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ゲキドク!  作者: 解剖タルト
第1章〈私はそれを識っている〉
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【第4部:頭蓋と天蓋のバラッド】第29話「規格外」

 参謀会議。書籍姫が樹神瓏仙と薫の件について報告している。

「子どもの腹の中に化物がいると、そう言いたいのだな」

 左側の頬から耳にかけて大きな傷跡がある彼はオーダー中将という。40代で、左目は黒白目であり、頭の左側だけ年齢の割に白髪が目立つ。

「そうです。あれは間違いなく化物です。人間の子ではございません。今は閾で封じ込めておりますが、それも時間の問題でしょう」書籍姫中佐は淡々と答える。

「殺すことはしないのか?」

 そう問うてから煙草を吸い、煙を吐く彼はサルサード大佐という。彼の左目の瞳孔は楕円状である。30代で、髪は黒々としており、左耳に複数のピアスをつけている。

「どちらをでしょう。いえ、愚問でした。化物を殺せば子どもも死亡するでしょうから」

「殺さないのかと聞いているのだ」

「ご命令とあらば。私個人の判断で動ける案件ではございません」

 オーダー中将が言う。「化物に攫われた人間の子どもに関しては我々公ゲキが保護せねばなるまい。これがルールだ」

「おっしゃる通りです」書籍姫は微笑み、続ける。「現在は公ゲキ一課にて保護しております。公ゲキ管轄の保護施設などにあずけるよりもこのまま一課で保護する方が望ましいと思われますが、どのようにいたしましょう。ご指示をいただければと存じます」

「いや、この件に関して貴官の任務はこれで終わりだ。ご苦労であった」

「どういうことでしょう」書籍姫中佐は怪訝な顔をする。

「樹神薫の保護は第三課に任せることにする。また、瓏仙は既に行方をくらましているのだから、深追いするだけ時間の無駄であろう。通常通り化物殲滅において対処すれば良い」

「僭越ながら申し上げますが、彼女のお腹にいる化物は三課で対応できる代物ではございません。あれが腹を突き破って出てきた際にすぐさま抹殺できる体制がなければ、最悪三課が全滅します。初動を誤れば被害が拡大するのですから、一課ないし二課で保護をするべきです」

「腹から出てくる予兆があった時点で樹神薫は化物として判別されるであろう。保護というのは、あくまでも樹神薫が人間でいる間の応急処置に過ぎない。無論化物として判別されれば、その対応は一課か二課に任せることになる」

 その他複数の検討案件を協議した後、会議は終了。書籍姫中佐が退室する。

 サルサード大佐の左目の瞳孔が細長く形を変え、内眼角から外眼角までをつなぐ一本の線になった。その一本の線がまぶたのように開き、もうひとつの目が現れる。サルサード大佐はオーダー中将に言う。「今回ばかりは反抗してきそうですな」

「そうだとしてもこれまで通り利用すれば良いだけのことだ」

「そもそも彼女にこの件を伝えたのはまずかったのでは? 何故伝えたのです? 何か意図があるのでしょうか」

「伝えたのは私ではない。が、おおよその見当はついている」

「“歩く死者ども”ですか」

「そうだ。だがそちらの方は既に手を打ってある」

「あぁ、内通者」

「そういうことだ」

 オーダー中将とサルサード大佐は立ち上がり、会議室を後にした。


 書籍姫中佐は自身の執務室に入る。中ではベーレン中尉が二人分の珈琲を淹れているところであった。

「ジャストタイミングですね! 今、珈琲の用意ができました」

 書籍姫中佐は「ありがとう」と言い、珈琲を受け取り席に着いた。

「ベーレン中尉、貴官に頼みがある。聞いてくれるか?」

「はい、何でしょう」

「公ゲキのデトックスをしたいんだ」

 ベーレン中尉は口をあけてバカそうな顔をした。「あーそれ私の得意分野ですね」

「それと、樹神薫を暗殺する」

「えっ……」ベーレン中尉はコーヒーカップを床に落とした。珈琲はこぼれ、破片が散らばる。

「嫌いなんだ、あの子は」

「嘘、ですよね」

「嘘だと思う?」

「はい」

 書籍姫中佐は珈琲を飲もうとして、アチッと思わず目をつぶった。「かおるちゃんを助けてほしいと頼まれたのだろう」

「ぎくっ」ベーレン中尉はバツが悪そうにへへっと笑った。「そりゃバレますよね」

「誰に頼まれたのか、あらかた予想はできるが、保護しただけでは彼女を助けることはできない」

「それはどういうことでしょう」

「その前に割れたカップを片付けよう」

「あっ、申し訳ございません」

「いやこちらこそ、意地悪をしてしまったね」

 ベーレン中尉が割れた破片を片付け、書籍姫中佐が床を拭く。

「かおるちゃんのお腹の中には化物がいるんだ」

「えっ、それはどういう……」

「誰の仕業なのか、中尉は知らない方がいい」

「でも……」

「察することはできるだろう。中尉が知らない方がいいということは、すなわち化物の仕業ではないということだ」

「なるほど、デトックスってそういうことでしたか」

「そういうこと」

 書籍姫中佐は立ち上がり、流しで雑巾を洗い、戻ってくる。綺麗になった雑巾で再び床を拭く。

「化物がかおるちゃんのお腹の中にいるうちはまだ良い。問題はその化物が産み落とされる時だ。出産だよ」

「出産……」

「まあ出産と言っても、おそらく化物はかおるちゃんのお腹を突き破って出てくるだろうが」

「突き破って出てくる。そうなったらかおるちゃんは……」

「死んでしまう」

「それは、ダメです!」

「そうだな」

「でも、そもそも体内の化物を殺すことなどできるのでしょうか」

「それは既に検証済みだ。体内の化物だけを殺してかおるちゃんを生かすことはできそうにない」

「そんな……ではどうしたら」ベーレン中尉の破片を拾う手が止まる。中尉の顔が青ざめていく。

「絶望するなよ、中尉。そんなのは今することじゃない。あの子を助ける、そのためだけに頭を使え。権謀術数をめぐらせ、かおるちゃんを守る。それが我らの使命であると自覚しろ。もちろん、無理強いはしない。これは任務ではなく組織への離反だからな。さて、厄介なのはオーダー中将とサルサード大佐だ。彼らはかなり頭が切れる。私一人で彼らを欺くことはできるだろうか。共犯がほしいところだが果たして──」

「私、かおるちゃんを助けます! 中佐殿のためならどこまでも着いていきます!」ベーレン中尉は腕まくりをする。「さーて何をしましょうか!」

 書籍姫中佐はへへっと笑う。「怖くないのか? 失敗すれば積み上げてきた貴官のキャリアがパーだ。それに、命の保証はない」

「かおるちゃんを助けられるのであれば、キャリアなどくれてやります。もともと人助けをするために公ゲキに入ったのですから。それに!」ベーレン中尉が目を輝かせて言う。「ちっとも怖くないです、……中佐殿が一緒なら!」

 書籍姫は目をまん丸にして、それからニヒッと笑った。

「どうやら頭がパーだったらしい」書籍姫は立ち上がり、使い古した雑巾をゴミ箱に投げ入れる。「ちなみに、あの子が嫌いだというのは本当だ。似ているんだよ、私に」

「私は好きですよ」

「そうか」

 コンコン、扉をノックする音。

「失礼します」マーガレット伍長が薫の手を引き入室する。

「かおるちゃんが書籍姫中佐に伝えたいことがあるんですって」伍長は笑顔で薫の顔をのぞき込む。「ね、かおるちゃん!」

「うん」薫は大きくうなずき、目を輝かせて言う。「メロンパン食べたい!」

 中佐は目をまん丸にする。「ベーレン中尉、先ほどの発言は撤回だ。私はこんなに図々しくはない」

「それはつまり、かおるちゃんのことが好きだということですね?」

「なぜそうなる」

「そりゃあそういう話の流れですから。そんなことより中佐殿、メロンパンはあるんですか? かおるちゃん、目をキラキラさせてますよ」

「ない!」

「なんとかしてください」

「むり!」

「泣いちゃいますよ」

「かおるちゃんは強い子だから大丈夫」

「いや私がですよ」

「お前が泣くんかい」

 書籍姫は少し考え、ひらめく。

「かおるちゃん、クレープ食べに行かない?」

「クレープ! わぁい!」

「それも普通のやつではなく、とっておきのやつ」

「ま、まさか……!」

「ついに、あれを食べるんですね……!」

 ベーレン中尉とマーガレット伍長はおそれおののく。薫はそんなふたりの顔をキョロキョロと見る。

 書籍姫中佐はニヒッと笑う。

「バナナいちごチョコクリームスペシャルデラックスエクセレントスーパークレープ。この世で最強のクレープだ」

 ──第29話「規格外」終

【ゲキドク裏設定】

 バナナいちごチョコクリームスペシャルデラックスエクセレントスーパークレープは第3部にもちらっと出てきました。長年愛されている定番のクレープで、時間を超えてたくさんの人々を笑顔にしてきた「この世で最強のクレープ」です。

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