【第4部:頭蓋と天蓋のバラッド】第22話「誰がための命」
「命をかけても守りたいものはあるか」
「ある。そのために、ここにいる」
──第22話「誰がための命」
オリーブが剣を振るう。時空がずれる音がする。
西羅は背筋がひやりとした。「これは……ここまでとは。篦棒な強さだね。力を抑え込んでいたのも理由があるんだろ?」
「この場所はいわゆるコピーだ。でもそのコピーがまだ完全ではなかった。先ほどまではな」
オリーブは神樹を見る。「この街は神樹の権能を最大限に引き出す演算装置としてつくられた。そして今、その演算機能は全て神樹に取り込まれた。すなわち、実質的にはこの街はもう不要だ。神樹の中にいた者は、やがて神樹と融合し、神樹を超えた生物の頂点として君臨するだろう」
「なるへそ」
「今はまだ試験運用の段階だ。神徒たちによる蹂躙が完了した後、満を持して神樹はそれ自身を超えて完全復活する。仮に神徒たちの蹂躙が失敗に終わったとしても数ヶ月たてば神樹の中にいる者は神樹を超える。これは変えられない運命だ」
「そしたら世界は滅亡しちゃうね」
「あまり心配してなさそうだな」
「まさか。滅亡してもらったら困るよ」
オリーブは剣を強く握る。
「命をかけても守りたいものはあるか」
西羅は紫電を取り出し、構える。西羅の緋い目は地平に沈む夕陽のようにさらに緋さを増していく。
「ある。そのために、ここにいる」
神樹(の巨人)が再び動き出した。神徒たちが神樹の幹の裂け目から出てくる。
神徒たちの長が言う。
「神樹様の完全顕現のための試験的運用を行います」
「ウチは実験用ラットってことか? まぁ眼も赤いし、白いし、小さいし。確かに似てるね」西羅はへへっ笑うが、緋い眼は依然として眼前の敵を、未来を見据えている。
「それは“イヤミ”というものでしょうか? 我々は脅威の前にただ突っ立っているだけの愚か者ではないのです。孤高の天才にして、神々を滅ぼしうる災厄。銀の堕天、西羅よ」
「銀の堕天ね、そんなふうに呼ばれてたこともあったっけ。なつかしいな」
「使えるものは全て使い、あなたを殺します」
「神の権能と王の力能、全知と全能。使えるものはそれくらい?」
「──!」
「ウチが無策で神樹の前に来るわけないじゃん。ウチだってできれば死にたくないんだ」
「準備は万端と言うことですか」
「万端ならそもそもひとりで来ないって」西羅ははじめて弱音を吐く。
「それでも脅威に変わりありません。全力で〈救済〉を執行します」
「救済、ね」西羅はつぶやく。
***
「おとうさん、おとうさんってば!」
父は眠る。
「ねぇおとうさん……」
外では桜の花びらがまるで雪が降るようにひらりひらりと舞い落ちている。窓の隙間からひとつの花びらがふわりと入り込んだが、それに気づく者はいない。
ひとりきりの家。
「なんで」少女は泣いていた。
「おとうさんはせいぎのみかたなのに。セーラ、ひとりぼっちはいや。……おとうさん」
***
「先ほどの威勢はどうした、西羅!」オリーブは剣を振り、西羅は避けきれずに両脚を斬られる。衝撃波で街が切り刻まれ、次々と街が破壊されていく。
「考え事してんだ、黙ってろゴーヤ」
脚を再生させる間もなく、頭上から強化された神徒たちが現れ、打刀や薙刀などで西羅を狙う。神徒たちが持つ刀は“音が無い”。刀を扱う技量の高さゆえの無駄のない動き、また刀を振るう時に出る音、空気抵抗すら斬りすてる。
西羅は斬閾で神徒たちの腕を斬り、その隙に脚を再生させるが、神徒たちも腕を再生させ、武器を持ち西羅に斬りかかる。
「骨喰も妖刀も、だいぶ威力が上がってるな」西羅は内部で切り刻まれた骨を治しながら、妖刀から産まれ落ちた怪物たちを斬閾で消滅させていく。
「なるほど、ウチを縦に斬ろうってことか。脳梁ぶった斬るのが目的なんだな」
西羅は紫電や斬閾で神徒たちを斬るが、神徒たちは先ほどよりも数段頑丈で、甘い太刀筋では決定打に至らない。
「連絡経路の切断、即ち回路の無効化。外在の神を内に留めておくための手段です」
「バイキャメラルか。アンタらも考えてんな」
神徒のひとりが亜空間移動で西羅の背後に回り込み、刀で西羅の腹を突き刺す。西羅は紫電を持ちかえ、腕を後ろにまわして神徒の喉に刺す。神徒は消滅。西羅は刀を腹に突き刺したまま、次々と襲いかかる神徒たちを相手取る。
「その傷で能力は使えまい。臨毒も使用不可。次は必ず」翼を持つ神徒たちが西羅の頭上に現れる。
「飛花夢見、玉響百年、幾星霜、いまゆくすえは神ぞ知るらん」
桜花雷砲が放たれた。
それに呼応するかのように、神樹も西羅に向かって最上大雷砲を放つ。
「大切な人をみんな守る。そのための命だ」
西羅の能力は〈机〉。西羅は、机という言葉の連想から、〈戦況の把握と戦略の構想〉、〈ちゃぶ台返し〉、そして〈机上の空論=空論創造〉と解釈を広げてきた。
「新解釈──」有事の際に皆の頭を守る机。守るという観点から生まれる新しい能力の解釈──。
「……やっぱやめた!」
西羅は手を合わせ目をつぶる。「見ててね、お父さん」
***
線路沿いの借家。踏切遮断機が電車の到来を告げる。電車が通過し、家が小刻みに揺れる。
「おとうさん、おとうさんってば!」
「あぁセーラか、良かった。そうか、寝ちゃってたんだね」
外では枯葉が風に吹かれて飛ばされている。短い秋が終わり、冬が始まろうとしていた。
父は椅子に座ったまま昼寝をしていた。ボサボサの髪をかきむしって伸びをする。
父は微笑みセーラの頭を撫でる。セーラは満面の笑みを浮かべた。
「今何時?」父は眠い目をこすりながら西羅に聞く。
「ええっとね、ちいさいはりは3のところにあって、おおきいのは6のところ!」
「3時半か。ちょうどいい時間だ。セーラ、一緒に買い物でも行こうか」
「かいもの! セーラね、グミがほしい! キュアピュアのやつ!」
「キュアピュアはかっこいいからな」
「そう、かっこいいし、かわいいの! さすがおとうさん、ちがいがわかるおとこだね」
「そういう言葉どこで知るんだろうな。……キュアピュアのアニメかな」
「キュアピュアはね、みんなをまもるせいぎのみかたなの! わるいてきをやっつけて、こまってるひとをたすけるんだよ!」
「そうか、それは素敵だ」
「そう、すてきなの! こうやって、こうシャキーンってやって、きゅうさいのしと、ピュアクリーム!」西羅は小さい身体をめいっぱい動かしてピュアクリームの変身シーンを再現する。
「ピュアクリームが好きなのか?」
「うん、ピュアクリームはね、ピュアキュアたちのおねえさんでね、それでね、なんでもできるの! つよくて、おべんきょーもできて、きれいで、でもおへやはきたない」
「ピュアクリームみたいになりたいか?」
「なりたい!」
父は微笑み、椅子からバッと立ち上がる。
「それじゃあピュアクリームになるためのミッションその1! 買い物行って卵と牛乳とピュアクリームのグミを買う」
「おお!」
「ピュアクリームになるためのミッションは険しいぞ、ついてこれるか?」
「うん! セーラがんばる!」
「ゴーヤも食べれるようにならなきゃいかん!」
「ピュアクリームもゴーヤきらいだからいいんだよ」
「……おのれピュアクリーム」父は頭を抱えた。
別の日。父とセーラはモコモコの格好で手をつなぎながら公園までやってきた。
「寒いな、セーラ」
「さむいね」
セーラはしゃがむ。「くさがしんでるよ」と言って、薄ピンク色の小さな毛糸のてぶくろを外して草をちぎり、それを父の足もとに投げつける。
「こらやめなさい……。芝生は、まぁ春になったらまた元気になるさ」
「そうなの?」
「芝生にその気があれば、いつでも復活できるはずだ、知らんけど」父は話題を変えた。「セーラ、今日もミッションやるか」
「よし、まかせろ!」
「ミッションその……、いくつまでいったっけ」
「わかんない!」
「……よし、次のミッション! まずは準備運動だ。防寒具を脱いで動きやすい格好でな」
入念に準備運動をして適度に身体をほぐす。
「この前、閾は教えたな」
「うん、おててをあたためてビーだまをうかせたよ」
「次は自分自身を浮かせる。ピュアクリームも浮いてるだろ?」
「……はっ、たしかに!」
「そのためにまずは、全速力で走る!」
「よし!」セーラと父は公園の端から端まで全速力で走った。
父の呼吸が乱れる。「はぁ、はぁ、父さんの勝ち」
「さすがおとうさん!」
「それで、はぁ、はぁ、何だっけ。あぁ浮き方ね。セーラ、身体がぽかぽかしてるだろ? これが閾だ」
「なるほど」
「そのぽかぽかを脚に集めるんだ。イメージするんだぞ。脚がぽかぽか、コタツの中で脚がぬくぬくあたたかいってな。すると、ちょっとずつ、身体が浮いてくる」父は身体を1メートルほどまで浮かせた。
セーラは拍手をする。「うわぁすごいすごい! おとうさん、ピュアクリームみたい!」
「それで、降りる時は、脚のぽかぽかをお腹に持ってくるイメージ」父はストンと地面に降りた。「さぁやってみよう」
「よし!」
父はしゃがんでセーラの身体を少しだけ持ち上げる。「脚にあたたかいのを集めて。脚がだんだんあたたかくなる〜、ぽかぽかしてくる〜」
「むずかしい」
「じゃあもう一度走るか」
「はしる!」
走って、セーラの身体を持ち上げて、脚にぽかぽかを集める。これを繰り返して5回目。
「離すぞ」父がセーラの身体を離すと、セーラはその場に留まって、少しではあるが地面から浮くことができた。
父は地面に手を置く。「この父さんの手を踏まずに歩けたら今日のミッションはクリアだ」
「よし!」
緊張のとき。
セーラは父の手を踏まないように慎重に歩く。一歩、二歩、三歩……。
「……できた」父は安堵する。
「おとうさん、できたよ!」セーラは喜びぴょんぴょんとはねる。
「できたな! やったぞセーラ!」父はセーラを抱きかかえる。
「おとうさんのてをまもったよ!」セーラは誇らしげに言う。
「あぁそうだ、セーラは父さんの手を守ったぞ! よくやったな」父はセーラをおろす。「よしミッションクリアだ、もう地面に足をつけていいぞ。お腹にぽかぽかを集める感じだ」
「いやだ! このままがいい!」
「えぇ……」
セーラはしばらく身体を浮かせて生活していた。
また別の日。この日、父とセーラは駅の三階にあるカフェの窓から街の景色を眺めていた。
「今日のミッションは潜入捜査だ。つまり、誰にもバレてはいけない」
セーラは人差し指を立てて口にあてる。「しーってことね」
「そうだ、静かにな」父は駅の人混みに目を向ける。「人が歩いてるだろ」
「うん」
「困ってる人を探すんだ」
セーラはじっと目を凝らして人々を見る。「あのひと、うんちしたそう」
父はセーラが指さした先の人物を見る。「……あぁ、正解だな」父はセーラに視線を戻す。「セーラはあの人をどうやって助ける?」
「ええっと、あっちにトイレありますよっておしえる……?」
「そうだな。いいかセーラ。困っている人がみんな助けを求めているとは限らない。あの人はたぶん自分でトイレにいけるから、父さんたちがトイレの場所を教えなくても大丈夫だろう」
「そっか……」
「だけど、あの人困っているんだなって気づくことはとても大事なことだ。だからセーラは良い気づきをしたんだ。えらいぞ」父はセーラを撫でる。
「そして、今日のミッションのポイント。助けを求めている人はみんな困っている」
「なるほど……?」セーラは頭をかしげる。
「大丈夫、いずれわかる。わかるその日まで覚えておくといい。そうだな……助けてほしそうな人、いそうか?」
セーラはじっと人混みを見つめる。
「あのおばあちゃん、だいじなさいふがないよぉっていってる」
「正解だ、よく読み取れたね」父はコーヒーを飲み干し、席を立つ。
「さぁ一緒に探してあげよう。きっとすぐに見つかるはずだ」
「うん!」セーラも席を立ち、「たからさがしミッション、スタート!」と元気よく言った。
本格的に寒さが厳しくなり、外では雪がちらつく。
父とセーラは家にいた。
「父さんからのクリスマスプレゼントはアレだ!」
テーブルの上にダンボール製の射的台があり、その上にお菓子やおもちゃが並んで置いてある。
「わぁ! おとうさんありが──」
「──ただし! ひとつ条件がある。人生は欲しいものが全て手に入るほど甘いもんじゃあない。辛く苦しい道のりをこえて人は優しく、強くなる」
「ピュアクリームも、『ゴーヤとコーヒーと人生は苦いものよ』っていってた」
「ピュアクリームが言っているなら間違いないな」
「でもピュアクリームはとてもたのしそうだよ?」
「そう、人生は苦い、だが楽しい。いや苦いからこそ楽しいんだ。深いだろう?」
「ふかいね。うみよりも、ずっと」
「……父さんがセーラくらいの頃は『原液うん子マンズ』を観てゲラゲラ笑ってたんだがな。まあいいや」
父はゴホンとわざとらしく咳払いをする。「今日のミッション。セーラ、お菓子やおもちゃの下に積み木があるだろう?」
射的台の上に積み木が置いてあり、その上にお菓子やおもちゃが乗っている。
「その積み木だけを手を使わずに落とすんだ」
「そんなまほうみたいなこと……」
「できるんだな」
父は指を拳銃の形にして狙いを定め、「バン!」と言う。積み木がはじき出され、お菓子が射的台の上に残る。父は人差し指にフッと息をふきかけた。
「わぁ!」セーラは拍手をする。
「このお菓子は父さんのものだ」
「いいな、いいな!」
「セーラもやってみるか?」
「うん!」
セーラは指を拳銃の形にして「バン!」と言うが、何も起こらない。
「コツがあるんだ」父はセーラを射的台の前に立たせ、自身は射的台の後ろに回り込む。
「まず、狙うのはここだ」と言い、積み木の中央を指さす。
「うん」セーラは真剣な表情をして父の話を聞く。
「次に、そうだな……こっちおいで」父はセーラを手招きする。
「人差し指を積み木に当ててみて」
「こう?」人差し指で積み木に触れ、父の顔を見る。
「そうだ。それで、積み木を触っている部分にぽかぽかを集めるんだ」
「うかせるの?」
「押し出す感じだ。ぽかぽかを押す」
「ぽかぽかをおす」
「出来そうか?」
「やってみる」セーラは積み木に視線を戻し、ぽかぽかを押し出すイメージを浮かべる。「……それ!」
「いい“イメージ”だ。連続でできるか?」
「それ! それ!」
「いいぞ!」
「それ!」積み木がセーラの指を離れた。
「いい調子だ。ちょっと休憩しよう」
しばし休憩。
「次は積み木から指を離した状態で、積み木を動かしてみよう」
「むずかしそう」
「まずは1cm」
「それ!」
「いいね、次は10cmくらい」
「それ!」
「すごいな! 次は、もう射的台の上にのせちゃうよ。セーラ、あっちから狙ってみて」
「それ! それ! それ!」
3発ほど外した。姿勢を整え、目をつぶる。父はさすがに疲れたかと思ったが、それは父の思い過ごしであった。父の識閾はセーラの尋常ではない集中力を察知した。
セーラは目を開け、瞬き一つせず積み木を狙う。
「それ!」
積み木は横に裂けた。「わ、ごめんなさいおとうさん。つみき、きずついちゃった」
「大丈夫、そのための積み木だ」
セーラは首を傾げる。
「これがもしおもちゃだったらどうなる?」
「こわれちゃう」
「そうだな。今のは少し力が強かった。もう少し優しく、力強く。難しいな。練習あるのみだ!」
「うん……」
父は微笑み、セーラの頭を撫でる。「最初は力の使い方が分からなくて当然だ。だから最初は失敗してもいい。失敗を繰り返してもいい、その度に学んでいけば失敗せずにできる日がきっと来る。ピュアクリームだってはじめから強かったわけじゃない。たくさん練習して、たくさん勉強して、たくさん遊んで、たくさん食べて、たくさん寝る。毎日の積み重ねがピュアクリームを強くして、優しくしたんだ。セーラだってできるはずだよ」
「ほんと? セーラにもできる?」
「できるとも!」父はニヒッと笑う。「なるんだろ、ピュアクリーム」
「なる! かっこよくてかわいいピュアクリームになる!」
「ははっ、その意気だ! セーラ、このおもちゃは父さんからのプレゼントだ」父はセーラにおもちゃを手渡す。
「いいの? ミッション、まだクリアできてないよ」
「そういう日もある!」
「……なるほど!」
父はセーラの肩に手を置き「頑張ろうな!」と元気よく言った。
「うん! ありがとう!」
父は傷ついた積み木を手に取る。
「父さんレベルになると、こういうこともできる」と言い、積み木を手のひらにのせる。
「?」セーラは積み木をまじまじと見つめる。
「それ」と父が言うと、長方形だった積み木が一瞬にして切り刻まれて複数の正方形になった。
「えっ、どうやってやったの?!」
「これも練習あるのみ!」父はニヒッと笑った。
買い物帰りのある日。遠くから悲鳴が聞こえた。
「セーラ、いくぞ」
「うん!」
父はセーラを抱え、走る。人型の化物たち次々と現れて暴れ回り破壊の限りを尽くしている。逃げ遅れた人たちが今にも化物に襲われそうになっている。
父はセーラを脇に抱えながら目にも止まらぬ速さで化物を討伐していく。背後から襲いかかる化物に対してはノールック斬閾で仕留め、遠距離から攻撃してくる敵に対しては「バン!」、至近距離の敵に対しては「ドゥクシ!」といった掛け声で、いずれも一撃で仕留めていく。
父は状況を分析する。「オベリスク、王族毒物か。急に湧いたということは、どこかに化物が出入りする場所があるはずだ」
父はセーラに話しかける。「いいかセーラ、今日のミッションを伝えるぞ!」
「う、うん」
「化物の出入り口を探すんだ。どこかに化物が群がっているところがある。探せるか?」
「……やってみる!」
セーラは目を凝らして周りを見る。緋い眼はさらに緋く輝き、瓦礫に隠れて見えないところまでくまなく見通す。
崩壊した建物の裏、化物の影。
「おとうさん、アッチにばけものいっぱい!」
父はセーラが指さす方を見る。「バッチグー!」
父は片合掌で「電光影裏斬春風」とつぶやき、能力を発動する。
「蓋天沙珀」
赤と黒の光の輪が同心円状に広がり、化物が出入りする場所めがけて円の中心から黒い雷が落ちる。
その場にいた化物は“始祖”をのぞいて消滅した。
オベリスクBの始祖が言う。「まさかお前が来るとは思っていなかった。だがここで終いだ」
「ねぇおとうさん、あれつよいの?」
「ん? セーラでも倒せるぞ? やってみるか?」
「うん!」
父はセーラを抱えたまま素早く動き回り、敵の目をかいくぐる。
「父さんのぽかぽかをあずける。ピュアクリームの必殺技を敵の腹にぶち込むんだ」
「……セーラにそんなことできるかな? だってピュアクリームだよ?」
「大丈夫、父さんがついてる」
「!」
「ドカンとやっちゃえ!」
「うん! セーラ、やっちゃいます!」
始祖が巨大な手を召喚し、父たちめがけて殴打を繰り返すが父は華麗にかわしていく。
「こそこそと逃げ回りよって、我の頭を狙っているのは識閾で読み取れているのだぞ」
「そうか、それは残念だ」
「別の作戦を立てることだな。その前にお前らは死ぬがな」
「上には上がいる。謙虚に生きようぜ、化物さんよ」
「なに? ……くそっ!」
父は始祖が召喚した巨大な手を斬閾で賽の目に切り刻む。
「狙いは頭ではなく腹。識閾の書き換えくらい想定しておくべきだったな」
「どこだ」
父は化物の背後を取る。
「逃げ回るなよ化物、今から娘が必殺技を放つ」
セーラは極限まで集中力を高め、ピュアクリームの必殺技を放つ。
「ひっさつ!──────」
***
西羅は目を開け、微笑む。
ゴーヤは食べられるようになった、まだ少し苦手だけど。さて、次のミッションは。
「臨毒。ピュアクリーム」
「なに? 臨毒はもう使えないはずでは?!」神徒の長は困惑の表情を浮かべる。
「識閾の書き換えくらい想定しておくべきだったな」
西羅は極限まで集中力を高め、ピュアクリームの必殺技を放つ。
「必殺。デウス・エクス・マキナ」
──第23話「不在と位置」に続く
本日も晴天であります──人が死んでいるにも関わらず。
そんな世界で私たちは生きているのです。もとよりこの世界は残酷で、私たちも残酷なのです。人ひとりいなくなったところで、今さら何を気にすることがありましょう。
第23話「不在と位置」。世界をひっくり返す準備をしよう。




