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ゲキドク!  作者: 解剖タルト
第1章〈私はそれを識っている〉
34/36

【第5部:私だけがいない世界】第34話「アニマの脱獄」

 昔の話。それがはるか昔のことなのか、つい先日のことなのか、それは分からない。

 イデアは自らを世界に投影するために代理者を生み出した。


 とあるイデアが堂々とした態度で宣言する。

「次元を合わせるための措置として、〈代理者〉を生み出す」

 他のイデアたちが騒ぎ出し、不安と焦りが空間を支配する。

 先ほどのイデアが話を続ける。

「イデアと世界の次元にズレがあるのは、イデアと世界の均衡と独立を保つためである。だがそれは理想論であって、実際は世界それ自体が独立して存続し続けるためにはエントロピーの問題や、それ以前の人間に関わる諸問題など、解決するべき問題が多すぎる。そして世界それ自体に──多少の自然的浄化作用や諸問題に対しての抵抗力があるとはいえ──これら諸問題を解決する力は全くないと言って良い。世界が崩壊すればイデアとて無事では済まない」

 そうは言っても、と不安を口にするイデアを制し、彼は力強く話す。

「イデアが先か世界が先か、それは問題ではない。世界を生み出した者とイデアを生み出した者が違うことが問題なのだ。ズレを前提として組み立てられた〈構造〉が流動的でありながら、それぞれに「独立」を求め、かつ両者に「距離」と「関係」を求めれば、そのズレが大きくなったり独立が維持できないほどに近づきすぎたりすれば両者の関係性は決壊し、どちらかが破壊されればもう片方も共倒れする。我々を維持するための構造自体がもはや安定性と秩序を欠いている欠陥構造であることは明白だ」

 もはや彼の主張に反駁する者はいない──否、初めからそんな怖いもの知らずの者はいなかった。

 彼は不敵な笑みを見せた。

「代理者はいわばイデアと世界の“間”であり、イデアと世界が緩やかに接続するためのネットワークの役割を果たす。代理者は我々のことを知らないし、我々は代理者を必要以上に操ることはしない。あくまでも彼らの意志で動いてもらうよう仕向ける。だがいずれ、彼らは自らをイデアにするべく動き出すだろう。そうなれば我々の実験は成功だ。代理者がその器で満足するような者たちであれば、我々は彼らを処分するであろう。代理者が我々に歯向かうのであれば、我々は彼らを抹殺するであろう」

 彼は自らをオール・オーダーと呼んだ。

「これは干渉ではなく交渉である。世界の創造ではなく、世界を維持するための秩序機構(オールオーダー)である」


 ***


 物語は複雑に枝分かれし、各々がそれぞれの時間を生きる。彼ら全てに焦点を当てるのは、そこに共通の目的があるからである。

 目指すべきところはすぐそこに。来るべき奇跡の名を私たちは識っている。それは、信頼と贈与、すなわち代理という。

 ここから物語は転回する。


 ***


 結局のところ、我々は結論を先延ばしにすることで生きながらえている。先延ばしの結末としての“静かなる滅亡”は、しかしながら、既に我々の道の先に見えている。見えているからこそ、その光景をかき消そうとする。

 我々はもはや未来に希望を見出さない。希望で穢れた手足と頭蓋は清潔な部屋で微笑む横たわった失望を知っている。そこにある涙でさえ嘘っぽくなってしまったら、もうおしまいだ。

 足掻いても何も変わらないのであれば、もう壊すしかない。先延ばしにしていた結論を、速度という尺度によって我々の前に叩きつけ、滅亡から静けさを奪う。ざまあみろ! この世界は音を立てて崩れ去る。そして、じきに新たな世界がつくられる。世界の次につくられるのは世界である──世界以外のものがつくられることはない。

 と、ここでひとつ解釈を変えてみよう。結論を先延ばしにしたとして、我々はその結論とやらを本当に知っているのか。静かなる滅亡が幻想だとしたら? 我々は既に知っている、結論は変えられると。知っている上でそれを壊そうとするのは「逃げ」だということも。思考放棄の先には清く美しい静かなる滅亡がある。だが我々は人間だ。人間は思考の先に分岐を見つけ出す。滅亡以外の道のり、その成れの果てに別の滅亡があったとしても、成れの果てのその先に何かがあると信じている。信じることと考えることは違うようで結構似ている。そこに、歩み続ける意味がある。

 破滅への願望を乗り越えて、我々は別の解を見つけ出す。そのための準備、方法は、実は既に用意されている。それを実行に移すのみ。敵も味方も欺いて、ただひとりのためだけに動く。その成功は祈りのなかに。そして、鼓動する。


 ***


 小寺優香の祖父、小寺直人が生贄としてバベルズの安楽椅子に座っている。彼はイデアと世界を隔てる門の門番の役割を果たす。

 彼は誰かと話をして考え込んでいる。

「何人たりとも通ってはならない、とされているのだが、なるほどその方法はグレーゾーンだな」

「そうだろう?」彼女はへへっと笑う。

「つまりはイデアが代理者を生み出したのと同じ方法を使うわけだ。確かに投影=代理であれば、“それ自体”が門を通るわけではないからな。それでゆうを助けられるのであれば何とか誤魔化してみよう」

「ありがとね、寺じい。優香ちゃんも喜ぶよ」

「お姫にはかなわねぇなぁ!」

「いや、これを考えたのは私じゃあない。前話した樹神の青年だよ」

「ほぉ、あの青年か! 元気しとるか?」

「そりゃもう元気すぎて、今頃世界一周でもしてるんじゃないかな」

「それは何よりだ」

 彼女は手を挙げる。「じゃ、私は次のところ行くから」

「おう、気をつけろよ」

「ありがとう。行ってくる」

「行ってらっしゃい、また来いよ!」

 書籍姫が杖で地面を軽く叩き、スっと姿を消した。

「俺がゆうを助けるために何でもするってことを知っていて、それを上手いこと利用しやがった」

 直人はひとり虚空を見つめていた。


 ***


 東蓋は周りを見回す。何もない白い空間。

「ここは、どこ?」

 ガタン。音がする方を見ると、先ほどまでなかった机と椅子がそこにあり、机の上には本とペンが置かれている。

「何だろ?」

 本を手に取り中を見るが何も書かれていない。表紙もまっさらである。本を机に戻し、改めて周りを見る。

「……はやくここから出なきゃ」

 優香が心配である。能力を発動しようとするが上手くいかない。

「どうしよ……」

 焦って腕時計を見ると時間が止まっていた。「腕時計が止まってるのか、時間が止まってるのかどっちなんだろ」

 もう一度本を見る。「……!」

 表紙に先ほどまではなかったはずの“題名”が書かれている。

「斜陽……。もしかして中も、……あれ、こっちは変わってないや」

 ページをペラペラとめくる。

「ん?」最後の方のページに「いまの世の中で、一ばん美しいのは犠牲者です。」という一文だけ書かれている。

「やっぱりそうだ。これ、太宰治の『斜陽』だ」

 ふたたび表紙を見る。「あれ……? 題名が消えてる。それに、作者が私の名前になってる」

 先ほどのページを見返すと、そこにあったはずの言葉は消えていた。

「ペンがあるってことは、私がこの本の空白を埋めるってことかな」

 しおりがはらりと落ちる。それを拾い、見ると、白地の紙の左下に小さくある人の名前が書かれていた。

「……なるほどね。何となくわかった気がする」

 東蓋は椅子に座り、ペンを執る。小さい犠牲者のための、恋と革命の物語。

「ふふっ、なんか悪いことしてる気分」

 つい頬が緩む。

 どれだけ時が経っただろうか──ここでは時間の流れは非常にゆっくりであるため、時間の心配をする必要はない。

「書き終えました。あとは頼みますよ。薫さん」


 ***


 銀花が社長と猩猩に話す。

「あの方は代理者を生み出すのと同じ方法で、死者を復活させるつもりです」

「あの方って?」社長が聞く。

「あの方はあの方です。オレンジ髪の、薫という人です」

「薫ちゃんの居場所が分かったのかい?」

「いいえ、それはまだ」銀花は言葉を濁し、死者の復活の話を続ける。「何人たりとも地獄の門を通ってはならない。それは死者の復活を阻止するための世界の秩序。ですが、本人ではなく本人のコピーという形であればどうでしょう」

「なるほど上手いこと考えたね。それで、誰を復活させるつもりなんだい?」

「とぼけても無駄ですよ、社長。あなたは既に識っているはずです」

 スマホの警報音が鳴り響く。猩猩がスマホを見る。「出撃要請です。社長すみませんが、行ってきます」

「気をつけて」

 猩猩と銀花が事務所を後にする。

「若い者に無理をさせなければならないなんて、本当に情けない話だよ」

 社長はため息をついた。


 ***


 ジュブナイル・メルヘン。おとぎ話の代理。三毒。

「悪いやつを懲らしめることを“教訓”という。物語は我々に、正当な暴力が存在するということを教えてくれているのだ。正義とは、誰かを守る者のことを言うのではない、合法的戦闘狂(バーサーカー)のことを言うのだよ。教訓と支配は同じ木から枝分かれし、同じ色の実をつける。それを食べるのが権力者か市民か、ただそれだけの違いだ」

 ジュブナイル・メルヘンが空を見る。上空から部隊が攻撃を仕掛ける。地上にも部隊が集まり、民間、公共のゲキドクがジュブナイルを討伐するべく動き出す。

「ほら来た、俗悪共め。あれが民間なのか、公共のやつらか、そんなことはどうでも良い。私があれらを懲らしめるということが重要なのだ。世界は幾度となく崩壊しかけた。その要因は全て悪の仕業だ。例外はない、全て悪がもたらした災厄である。世界の秩序を維持するための教訓を私たちは生かさなければならない。でなければ死んだものたちの尊い犠牲が無駄になる。命を決して無駄にせず、次の世代へと継承することこそ、教訓の目的、物語の存在意義である」

 優香は身体が動かない。

「君のお仲間は君がここにいることを知っていて、君のことを助けようともせずに私に総攻撃を仕掛けてくる。可哀想なお嬢さん。ここにいる誰よりも強い君が見下されているのを私は見てられない。まるで過去の私を見ているようだ! 外道な人間どもめ、許すまじ」

 ジュブナイル・メルヘンはゲキドクらを見回し、声高らかに宣言する。

「まず手始めに君たちの首を切り落とす。閾が弱い者はここで脱落となる」

 ジュブナイルは指を鳴らす。空から多数のゲキドクが首と身体が分裂した状態で地面に叩きつけられる。血と肉片の雨が降る。地上にいるゲキドクも首から血を吹き出して次から次へと倒れていく。

「次に手足を捻り潰す。能力が弱い者はここでおさらばだ」

 再び指を鳴らす。手足を潰された者は叫び悶えながら、何もできずに地面に倒れ込む。

 スマホの警報音が再び鳴り響く。

「アリアヒロインと至高天(エンピレオ)が地上に降り立った。私と同じ三毒だ。茶々丸と兎喰天は既に暴れているらしい。さらに言えば……いいややめておこう。楽しみは最後まで取っておくに限るからな。まぁそうだな、端的に言って、君たちは詰みだ」

 あちこちで煙が立ち上り、建物が崩れる音と銃声が聞こえる。

 ジュブナイルは優香に近づく。

「最後に君だ、お嬢さん。もう君しか残されていない」

 優香はへへっと笑う。「いいえ死神さん。私が皆を助けるの」

 死んだはずのゲキドクたちが立ち上がる。「……ほほう、閾巫女の魂をあの者たちに分けたか。下衆など助けてどうする」

「だってゲキドクだもん。助けるっていう“名目”は必要でしょ?」

 ジュブナイルはニヤリと笑う。「気に入った! 君は私の物語に組み込んでやる。君はメフィストフェレスか、それともグレートヒェンか。後で君自身に選ばせてやる」

 閾巫女の魂が呼応して、ジュブナイルに向かって一斉に斬閾を放つ。ジュブナイルはこれを相殺したが、閾巫女は次から次へと斬閾を放ちながら、それぞれが刀を持ちジュブナイルに攻撃を仕掛ける。ジュブナイルは鎌状の武器を振り回して閾巫女の攻撃をさばいていく。

 ジュブナイルはため息をつき、ふわりと宙に浮く。

「慈悲もここまでとしよう。さらばだ、閾巫女よ」

 ジュブナイルが鎌状の武器をひと振りすると、目視できる範囲の建築物がひとつ残らず粉砕し、遠くではビルが大きな音を立てて崩れ去る。閾巫女たちは首や胴体を切断されて血を吹き出して倒れていく。

「さてようや──」

 それは急に現れた。ジュブナイルが異質な存在を察知した時にはもう彼の身体は真っ二つに割れていた。

 ジュブナイルは右側の身体を犠牲にすることで、左半身から身体全体を再生させた。

 それは小さな身体をしていたが優香を軽々と持ち上げ、安全な場所まで運ぶ。

「大丈夫?」

「うん、ありがとう……」

 優香はその者に心当たりがあった。実際に会ったことはなかったが、かつてとっちーが話していた「憧れの人」に容姿が似ていたのである。

「もしかして……!」

 とっちーの話では、大骸骨人鎧という伝説の巨大王族毒物を形が分からなくなるまで叩き潰し、それを煎じたものをプロテイン代わりに飲んでるだとか、ナスとトマトの化物を共食いさせて誕生したきゅうりの化物に味噌つけてかぶりついただとか、冥界の神話生物を狩るついでに冥府の王を倒し、それどころか一夜にして冥府の城を建築して自分が一日駅長ならぬ一日冥府王に就任しただとか、嘘なのか本当なのか分からない話を色々と聞かされた。だが今ならわかる。見ただけでわかるあの強さ。もしかしたら全部本当の話なのかもしれないと思えるほどに、私たちとは格が違う。

 ジュブナイル・メルヘンがイラつきながらその者に近づく。

「貴様何者だ? 人間ではなかろう。閾が異様なまでに分厚く無数の層に分かれている。王族毒物でもそこまで卓越した閾を持つものはいない」

「私は西羅、お前をブックオフに売りに行く者の名だ」

「それは諡か? しかし死者が生前の名をそのまま使うことはできないはずだが」

「ウチの名は姉ちゃんの〈命名〉だから特別だ。それにしてもよく喋る人皮装丁本だな」

 斬閾でジュブナイルの口が裂ける。「死ぬまで喋り続けてろ。ウチは心優しいから命乞いも聞いてやる。ウチはラジオを聴くのが趣味なんだ」

 ジュブナイルは口を元に戻し、再び話しはじめる。「薄弱めが。所詮人間のなり損ないか成れの果てだろう。その証拠に、今にも頭が取れそうではないか!」

「あぁそうだよ、頭と身体を接着剤でくっつけてきたばっかだよ。今にも吐きそうだ。吐いていい?」

「首の切れ目からゲロが漏れ出せば、それはまさしくバケモノだ」

「あ、忘れてた。おぎゃあ」

「……何だ」

「産声。生まれ変わったからね。赤ちゃんプレイじゃないよ。あっ、もしかして赤ちゃんプレイ好き?」

「……」

「なんか喋れよすっとこどっこい。さっき言ったろ、ウチの趣味はラジオなんだって。それとも壊れたか? 壊れたなら叩いて直さなきゃなぁ!」西羅は巨大なハンマーを作り出し、ジュブナイルに叩きつける。ジュブナイルは鎌状の武器でガードする。

 ジュブナイルは声を荒げる。「三途の川に浮かんでこいよ赤ん坊! 三途の川ならいくらでもゲロ吐き放題だぞ!」

「三途の川はウチが洗浄したから清流なんだよ。嘘だと思うなら見てくるか? 逝き方分からないなら頭差し出せかち割ってやる」西羅はもうひとつハンマーを作り出す。「ワニワニパニック!」

 ジュブナイルは吹っ飛ばされる。

 西羅はジュブナイルに近づく。「ワニの肉って美味いんだよ知ってる?」

 ジュブナイルは能力を発動する。

「能力発動、空想闘争」

 想像上の神話生物や神々が顕現する。

「頭がいいやつほどこいつらには勝てない。イメージと固定観念が邪魔をするんだ。君もここに現前するもののいくつかは知っているだろう? その恐ろしさを知る者はそれらに打ち勝つことはできない。──と言ってみたものの、君がそんな器ではないことは既に分かっている。ワクワクしているんだろう?」

 西羅はニヒッと笑った。「やっぱりウチと似た能力だ! ならウチも! せっかく代理者になったんだから、無制限でいくよ! 能力発動、空論創造」

 西羅は架空の女性を呼び出す。長い青髪でツインお団子ヘア、オレンジ色のピアス、左の瞳は緋く、右の瞳はオレンジ色で、青色を基調としたセーラー服のような衣服、背中の天使の翼は斜陽に照らされたように淡いオレンジ色をしている。

「ウチの天使ちゃんは天才だよ!」

 天使ちゃんは野球ボールを投げるように天使砲を放つと、命中した神話生物の身体に大きな穴が空いた。神話生物がばたりと倒れる。

「バットも使えるよ! 二刀流だね!」

 天使ちゃんは機敏な動きで神話生物を次々となぎ倒していく。

 ジュブナイルは舌打ちをし、臨毒(ギフトロジー)の準備をする。臨毒とは能力を扱う者の一部が使用できる必殺技である──強い者が使えるというわけではなく、代理者や代在(ダーザイン)など、誰かから作られた者、いわば“オリジナルではない者(ギフテッド)”が使用することができる。

臨毒(ギフトロジー)、──」

 西羅が瞬間移動をして優香のもとに行き、話しかける。

「誰かがこっちに向かってる。ウチはまだ姿を見られてはいけないんだ」

「あなたって西羅さんでしょ? とっちーから話しは聞いてるの。とっても強くてかわいいって」

「そう、東蓋は元気?」

「元気だよ、でも今はどこかに行っちゃって……はぐれちゃったの」

「それなら大丈夫。もうすぐ戻ってくるはずだから」

「良かった……」優香はほっとした表情をうかべる。「ねぇ西羅さん、お別れじゃないよね? お礼もしたいし、話したいことがいっぱいあるの。それはとっちーも同じはずだし……、また逢えるよね?」

「また逢えるよ」西羅はニヒッと笑う。「じゃ!」

「気をつけてね!」

 西羅は無言で頷き、それから瞬間移動をしてジュブナイルの首根っこを掴む。「ウチと一緒に来てもらうよ」

「誰が貴様の──」

「デコポン! 花!」

 西羅が上空に向かって叫ぶと目の前に白く大きな花が咲き、その花が二人を吸い込んだ。

 そのすぐ後に猩猩と代在(ダーザイン)の火樹銀花が現場に駆けつける。

「遅かったか」

 銀花が優香のもとへ駆けていく。「大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫」

「すぐに手当をします。ちょっと痛いですが我慢してください」

 痛みは感じなかった。優香はぼんやりと上空を見つめていた。

「ゆうちゃん!」

 聞き馴染みのある声で優香はハッと我に返った。

「とっちー!」

 東蓋は優香のもとへ一目散に駆けていく。

「ゆうちゃん、大丈夫だった?」

「うん、西羅さんが助けてくれたよ」

「せんぱいに逢ったの?!」

「うん! とっちーの言う通り、銀髪でちっちゃくてかわいくて強かったよ!」

「そう……せんぱいはどこ行ったの?」

「化物引き連れてどっか行っちゃった。あっ、また逢えるって言ってたよ!」

「まあせんぱいなら大丈夫か。とりあえずゆうちゃんが生きてて良かった!」

 とっちーも無事そうで安心したよ、と言おうとしたが、お節介のような気がしてやめた。誰も守れなかったという無力感と、そもそも誰も守ろうとしなかったという自分の醜さが嫌になった。そして、誰かを守ろうとするとっちーや西羅さん、銀花ちゃんのことを見、自分はゲキドクに向いていないのだと改めて感じた。

 ──第34話「アニマの脱獄」終

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