚には分からないだろう。


 そのような背景があった事件だが、世間がこれを知ると、現職警察官による連続殺人事件ということで、警視庁への批判が起こり、現職の警視総監である、尾上が辞職をするという形になったが、すぐに某大手大企業の顧問に就任するという天下りが発覚して、さらに世論の反警察感情の火に油を注ぐ形となった。


 そして、亜門は周囲の好奇の目に耐えつつ、新宿署地域課での勤務を続けていると・・・・・・八月のことだった。


「九月から、警視庁警備部仮称ソルブスユニットへの異動を命じる」


 人事部監察係の警察官がそう言うと「これは約束事だから、新宿署の大塚署長も送り出さざるを得ないが、本来だったら、君のような跳ね返りは組織の害だ。左遷が妥当だが、小野隊長に感謝するんだぞ」と嫌味をさらに言われた。


「慎んで、お引き受けいたします」


 署長室で大塚と菅野が苦虫を潰した表情でそれを見る中で「失礼します」とだけ言って、同室を出た。


「戻るの? あの軍隊みたいな組織に?」


 三塚が腕組をしながら、待っていた。


「・・・・・・えぇ」


「・・・・・・元気でね」


「まだ、九月まで時間ありますよ」


「これっきりだよ、あんたとは?」


 そう言う、三塚の顔はどこか悲しそうだった。


「じゃあ、行くよ。パトロール」


「はい」


 そう言って、二人は署からPCに乗り込む。


「暑いなぁ」


「夏だから、当たり前じゃん」


 そう三塚が言うと、PCは発進した。


10


「とまぁ、こんな感じで僕の地域課時代、唯一の大きな事件が終わったんだけど・・・・・・」


 亜門がそう語った後に瑠奈は「えっ? 呆気な!」と言い出す。


「警察の捜査は大体がそうだから・・・・・・」


「あんたたち・・・・・・バカップルね。仲が良いことはよろしいけど?」


 三塚が頭を抱える。


「あぁ、それと、あんたに長井が控訴をしたというのを教えたくてね」


 マル被の長井はその後に七人を殺した罪で検察から死刑判決を求刑されて、一審では死刑判決が下った。


 しかし、長井側の弁護人はこれを不服とし、控訴を行って、二審も死刑判決。


 裁判は最高裁へと舞台を移そうとしていた。


「それは・・・・・・明らかに延命工作ですよね?」


 瑠奈が顔をしかめながら、そう言うが、手元にあるのは完全自殺マニュアル。


 亜門は「まぁ、そういう奴じゃないですか? うん、サッカンとしても無能ですし」とだけ言った。


「お前にしては辛辣な物言いだな」


 メシアが意外だと言わんばかりの声音でそう言い出す。


「僕の事件捜査はあの時点で終わったんだよ。それ以上の感情は無い」


「あんた・・・・・・前々から思っていたけど、意外と大人だよね?」


 三塚がそう言って、亜門の隣に座る。


「それと、あんたに伝え忘れていたけど、人質になった女の子の母親があんたに感謝しているって?」


「えっ?」


「言っていたよ、『周りが何と言おうと、私たちにとってはあの時のお巡りさんは確かにヒーローでした』ってさ。警察という組織でそういう奴って、一番、困るんだけどね」


 あの、女の子って、家庭内不和じゃなかったのか?


 あるいは事件後に親と和解したのだろうか?


 当時は異動のこともあったので、知ることは出来なかったが、トー横で徘徊をしていた、児童が実の肉親と和解出来るという、おとぎ話のようなファンタジーな話もあるんだなと、亜門には思えた。


 もっとも、サッカンにモチベーションは人に感謝されることに尽きるのだが。


 そう、亜門が思っていた時だった。


「一場? また、私の部下にならない?」


 三塚が唐突にそう語りかける。


 えっ?


 この人、いきなり、何を言っているの?


 一瞬、三人の間に沈黙が走る。


「お断りします」


 亜門は心の底から、そう言い切った。


「・・・・・・だろうね? あんたは私のことが嫌いだもん」


「それ以前に僕はビの所属なので」


 三塚はそれを聞くと、笑い出して「私、警部補の試験受けるから、受かったら、主任警部補とか所轄では係長クラスになるのよ? そしたら、部下にしてあげようと思ったけど、残念ね?」と言って、立ち上がった。


「時間の無駄だった。やっぱり、あんたは使えないわ。じゃあ、またね」


 そう言って、三塚は山村フルーツ牛乳を亜門から取り上げると、その場を去った。


「あっ! それは窃盗です・・・・・・」


「亜門君、変に美人限定でモテるよね?」


 瑠奈が笑い出す。


「いや、あの人は僕のことが嫌いだから」


「いやぁ? あの人、最後は笑っていたし、それに『またね』とか言っていたよ?」


 亜門は考え込む。


「だとしても、あの人の部下は嫌だ」


「モテる男は辛いね・・・・・・さっ、上で食事を取ろう。中華料理が良いなぁ」


 そう言って、瑠奈は完全自殺マニュアルを本棚に戻した。


 さっ、上の町中華で食事か・・・・・・


 そう思って、山村乳業の牛乳瓶を番台さんに渡そうと思ったら、そこの下に紙が置いてあって、三塚の連絡先が書いてあった。


「・・・・・・これはあの人、誘ってんのかな?」


「モテる男は辛いなぁ? 亜門よぅ」


 メシアの居る、スマホにデコピンをした直後に瑠奈から、尻にタイキックをされていた。


「お前・・・・・・分かっているよね?」


「えぇ、丁重にお断りするつもりです・・・・・・」


 彼女がいるのに女の人から連絡先を貰うから、当然のことだが、それにしても、痛かった・・・・・・


 時刻は午後六時ちょうど。


 明日は仕事だと、ふと思い始めていたが、休みの最中なので、すぐに頭の中から、その考えは消えた。


 終わり。



 いかがでしたでしょうか?


 一月五日からはリメイク作品「機動特殊部隊ソルブス完全版」を全八話編成で毎週、土曜日の二十五時に投稿予定です。


 一番最初に書いた、作品を加筆、修正した奴で、テレビで言う、新規カット付きの再放送的な奴ですが、これから初めて、私の作品を読むという方ももう読んだよとという方も是非、ご拝読を頂ければ、幸いです。


 そして、四月には最新長編作「機動特殊部隊ソルブスアサルト」の連載開始を予定。


 現在、執筆中ですが、果たして、どうなる?


 引き続き、皆様の熱いご拝読をお待ちしております!

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― 新着の感想 ―
面白かったです! 左遷覚悟で女の子を守った亜門さんはヒーローですね! 三塚さんや瑠奈さんといった個性的なキャラも好きで、続編も読みたいと思いました。
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