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勇者が魔王を倒したハッピーエンドのやり直し。やっぱ初見の方がうまく行く?  作者: 綿木絹
第五章 世界を救うのは〇〇である
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第75話 レプトの秘密

「レイト…さんでしたっけ。女性だとお伺いしました。けど…、そんなことをするなんて最低ですよ、ダーマン」

「そ、そんなことを言わず、引っ張って欲しいでござる」


 黒髪の少女と灰色の狼男のじゃれ合い。

 彼女はここに来ていないし、ダーマンも見た目も能力も人間と変わりなかった。

 そもそも髪の毛を剃っていた。


「ほんと、楽しそうでいいなぁ。二人とも」


 レプトは申し訳なさそうに枝を撫でながら、下に居る二人を睨みつけた。

 いや、特に一人を睨んだ。穴があったらの発想を、穴があったら入りたいに変えて欲しい。

 あれ?彼はそれを体現しているような…


「レイトさん。…本当に申し訳ない。それにしてもエリス山の様子がおかしい。おかしすぎる…。アレってどう見ても」


 いつか話した通り、迷いの森の中央はトレイ地区と呼ばれており、神樹レイトの葉で覆い隠されている。

 エルフにとっては守り神だが、今は不在。

 レジスタンスは魔法使いの家の周辺にいるので、ここには来ていない。

 というわけで、レプトは罰当たりにも神樹に登らせてもらって、これから先のことを考えている。

 それにこの神樹に何かをするのは間違いない。

 その時にもしかすると女神の剣が露わになる。

 レプトはその女神の光剣を掠め取って、勇者に届けなければならない。

 それがグングナルとの約束だった。


「女神の光剣なら、オズワルドを滅することが出来る筈。だけど、女神の光剣は過去にオズワルドが使った剣。アイツに見つかったら、絶対に手にしてしまう。ってことで、ここに居座るつもりだったけど」


 高い場所から監視をする予定だったけど、そこから見えたエリス山がおかしい。

 至る所で噴煙が上がっている。ドラグーン島なら納得だが、エリス山が噴火した記録は残っていない。

 アレはエリスの力を封じるために作られた岩の壁だ。

 それにドラグーン島も、古龍の力で噴火しているだけだ。だって、対になるのはアリス島なのだから。


「どうするかな。…って言っても、ここを動けないってのもあるし」


 女神の恩寵が戻ったなら、アークは立ち向かう筈。そして、その時に女神の光剣を握ってもらう。

 それが今の段階で考えられる、最も現実的な勝ち筋だった。

 だってアレは魔王核を手放した。だったら女神の剣で消滅させたって問題ない。

 世界をどうするかは、その後で考えれば良い話。


 ポロ…


「な…」


 実際にはそんな音はしていない。


「レプト殿‼抜けたでござる‼ポロっと抜けたでござる‼リン殿に抜いてもらったでござる」


 なんて言っている奴が下に居ても、そのポロではない。

 エリス山の先端の一部が、ポロっと欠けた。

 そして、数十秒後に


 ドゴォォォオオオオ‼‼


 と、ポロではない轟音がレイトの木の上に届けられた。

 アレだけ離れていても、枝もゆさゆさと揺れる衝撃波と一緒に。


「レプト殿‼今の衝撃波なんでござる?また、拙者。入ってしまったでござる」

「もう‼なにやってんですか‼先生、一体何が?」

「知らないよ。…エリス山が崩れるとか、俺が来た世界じゃ起きていない。…ま、いつかそうしようとは思っていたんだけど」

「え?それはどういう…」


 前の世界でアークと共に語った未来。

 共に手を取り合う道なら、あの壁は要らないと話したことがあった。

 だけど、それは今の世界でじゃない。


「何でもない。…今起きているのは多分、魔物同士の戦いだ。で、間違いなくアレが絡んでいる。…って、また揺れが」


 ただ、今度はドンとお腹に響く音ではなく、ガサガサガサと葉が揺れる暴風の方。

 そして、目の前にはあの二匹のレア種魔物が現れた。


「ニャ‼レプにゃ、さっきの言葉は本当かニャ」

「この事態は起きていない…と」


 紫の風に乗って、先に枝の上に乗ったのは白金猫の方だったが、様子がおかしい。


「…あぁ。んで、一体何をしに来た。魔王様復活を祝ってのあいさつ回りか?」

「おお、ミーア殿。プルたんはいずこに…」

「あ、そういうこと言うんですか。やっぱりこの男…」

「あ、いや。それは…違…」


 下の二人はさておき、レプトはうろんな目を二匹の獣に向けていた。

 理由は勿論、二匹の魔物から殺意を感じるから。


「そう…、アンタにはそう見えるのね」


美鳥の紫晶暴風(アメジスト・ソーサー)


 突然の魔法攻撃に神樹レイトの枝葉が、レプトの代わりに切れる。

 こんなところに自分がいたからと、鳶色少年は「ごめん」と囁いて、大樹から飛び降りながら、偶々持っていた小さなナイフを白金猫の方に投げつける。


白金猫の白雪回転脚ニャン・ホワイトプラチナ


 だが、そのナイフは弾かれて、更に猫キックまで飛んできた。

 その蹴りは流石はレア種のもの。しかも、魔王の加護も十分に熟しているから、途轍もない力に変わっている。


「ぐへ‼」

「先生、大丈夫ですか‼」

「あぁ。偶々、ダーマンが居たから助かった。…とはいえ、これは不味いな。二人とも逃げ…」

「…いやいや。某は逃げないでござる。プルたんが何処に居るのか、教えろって言ってんだろ‼」

「って、毛が伸びた。それが本物の人狼かよ。でも、リンの前で言うセリフではないんだけど」


 魔王軍の中で何かが起きている。

 何か、なんて大体想像がつくけれど、やっぱり聞いておかなければならない。


「プルはいない。それにガロも。ズーズもか。人質にでもされてるのか?」


 空気が揺れる。

 そして、レプトが持っていたカバンがスパッと切れる。


「煩い。分かっているなら早く教えなさい」

「教えて欲しいって言ってんのはこっちだろ。ミーア、お前は知ってんだろ?」

「何にゃ、この狼。お前のことなんてウチは知らないニャ‼」


 灰色狼が白金猫に向かって走り出し、そこに主を切られたと魔樹がワタワタと集まって、獣らしい戦いが始まる。

 そして、美女鳥ハーピーの目線はレプトに注がれるが、その少年は違う方向に視線を泳がせた。


「リン。お前は手を出すなよ。周囲の警戒だけしてくれ」

「え…。はい、分かりました。先生」


 クナイを投げようとしていた少女。

 それに気付いたモーラは得物を彼女に変えようと飛び立つ。

 だが、残念ながら


「く…。何なのよ、この木」


 ハーピーと魔樹はとても相性が悪い。

 一方のダーマンとミーアは魔樹の特性を利用して、華麗な舞踏を披露している。


「元々、トレイ地区は。いや神樹がここまで大きくなったのはハーピーに対抗するためだ。知っている筈のお前がここに来てるってことは、かなり不味いことになってるんだな」


 二体だけなんて考えられない。

 それらは間違いなく、魔樹とアシュリの葉に苦戦している。

 だからレプトはここで待機していたし、それを知っていても彼女達はここにやって来た。


「そうよ‼だから、早く教えな‼」

「先生。この鳥は何を言っているのです?」


 今なら、たった一人でトレイ地区にいる勇者パーティのリンだけでモーラを滅することが出来る。

 それくらい不利な状況の美鳥。羽を広げたら枝にはたかれるし、枝にとまろうものなら弾かれる。

 女神の光剣は、魔物の暴走を止める為にあるらしい。

 それが隠された場所なのだから、魔物に対して特に厳しい場所である。


「俺を襲えとも命令されてるんだろう。だけど、一番の命令は四天王を探せ、だ」

「四天王…?」

「そうよ。四天王を連れて来れば、ハーピー族とキャット族の人質が解放されるのよ。そこの人狼‼アンタのお目当てのプルも」

「人質にされてるニャ。だから、お前もレプトを襲うニャ‼」

「な…んだと?プルたんが…人質…に…」


 そこで人狼ダーマンの動きが止まる。両腕が跳ね上がる。

 そして…、ぐしゃぁぁあぁあああっと爪が食い込んだ。


「…なるわけねぇよなぁ。あのプルたんだぜ?なぁ、レプトの旦那ぁ」

「間違いないな。あのプライドの高いミアキャットが人質にはならないだろ。ってか、そのやり口はベルゼルスギルスが好きそうだな」


 レプトが引き裂かれた魔樹に、ゴメンと言いたげにポンポンと叩く。

 すると、そのお返しにと、


「ニャ‼ウチじゃないニャ‼」


 魔樹がミーアに向かって反撃をする。


「でも、本当だニャ。ここに住んでたエルフが皆、あの男に夢中だニャ‼」

「ミーア、あまり喋らないようにって言われてるでしょ」

「ニャ…。でも…、四天王を連れて帰らないと…。みんな、あんな感じに…なっちゃうって」


 Brrrrrrrrrrrrrr…


 そして、ここで先ほど切られた方ではなく、背負っていたリュックが激しく、そして小刻みに揺れた。


「ちょ…、タイミングよく今目覚めた?…ったく、そんな訳ないか。相変わらず仲間想いだな」


 そもそもレプトは知っている者なら誰でも知っている、キッザ・ギャスターのリュックを背負っていた。

 遥か昔に誰かに作ってもらったという話は、前の周回でギャスターから直接聞いている。

 とは言え、この鞄は彼自身と一体化していて、彼が死ねばこの鞄も無くなる。

 それも前の周回で聞いたことだ。だけど、こういう話で最初に動くのは


「レイネリア、ちょっと待ってろって」


 その言葉にモーラとミーアは声を殺した。

 そして、ジッと少年の動きを観察する。


「大したことはしないって。お前たちの想像通り、俺が持ち歩いてたってだけ。どこかに隠しても、小物モンスターなら直ぐに見つけてしまうし」


 これがオズの望みかどうか。

 やり口はベルゼルスギルスのモノだから、やっぱり彼は協力しているらしい。

 そんなことを考えながら、リュックに手を伸ばした少年は


「ん?」


 と首を傾げて、小さな人形を鞄から引っ張り出した。

 すると同じく、鳥も猫も首を傾げた。


「どういうつもりよ。そんな人形を出して」

「さっきのは演技だったのかニャ。それともそんな趣味が」


【レプト、力を込めて——】


「ニャ。魔法かニャ‼」

「人間、何をするつも…」


 モーラも身構えたが、少年の人差し指が彼自身の唇に当たったのを見て、何をするつもりかと押し黙った。


「ん。そういうものなのか。流石に眠りに就いた姿は初めて見たからな。でも、言われてみると、そうなのかも。魔王は正規の目覚め方をしていない。んで、やっぱり四天王って」


 女神の恩寵は持っていないし、流石に女神の恩寵を受け入れるとは思えない。

 それなら、ここはやっぱり


「出し入れってことだよな。女神の恩寵を使ってる感覚で…」


 アークに言われて気が付いたが、冷静に考えればその通り。アシュリーはノーラの力を二つに分けているのだから、アリスの力もエリスの力も元は同じもの。

 そして、徐々に光を帯びる少女の人形。

 眩しいくらいに光った後、赤いドレスの少女がスカートの裾をちょこっと摘まんだ姿で現れた。


「…ふーん。やれば出来るじゃない」


 と、元人形が喋り、モーラとミーアは目を剥いた。


「え?」

「どういうこと…ニャ?」

「見たままよ。アナタたちは魔王核の覚醒で目を覚ましたみたいだけど、アタシ達は駄目みたいね。レプト、これってつまり」

「やっぱ、そういうことなんだな。四天王は魔王核ではなく、ブーザーの為に作られた神造人間(ホムンクルス)。で、だからこそオズワルドは四天王の体を調べたいんだ」

「そうね。彼、自分の体が脆いのにイラついていたしね」

「ってことだよ。四天王は渡さない。モーラとミーアも、あの男が作る世界は嫌だろ」


 とは言え、それくらい察しがついていてもおかしくない二人。

 やっぱり、この程度では引き下がらない。それどころか


「何を言ってるの。アタシ一人で済むなら、行くしかないでしょ」

「え…、そんな」

「来て…くれるニャ…?」

「当然よ」

「下手したら解剖されるぞ。二度と元に戻らないかもしれない。アレは前の時代の方が好きらしいからな」


 但し、ここで。

 レイネリアは何とも言えない顔を、少しだけ憂いに満ちた顔をレプトにだけ見せた。


「…ついてきて」

「は?いやいや、俺が行っても全然」

「…隠しても無駄よ、レプト君?自分でも気付いているんでしょう?自分の体の特異性に」


 前の話で登場した、レプトの特異な性質。

 一番最初かはさておき、この世界で見出したのはレイネリアである。

 だから、彼女の口で彼に問い質すのが筋だろう。


「…えっと。それってあの事?」

「そ。あの事」

「でも、アレって特異性なのかな。単なる偶然じゃ…」

「その…」

「その?」

「その偶然が何回起きたの?」


 流石にここまで来れば、75話までくれば単なる偶然では済まされない。

 いや。それ以上か。


「前の世界も合わせて、何回起きた?偶々って何回言ったの?」

「前の世界…。いや、そこまで言われたら数えきれない…けど。だけど」

「そう言えば、モーラとミーアは最初の頃に彼に会っているのよね」


 レイネリア相手だから、素直に頷く二匹。

 とは言え、その意味は分かっていない。


「先ず、子供のレプトが生き延びられたこと」

「いや。前の世界は本当に運が良かっただけだし。今回は食べ物で取引したし」

「その相手がモーラとミーアだった。で、二人はなんて思ったの?」

「なんて…。って、特に何も?」

「食べ物を貰えるなら、何でも…ニャ?」


 その本人さえ、こんな感じ。だけど、それはとってもおかしなこと。


「そこの人間を殺せば奪えるのに、どうしてそう思ったのよ」

「…それはモーラがそう言ったからニャ」

「私?私は…、どうしてだったかしら。こんなことになるなんて考えていなかったから、覚えていないわ」

「…って、ことでしょ?レプト君」

「うー、それは今思えば理論なんだけど…」

「つまりモーラもミーアも偶々、それで手打ちにした。似たようなことが何回もあって、それが習慣になってしまうくらい連続。それも偶然?」

「ぐ、偶然…」

「その時に欲しいものが、必要なものが、その直前に偶々、持っている人間が落として、偶々そこに居たレプト君の唯一の異能、ポケットに転がり落ちるのも偶然?」

「うぐ…。ぐ、偶然…、それか俺の手癖…かな」


 さて、本当に手癖の悪さだったのか。

 だけど、一つ言える。


「大きく歴史は変わってしまって、この先は何も知らないんでしょう?それなら、レプト君が今もキーパーソンになっているのも偶然なわけ?」

「それも知らないって。キーパーソンかも分からないし」

「でも、その数えきれない『偶々』は、とっても凄いことなの」


 レイネリアはそんな彼を見込んで、お願いをしている。


「…だから、ついてきて。レプト君が持っている運でアタシを守って。四天王の残る三人もその運で守って」

「守る…のは守る。運で守るかは分からないけど、それに…。オレの未来には四天王は全員生存が欠かせないから」


 欠かせない。

 つまり欠かせない。

 だから、欠かせない。


 そして…、もしかしたら——


 と、それは置いておいて、ここでネタがバレてしまったらしい。


 つまり、レプトが持つ一番の力は、…豪運である。

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