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勇者が魔王を倒したハッピーエンドのやり直し。やっぱ初見の方がうまく行く?  作者: 綿木絹
第五章 世界を救うのは〇〇である
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第73話 魔樹蠢く森で気付く

 レプトはひた走る。

 あの白黒男は四天王に固執していたから、きっと追ってくる。

 どうして四天王に拘っているかは分からない。


「でも、単に魔王直属の配下って意味じゃなさそう…。それに…。多分…」


 魔樹が蠢いている迷いの森。

 いつしか話したように、神樹レイトの影響下にある。

 彼女の体である大樹全体が、魔王核から発せられるエリスの力のサブタンクになっている。

 だから、この辺りは魔物が魔物として活動できる。

 と言っても二千年を保たせるのだから、供給量はそこまでない。

 保有量ならグングナルの方が圧倒的だが、それはレイトが違う役割も担っているから。

 それは勿論、女神の剣の管理。


「過去の記憶をある程度取り戻した…って考えるべき…だよな。だったら、必ず」

 

 そして、スッと風が切れる音。

 ブラフをかまして逃亡したのだから、イラッといているに違いない。

 捕まるわけにはいかない。だから、少しでも気配を悟られぬように、迷いの森の中央に向かう。

 ただ、やはり。直ぐに来たか。


「まだエルフはいない…な。ってか、女王を含めて何処にいった?ドラグーン島にはいなかったけど」


 トンッと魔樹を蹴ると、敵対行動と見做されて幹が捩れ、枝葉が攻撃を仕掛ける。

 前の世界でも何度もやった逃亡術。あの時はノノを守る為にやったんだっけ。

 すると、追ってきていた影が枝葉を避ける為に軌道を変えた。

 そこでレプトは宙返り、そこでも枝を蹴って更に加速。

 後方へ飛んで背後を取る、なんて格好をつけているが、この動きはガロの得意な動きだ。

 彼は今、獰猛なネコ科の動物に戻っているのだろうか。

 共生の未来から来たから、その辺りは詳しくない。


 ドン‼薄暗い中、背後から押し倒す。この程度でオズワルドはやられると思えないが…


「ひ」

「レプト殿‼止めるでござる!」


 今回は人違いだったらしい。全然白色の要素がない。


「あれ…、リン?てっきりダーマンと一緒に逃げたのかと思った」

「い、今…、殺されかけた…。やはり、さすが先生です」

「ってか、ダーマンは大丈夫なのか?この森にいたら、魔王の加護の方が勝っちまうだろ」


 女神の恩寵もまだ残っているのかもしれないけれど。


「ぬ。やはり気付いていたでござるか」

「結構前から。でも、俺が知ってるお前じゃない。前は殆ど人間にしか見えなかった。だけど、今回のお前はただの化け物だよ。なんで四天王の茨地獄に血だらけで快感を覚えてるんだよ」

「…え。やっぱり変態…」

「な、何を言ってるでござる。拙者は…」


 一体全体、何が起きているのか。一先ず、少しだけマシに見える坊主に半眼は向けるものの、ここに居ていいのかが分からない。

 いや、何処に行けばいいのか分からない。


「まぁ、いいよ。繭状態になるまでは見てたろ。んで、結果は中途半端に最悪だ」


 リンは先生の言葉に目を剥いた。

 絶対気付かれないように、と息を殺していたのに、どのタイミングで離れたかまで見られていた。


「偶々、目に映っただけだから、隠密が下手ってわけじゃないぞ」

「う…、はい」

「拙者の気分が悪くなっただけにござる。リン殿は…」

「逃げていい。ここは逃げる場面だよ。俺だってそうだし」


 プ…


 妙な音。いや、空気の擦過音に男二人は違和を覚えて少女を見下ろす。

 ただ、その少女は少し笑っていた。


「フフ…。いえ、済みません。逃げるなんて、そんな。って、そういう意味の笑いでもありません。ダーマンさん、レプトが面白いって言ってたけど、ただ懐いているだけじゃないですか」

「あ?そんなことあるわけね…。ないでござる。拙者が愛するのはマイ女神…。いや、これ以上嘘は良くねぇ、ないでござるな。レプト殿は、四天王さえ仲間に引き込む男でござるからして」

「いや、仲間っていうか面白がってついて来てるだけ…」

「そう。それが重要に御座る。何か変わったことをしてくれそう。長寿命の存在にとって、それが何よりの美味」

「お前、何歳だよ」

「覚えて御座らん。以前も話したでござろう。拙者は魔物に面白がられて育てられたと」


 確かにそう言っていた。

 差し詰め、前の世界ではアークに懐いていた、というところ。

 あの時は人間にしか見えなかったけれど、アークは知っていたのだろう。


「それに先生は立ち向かわれた、と。マリア様から聞きましたよ。かなり狼狽えていましたけどね」

「え…。マリアたちと会ったのか」

「はい。先生なら大丈夫…と、一応言っておいたのですが、本当に無事で何よりです。でも、勇者様を逃がす為にお一人でとは流石に無謀です」

「女神の恩寵の欠落が想像よりもずっと早かった。俺しかまともに動けなかったってだけ。それに偶々、グングナルの炎を持ってたし」

「全く…。また、盗んでいたのですか?」

「いやいや。今回のは盗んでない」

「今回の…って」


 黒髪の女が白い目を向ける、が今回のは本当。

 という意味ではないのだが。


「それよりレプト殿。この後、どうするか考えておるのでござろうな?」

「俺の話?それとも勇者の話?それともオズの話?…俺についてはノープランだぞ。こんな非力で何が出来るかって話」

「そうでござるか。しからば、拙者もどこか遠くへ逃げ…、なんていうかよ。お前の顔には、まだ何かやりたいって書いてあんだろ?」

「って、どした?その喋り方…。坊主にあるまじき言葉遣い…、って‼髪の毛が生えてるし‼それやったらお前のアイデンティティが無くなって表現しきれないだろ‼喋り方とか、誰が何を喋ってるとか‼」

「はぁ…。何目線のツッコミか分かりませんが、ダーマンさんには森の中で待機をして頂いてました」

 

 誰目線のツッコミかはさておき、迷いの森の意味を再確認させられる。

 そもそも、エルフという魔族はアシュリの葉に耐性を持っただけ、という昔のお話。

 とは言え、エルフが住み着いたことにより、レイトの仕事が減ったとも言えるから、現在は共生に等しいのだが。


「狙ってないけどそうなるだろうって考えくらいはある。って、そう言や。アークは大丈夫…だったか?」

「…それは…その。ノノちゃんとマリア様が支えては居ますが…」


 汚れてしまったと言われ、封印にも失敗し、更には勇者の証である女神の恩寵も消えかけている。

 精神的に無事な筈がない。


「申し上げにくいのですが。多分、駄目…だと思います」

「いいんじゃあねぇか?逃げてもいいってレプトが言ったんだろ?」

「マジ、喋り方…。いや、今は良いか。でも、勇者が逃げて良いってことはない」

「そういえば、先程も先生は自分か、勇者か、オズかと聞かれていましたよね」


 そうなる。一見すると当たり前の質問。なんでもない聞き方だが、アークは既に元がつく勇者ではないのか、と言えなくもない。

 だけど、これはレプトにとって分かりきっていること。

 ここまで来た以上、確信よりも決定に近い。


「オズワルドは、俺を追おうと思えば追えた筈。そしてあの場から勇者は東に逃げた。リンは後ろから来たんだから、オズがいた場所を通ったことになるが…」

「あそこは血の匂いが漂うだけの、ロージン地区のような場所になっていましたよ。北に向かったという目撃者も居ました。だから、私はてっきり先生が北へ誘導したのかと思ってましたけど」

「いや。北に行っても何も無いからな。こっちならさっきみたいに魔樹の応援が期待できるし。そもそも方向的に北は無理だ」

「あ?オズが向かった場所?んで、勇者が関係するってことはよぉ」


 流石に坊主頭ではない坊主も気付ける。

 しかも、これさえも場合によってはあり得なかった。


 つまりオズはアリスとエリスの生まれかわりの存在に気付いていない。

 そして、ノノを女神の巫女だと思っていて、中途半端な記憶の復元を行なっている。


「次の勇者が生まれる場合、時間が経ってるから、別の勇者が認定される。ま、その場合は勇者が死んでるからなんだけど…」


 コクコク、ふむふむと二人。

 流石に勇者常勝が本当のことだと思うほど、お花畑な思考ではない二人。


「でも、アーク様は生きていらっしゃいますから、やはりアーク様がそのまま…」

「いや。その答えでは不十分なんだ。勇者の存在は徹底的に探される。逃げたとしても勇者は勇者だからな。それに一応逃げない勇気を持つ者が勇者になるって話だし」

「ん。どこが不十分なんだ?だったらアーク坊っちゃんで決まりだろ」


 恐らくそう。だけど、あの速さで減退しているとなると。


「いや。十分じゃない。魔王が封印された後に女神の恩寵がなくなる。表面上は変わらないんだ。女神は魔王の覚醒を確認した後に、勇者を誕生させるから」

「え…。でしたら、女神の恩寵なしにあの化け物と戦え、と?」


 それもある意味で正解。勿論、アシュリーの心が健全ならの話だが。

 だけど、今回は異例なことだらけだ。


「アークも言ってた。長命故に時間の感覚が薄れるって。そしてオズワルドの目的がアシュリーにあることは間違いない。ってことは…」


 多分だけど、オズワルドもあそこでの魔王核の除去は考えていなかった。

 あの程度の女神の恩寵で、勇者が魔王の封印を試みるなんてあり得ない。

 だけど、思いついた。目の上のたんこぶだった、魔王核の除去が出来そうだと考えた。

 その思いつきが故に、追ってこれないとしたら。


「…間もなく、魔王核の封印が解かれる」

「え?っていうことは勇者の選定が行われる?」

「だから大急ぎで準備している筈だ。理の女神(アシュリー)が別の勇者を選ばないように」


 アークの中身がアシュリーお気に入りのスライムだから、間違いなく次にもアークを選ぶ。

 本当にそう言い切れないから、オズは追ってこない。

 別の勇者を選ぼうものなら、別の女神の巫女が現れたなら、とってもとっても面倒臭い。

 思いつきで魔王を封印してしまっただけに、かなり焦っているだろう。


「因みにリンは…」

「ほんの少しですよ。アーク様は私なんか」

「何言ってる。お前には俺がいるって言ったろ。だから、ほら。俺のワンワンを。お、お、お、おおおおおおお‼いきり立ってきたぁぁぁぁああああああ‼」


 どうやら予想通り。

 坊主じゃなくなった坊主のワンワンが、途轍もない邪気の到来を隠喩、陰喩している。


「ほんと、お前は楽しそうでいいなぁ。俺もお前のワンワンで魔王の目覚めを知るとは思わなかったよ」


 あとは彼女の方。

 運良く、観察対象が揃っている。

 ただやはり、彼女は自信なさげに俯くばかり。

 うつむいた先のワンワンを見ているでもなく、彼女は虚空を見つめている。


「大丈夫だよ、リン。俺もよく考えてみたんだが…」


 そのきっかけを与えてくれたのは、赤い女。

 ワンワンとは違って、まだ目覚めようとはしない。

 やはり、この四体は特別な存在なのだろう。


「アレは紛れもなくアークだ。リンのことは忘れていない。だって、この世界でも俺を見つけてくれたんだ。オズが目覚める前に。ま、俺とダーマンは素行が悪すぎて、仲間認定出来ない…。あ、もしかしてダーマンは前の世界でも仲間にはしてなかった…のかもだけど」

「はぁ?どうしてだよ。俺様はこんなに強えんだぜ?」

「この世界みたいに曖昧じゃなかった。お前が人狼だと、アークなら見抜けてたし…」


 成程、やはり勇者がいないと話が進まない。

 それくらい女神の恩寵は便利なもの。それくらい莫大な力を持っているもの。


「前の世界で女神の恩寵を受けると、お前のワンワンは潰れるんじゃなくて破裂してるぞ」

「な?は、破裂…って冗談きついぜ、レプトの兄貴」

「誰が兄貴だ。ってか…」


 だから、ノノを置き去りにしたのが前回だった。

 それくらい、キッチリと二つに分かれていたのが今までだった。


「それがどうして…。オズが入り込んだだけで、アシュリーが迷ってるってだけで…」


 やっぱりおかしい。これはあれと同じ感覚だ。

 魔物に食べ物を捧げた時に世界線を変えてしまった。

 とか。

 そんな、おこがましいことを考えていたのと同じ。


「違う理由が存在する…?でも、それって」


 待ち時間の間に考えていた。

 とは言え、リンにとっては気が気ではない時間だったろう。

 だけど、やはり


「先生、来ました!私にも‼この感覚は間違いありません、女神の恩寵です!」


 アークはアークなのだ。どうやら、それは間違いないらしい。


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