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ゲキドク!  作者: 解剖タルト
第1章〈私はそれを識っている〉
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【第4部:頭蓋と天蓋のバラッド】第28話「代理」

 やがて、ひとつの真相にたどり着く。

 ──第28話「代理」

 書籍姫中佐はコーヒーを飲みながらひとりで黙々と仕事をしていた。扉をノックし、ベーレン中尉が中へ入ってくる。

「中佐殿、報告であります」

「おっ、良い報せか?」

「例の件、詳細掴めました」

「でかした」

「こちらになります」ベーレン中尉は書籍姫中佐に報告書を手渡す。

「化物の名は樹神瓏仙こだまろうぜん、子どもの名は樹神薫こだまかおるです」

 中佐は報告書に目を通す。コーヒーカップを片手にペラペラとページをめくる。

「瓏仙、数年前から行方をくらましていた王族毒物。能力は、不明か。戦闘において能力を使用した形跡がないのか、それとも無能力なのか……、いや違う。そもそも戦闘の記録がないんだな。だとすると王族毒物に認定された根拠は何だ。……もしやこいつ側近か? まさかな。それで、子どもはひとり。診察の履歴は、人間、と。まぁ化物と診断されていればその時点で地獄行きだから当然といえば当然か。薫、男の子みたいな名前だな」

 中佐は何かに気づいたようで、中尉の方を見る。「父はどうした? 人間の父と結婚したという話ではなかったのか?」

「それが、父の存在は確認されませんでした」

「処女懐胎か?」

「いや、そういうわけではないと思いますが……」

「冗談だよ」

 中佐は再び報告書に目を通す。「祖母と兄はいたんだな」

「はい。戸籍に祖母の千里と兄の空の明記がありました」

「なるほどね」

 中佐は報告書を机に置き、コーヒーをすする。十秒ほど黙考した後、ふぅとため息をついて話し始める。

「そうか、王族毒物か。上の連中は既にこのことを知っているのかもしれん」

「その上で私たちに母殺しの任務を与えたと」

「そういうことだ」

「それは、どういう意味があるのでしょう。試されているのでしょうか」

「かもしれんな」

「何と言うか、いい気分ではないですね」

「そうだな。上層部は何を考えているのやら」

 突如、携帯機器のアラームが鳴り、機械音声が非常事態を宣告する。

「緊急通達、緊急通達。王族毒物の出現に注意してください」

「急に来たな」中佐は椅子から立ち上がり出動の準備をする。

 ベーレン中尉は各局と連携し情報収集につとめる。「……えっ」

「どうした」

「王族毒物の出現場所は、樹神瓏仙と薫が住むアパートです」

「してやられた。とにかく向かうぞ」

「はい!」

 ベーレン中尉が準備を整え部屋から出ようとするが、中佐が引き止める。

「現場に行くのは私と中尉の二人だ。各隊員に一時待機するよう伝えておいてくれ」

「ということは……」ベーレン中尉の顔が青ざめていく。

 書籍姫中佐は長杖を持ち出し、床を二三度軽く叩く。

「ワープするぞ」中佐はニヒッと笑った。


 アパートの前に到着。ベーレン中尉は持参していた袋にキラキラしていた。

 現場には既に王族毒物の姿はない。

 キラキラし終えたベーレン中尉はスッキリした顔をしており、野次馬の視線など全く気にならない様子で、曇りなき眼で現場を注意深く見る。

「逃げられたようですね!」

「スッキリしたか」

「はい!」袋を高く掲げて書籍姫中佐に見せびらかす。「デトックスです!」

「そうかそれは何よりだ」

 大家から鍵を借り、アパートに入る。アパートは木造二階建てで、階段はのぼるたびにギシギシと音が鳴る。現場は二階の中部屋。部屋に入る前に書籍姫中佐が識閾で部屋の中を確認する。

「誰かいる。おそらく子どもだ。入るぞ」

 中佐は鍵を開け、扉をそっと開けて部屋に入る。

「お邪魔します」ベーレン中尉も中へ入り、扉を閉める。

 天井は一メートルほどの穴が空いている。子どもは部屋の隅に縮こまって震えていた。

 書籍姫中佐は片膝をつき、子どもに話しかける。「怪我はないか? 少女よ」

 オレンジ色の髪をした少女は中佐を見、それから視線を戻して小さく頷いた。彼女の隣には髪と同系色のランドセルが置かれている。

 中佐はあぐらをかいて座り込み、上着のポケットからおもむろにチョコチップメロンパンを取り出し、封を開けて食べはじめた。少女はその様子を眺めていた。

「食べるか?」

 少女は首を小さく横にふる。

 中佐はもぐもぐと食べる。

「美味いよ」

 中佐はパンをちぎり少女に手渡す。少女はそれを受け取り、口に入れた。

「美味い?」

 少女は小さく頷いた。

「それは良かった」中佐は微笑む。

 しばらくもぐもぐタイム。中佐は「この袋にたまったチョコチップがまた美味いんだ」と言いながら、袋を傾けて手のひらにチョコチップを出し、それを少女に差し出す。少女はチョコチップをひとつまみしてもぐもぐと食べた。

「少女」中佐は天井に空いた穴を眺めながら少女に話しかける。少女は書籍姫の方を見る。「ジュース好きか?」

 少女は頷く。

「何が飲みたい?」

「オレンジジュース」少女はか弱い声で答える。

 中佐は微笑み、それからベーレン中尉に目配せをする。ベーレン中尉は部屋をそっと出て、一目散にコンビニまで駆け込む。

 中佐は少女の方を見る。「私の名前は書籍姫。あなたのお名前は?」

「かおる」

「かおるちゃんか。よろしくね」

 薫は小さく頷く。

「ママどっか行っちゃったの?」

「うん」

「あの穴はママが空けたの?」

「ううん、あの穴が空いたら、ママがいなくなっちゃったの」

 少女は涙をうかべる。「ねぇママどこ行っちゃったの?」

 中佐は少女の肩に手を置く。「大丈夫、かおるちゃんのママは私が見つけてあげる」

「ほんと?」

「ほんとだとも。私は正義の味方だからね」

「お姉さん、正義の味方なの?」

「そうだとも。だから安心して」

「うん」

 玄関のドアが開く。息を切らしたベーレン中尉が玄関の前に立っていた。「た、大変です、中佐殿!」

「どうした?」

「化物が上空に大量発生しています!」

 書籍姫中佐は立ち上がり、天井の穴から空を見る。「かおるちゃん見て、化物いっぱいいるよ」

 少女も立ち上がり中佐の隣で化物の群れを眺める。「烏みたい」

「こわいねぇ」中佐が少女に言う。

「うん」

「……あの、中佐殿。大隊を招集しますか?」ベーレン中尉がたずねる。

「あぁそうしてくれ」

「それで、指揮の方は……」

「その前にジュースだ」

「あ、はいどうぞ」ベーレン中尉が袋を手渡す。

「ゲボを飲めと?」

「あ! 申し訳ございません、こっちでした」

「罰として貴官が大隊を指揮してくれ」

「えっ、あっ……かしこまりました」

「頑張ってね!」

「はい、頑張ります……」


 ベーレン中尉が大隊を指揮して戦闘している間、書籍姫はあぐらをかいて座り、考える。

「化物が急に大量発生したのはなぜだ。今回の件と関係があるのか。あそこまで大量に集まるということは、何か目的があるのだろうが……」

「ねぇお姉さん」

「ん? どうした?」

「お腹に何かいる」

「お腹?」

 少女はお腹をさわっている。

「ちょっと良い?」

「うん」

 書籍姫は少女のお腹に触れ、それからお腹に耳を当てる。

「……やりやがったなアイツら」少女に聞こえない小さな声でつぶやく。

「どうしたの?」少女が不安そうにたずねる。

「いや、なんでもないよ」書籍姫は微笑む。

「ちょっとだけ痛いけど我慢してね」

 書籍姫は少女のお腹に閾を流し込む。

「うっ」

「これで暫くは大丈夫。後で診てもらおう」

「うん」

 書籍姫中佐は戦闘終了の報せを受信する。「ご苦労。ベーレン中尉、悪いがすぐ戻ってきてくれ」

 中佐は少女の頭を撫で、「大丈夫」と声をかけるが、その言葉と裏腹に彼女の表情は険しく、想定しうる最悪の状況に備えた「最終手段」について考えていた。

 ──第28話「代理」終

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