【第1部:世界がひっくり返ってもあなたのもとへ】第6話「詠雪の才」
「せんぱーい、ゲキドクってなんですか?」
「劇物及び毒物討伐者もしくは討伐組織のことだよ。ちなみに劇物とか毒物というのは化物のこと。第1話の最後にちょろっと出てきたっきり全然説明がないから、この作者不親切でクソだね!」
──第6話「詠雪の才」
劇物及び毒物対策本部討伐課第一課、応接室。
「話が違うじゃないですか!(薫、ブラウン系のカジュアルスーツ。柑橘系の小声)」
「おっさんに言ってよ!(西羅、いつも戦う時の格好。小学校の休み時間レベルの大声)」
「なんで私まで……(東蓋、制服。素敵な小声)」
コンコンとドアを叩く音。ドアが開き、200cm超えの紳士が部屋の中に入る。紳士は三十歳くらいで茶髪はパイナップルの葉のように硬く、広がっている。青系のスーツを着用し、腕からは高そうな時計がちらりと見える。
「あれ、ダンボじゃん!」
どうやら西羅と東蓋は彼を知っているらしい。
「ご無沙汰しております西羅嬢、東蓋嬢。ゲキドク一課のダンボと申します」
時間を遡って回転寿司店。
ネタしか食べない西羅はシャリを薫の皿にのせながら薫に話しはじめる。
「あの女医サンキューが公共とグルって言ってたのは覚えてる?」
「白衣サンキューだったっけ。そういえば言ってたなぁ」
納豆巻きをむしゃむしゃと食べていた東蓋が会話に加わる。
「もしかして魄飛天泣ですか? えっ、公共と化物ってやっぱり裏でなんかしてるんですか?」
「最近、王族騎士団が解体されて公共ゲキドクに異動になった人たちがいるでしょ? そのあたりが怪しいと思うんだけど……、おっさんはどう思う?」
社長はイクラをひと粒ずつ箸でつまんで食べていた。
「おじさんも王族騎士団の解体には何か裏があると思うよ。確かに王族なんてほとんど形だけのものだけど、まだ存在してるからね。存在している以上、それの護衛にあたる組織が解体されるのは妙な話だよ。でもそれと今回の話が繋がっているかはまだわからないなぁ」
「あの、社長……」
薫が申し訳なさそうに社長の方を見る。
「なんだい薫ちゃん。おっ、話についていけてないって顔だな! よしよしおじさんがちゃーんと教えてあげる」
「それもあるけど……、もしかして社長もシャリ食べない派?」
「そうなんだよ薫ちゃん、よく気づいたね! 最近血糖値とか気になっちゃって、よかったらシャリあげるよ!」
「えぇ……」
社長が西羅に湯飲みを渡し、西羅がお茶の粉末とお湯を入れる。
「てことでおっさん、調査のために二課に行きたいんですけど。もちろん建前はデコポンの勉強、見学ってことで」
「おじさん二課に知り合いいないからなぁ。一課の人に聞いて二課の見学できるか確認しとくね!」
「二課に行くんですからね! わがまま傲慢クソ野郎軍団の一課じゃないよ! 間違えないでよね!」
「もちのろーん!」
話を戻して応接室。
「久しぶりダンボ! すっげー似合わないね」
「お久しぶりですダンボさん、二度と東蓋嬢なんて呼ばないでください」
「そんなこと言わないでくれよ、ふたりとも! 頑張って着飾ってるんだからよ」
「そうか、ダンボ出世したんだね!」
西羅は「そうかそうか!」と頷く。いつになく機嫌がよさそうだった。
「このオレンジ頭が今回見学させていただくデコポン!」
「樹神薫と言います」
「初めまして、ダンボです。ふたりの保護者です」
「ダンボはね、めっちゃ強いんだ! 三課にやべーやつがいるって噂になるくらい。それに仕事もきちんとこなすし、頭もいい。何より料理が上手い。えぇ、なんでクソ一課なのさ。うちに来な──」
「悪かったなクソ一課でよ!」
ドアの方を見るといつの間にかサングラスをかけたこわいヤンキーが部屋に入ってきていた。
「どこの馬の骨だか知らねーが、とっとと帰れ白髪クソガキ!」
「お前……、親から貰った大切な髪の毛をどこに置いてきたんだ!?」
「抜けてねぇ! ちゃんと生えてるよ!」
「よく見たら頭にグルグル模様が! ミステリーサークルか!?」
「美容師にやってもらってんだよ! あぁもう何だこのガキ!」
西羅はダンボの後ろへ隠れる。
「ベロベロバー!」
「クソッてめぇ!」
「やめてください画狂老人卍さん。それとも画卍るとお呼びした方がよろしいですか?」
「ダンボ! てめぇ──」
コンコンとドアを叩く音。「失礼します」という声が聞こえる。事務の女性が「準備ができました」と一同に声をかける。
西羅のクソガキっぷりを後方腕組みで堪能していた東蓋が薫に話しかける。
「薫さん行きますよ」
「一課こわいよー、やだよー」
案内されたのは円卓が置かれた会議室のような場所。ダンボと画狂老人卍が指定の席に座る。
「手前に三つ席があるってことは、あそこに座れってことだよね。やだなー」
「下座じゃん。私ら舐められてんのか」
「少なくともダンボさん以外には歓迎されていないでしょうね」
「ガキがホイホイ来ていい場所じゃねえんだけどな」
「まあまあファーレンさん、かわいい子たちをいじめては可愛そうですよ」
机には札が置かれており、そこに名前が書かれている。
以下、有能な東蓋ちゃんによるメモ。
最奥:〈光風霽月-撲朔謎離〉性別不詳、年齢不詳。黒髪ショートボブ。軍服。
奥右:〈ファーレンハイト〉イメージは獅子の王。金髪に赤メッシュ、琥珀色の瞳。騎士?
奥左:〈アリアヒロイン〉柔らかい金髪、翡翠色の瞳、白く透き通った肌、落ち着く声(1/fゆらぎ?)。
中右:〈書籍姫〉不在。
中左:〈子子子子子子子子子子子子・牡丹花下眠猫児〉着物を着た狐(?)の女の子(十六か十七歳くらい?)と抱えられて眠る三毛猫。
前右:〈閾巫女〉紫色の髪、ツインテール、幼児体型。
前左:〈画狂老人卍〉ヤンキー。名に老人とあるが若い。
手前:〈ダンボ〉デカアァァァァァいッ説明不要‼
しばらくの沈黙。
……。
沈黙を破ったのは西羅であった。
「書籍姫という方がまだ来られていないようですが」
西羅が珍しく丁寧な口調で話し始める。
「あぁ、そいつはもう死んだ」
ファーレンハイトがぶっきらぼうに言い放つ。アリアヒロインがあわててフォローに入る。
「ファーレンさん、まだ行方不明ってだけで死んだわけでは……」
「何年も姿見せてねえんだから死んだも同然だろ!」
苛立つファーレンハイト。子×12がファーレンハイトを宥める。
「まあまあ落ち着くのだ、ファーレンよ。確かに書籍姫はここ三年ほど姿を見せておらん。はぁ……書籍姫がいなくなってから一課は弱体化してしまった」
ダンボが薫にもわかるように書籍姫の能力について確認をする。
「書籍姫の能力は名を与えること。名を与えられた者は身体能力が向上し、能力や閾がより強力になる。そして何より、治癒能力がずば抜けて向上する、でしたっけ」
先程の件を根に持っているのか、画狂老人卍がダンボに突っかかる。
「向上ってもんじゃねぇだろ、ちぎれた腕生えてくるんだぞ! まぁ俺らもそれでだいぶ助けられてるから、一応感謝はしてんだ。あ、お前は最近入ってきたばかりだから名を貰ってねぇんだな。かわいそうによ!」
「お気遣い感謝いたします。ですが──」
ふわぁー。んくー。
あくびをしながら伸びをするのは、最奥の光風霽月。
「ん、あぁ来たか! 小岩井の客人よ」
しなしなになった薫が最後の力を振り絞って東蓋の方を見る。
「ねぇもう帰りたいんだけど……」
「まだ何もしてませんよ」
「そんなぁ」
光風霽月は勢いよく立ち上がる。
「皆に珈琲を用意しろ! とびきり濃いやつだ!」
三人に紙が配られる。薫が紙をひらひらさせる。東蓋は既に必要事項を書きはじめていた。
「なんだろね、この紙?」
「鼻かみじゃね?」
豪快に笑う光風霽月。
「社会見学に来たのだろう? ならば感想文を書いて提出するのだ! アッハッハ! もちろん色々見て回った後に出してくれればいいぞ!」
名前:西羅、年齢:二十歳、誕生日:1月20日、能力:机
名前:樹神薫、年齢:十九歳、誕生日:10月23日、能力:花
名前:東蓋、年齢:十八歳、誕生日:11月22日、能力:書道
「東蓋さんの字うまっ! 西羅さん、机って何?」
「ちゃぶ台返し! この円卓もひっくり返してやる!」
「あははやめてよ。ってホントにひっくり返そうとしないで!」
光風霽月はニコニコと笑っている。
「とりあえず書けるところは書いたか? ならばダンボ、案内してやれ! あっ珈琲を飲んでから行けよ、アッハッハ!」
三人+ダンボ、一旦会議室を出る。
紙をみながらファーレンハイトが光風霽月に聞く。
「……なあ光風。コイツら全員ワケありか? 西羅ってあのガキ、まさかとは思うけどよ」
アリアヒロインも何か思うことがあるようで……。
「あのかわいい男の子、樹神薫っていうんですね。樹神ってことは……」
子×12は東蓋のことが気になるようす。
「わらわは東蓋という方が、少し気になるが」
光風霽月は「アッハッハ!」と豪快に笑う。
「小岩井のやつが二課に連れて行けと言ったが、こんな面白そうなヤツら、先に二課に知られるわけにはいかないだろう! アッハッハ!」
〈登場人物〉
・樹神薫:しなしなデコポン。身長175cmくらい。
・西羅:何かありそうなクソガキ。身長143cmくらい。
・東蓋:巻き込まれた長身イケメン美女。身長168cmくらい。
・おっさん:小岩井姓であることが判明した社長。身長170cmくらい。
・ダンボ:デカい。身長200cm超え。わかる人にはわかるかもしれませんが、おっさんの姓とダンボの容姿は『よつばと』パロです。
〈一課ゲキドク〉
作者はこんな名前覚えられません。有能な東蓋ちゃんのメモがなければ一瞬で忘れます。読み方だけ書いておくので意味はご自身で調べてください!
漢字の名前は『エモい古語辞典』堀越英美(2022、朝日出版社)を参考にしております。めっちゃ助けられています、ありがとうございます。ちなみに閾巫女という言葉はありません(アナグラムです)。
・光風霽月-撲朔謎離
・ファーレンハイト
・アリアヒロイン
・書籍姫
・子子子子子子子子子子子子-牡丹花下眠猫児
・閾巫女
・画狂老人卍
・ダンボ
※25年2月11日更新:「子子子子子子子子子子子子」の設定と口調を変更しました。
【変更前】
・鬼の子
・です、ます
【変更後】
・狐の子(猫なのに狐)
・だ、である
作者の癖に合わせて変更しました。
変更されていないところがあれば、教えていただければ直します。