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ゲキドク!  作者: 解剖タルト
第1章〈私はそれを識っている〉
20/36

【第3部:代理戦争】第20話「花逍遥2」

「獣耳のロリが好きな奴らは、獣以上に鼻がいいらしいぞ」

「なるほど覚えておきます」

「世の中物騒だからな。獣耳のロリが好きな奴らには気をつけろよ。お前もむやみやたらに獣耳をつけないことだ」

「姉上に獣耳がついたらと思うと興奮して夜も寝られません」

「物騒だな」

「ぐへへ」

 ──第20話「花逍遥2」

 火樹銀花は臨毒でこれに対抗しようとしたがその必要はなかった。星羅の身体が再び動かなくなったのである。今度は猩猩の能力ではない。

「はーい、生まれて飛び出てじゃんじゃかじゃーんっと」アウフヘーベンの声。星羅の腹を突き破って左腕が出てきた。掌の目玉がこちらを覗く。

「誰にどの〈編集〉をしたのかよーく思い出してください。もともと薫さんが英雄譚の脳に咲かせた〈毒の花〉、あなたは誰に咲かせましたか?」

「お前だ。……だがなぜお前は忘却の術から逃れられている?」

「逃れられてはいませんよ。ただ私が賢いってだけです。それよりも、私は一度あなたの身体の中に入ったことがあるんです。正確には神樹の中ですがね。その時に私の細胞の一部を神樹の中に残しておきました。そして先ほど、毒の花に侵された細胞とあなたの中に保存しておいた細胞の情報の共有が完了し、元の身体の方の毒抜きが無事終わりました。ついでに毒の花をあなたの脳に咲かせておきましたので毒抜き頑張ってください。果たして今のあなたに毒抜きができるでしょうか」

「編集によって別の者にそれを与えれば良いだけの話だ」

「あなたはその方法を覚えていますか?」

「……」

「あなたは詰んでいるのですよ。私に毒の花を咲かせた時から既にね」

「……さすがだアウフヘーベン。これは我らの油断であり、敗北だ」

 星羅は不敵な笑みを浮かべる。

「我らは崇高なる目的のために生まれてきた。崇高なる目的が我らを産んだのだ。それが生きている限り、我らが死ぬことは許されない。目的とは真理、真理とは生成変化の円環である。円環の完成のため、すなわち我らの栄光ある勝利のため我らは〈やり直す〉必要がある」星羅は手を合わせ、祈る。

「誰に祈っているのだ?」猩猩が問う。

「神であり、王でもあるお前が誰に祈るというのだ」

「我らに」星羅がそう言うと、星羅の背中から木が生え、それがみるみる大きくなって星羅を飲み込んだ。20メートル程の樹高のその樹は神樹と比較すればかなり小さく見えるだろうが、しかしその神々しさと重み、幹や樹皮の厚みと繊細な枝、枝の先に小さく生い茂る葉の若々しさは、生命の柱或いは生命の母と言うべき安定感と力がある。その樹の力能のせいか、崩れたビルと瓦礫の山に草が生い茂り、その光景はあまりにも異質でありながら、人々はその光景をよく見知っているふうにポストアポカリプスや廃墟、ノスタルジーなどと呼ぶのである。

 猩猩がその光景に打ちのめされている間に公共ゲキドクたちが到着した。現場に来たのは「子子子子子子子子子子子子ねこのここねこししのここじし-牡丹花下眠猫児ぼたんかかすいびょうじ」と公共ゲキドク一課のトップとして君臨する「光風霽月こうふうせいげつ-撲朔謎離ぼくさくめいり」である。

「あっちの方はどうなった?」と猩猩が子×12に聞く。

「バベルズの方か? それはもう酷い有様だが、まぁ何とかなるだろう」

 今度は子×12が猩猩に問いかけた。「目の前のあれは神樹か? 以前見たときより小さくなった気がするが」

「歳とりゃみんな縮むんだよ。お前には分からんだろうがな」

「わらわが千年生きていたとしても同じことが言えるか小僧?」

「ロリババアかよ」

「嘘に決まっておるだろ、わらわはまだロリじゃ」

「自分でロリとか言わない方がいいぞ。獣耳のロリが好きな奴らは獣以上に鼻がいい」

「なるほど、次は尻尾でもつけてみようか」

 突然「アッハッハ!」という笑い声が響き渡る。「こっこは可愛いからな、悪い大人たちに攫われてしまうかもしれん。だが安心するといい! 私の命はこっこを守るためにあるのだからな! アッハッハ!」

 猩猩が子×12にだけ聞こえるように話す。「お前上司に愛されてんな」

「この前は『公共ゲキドク一課はこっこを守るための組織だ! アッハッハ!』と言っていたよ」

「公共ゲキドクも大変そうだな」

 猩猩は何かを思い出した。「そうだロリババアさんよ、薫を救護班まで連れてってくれねえか? まだ残機はたくさん残ってるんだろ?」

「わらわの残機のひとつを使って薫とやらを運べと。まあ良いぞ。それで薫とやらはどこにいる?」

「そこに……ってあれ?」猩猩が周りを見回すが薫がどこにもいない。「首取れてんのにどこ行ったっていうんだよ。銀ちゃん、薫がどこに行ったか知らない?」

「探知してみます」火樹銀花は目をつぶり、自身の纏閾と識閾を用いて薫の閾の在処を探る。

「いました、目の前」

「……!」

 薫が現れた──“すでに現れていた”と言った方が良いかもしれない。それには首から上が無くただ胴体のみが〈存在〉していた。

「おい薫、大丈夫か?」

 猩猩が問いかけるが薫からの返事はなく、首から上が無いそれは地面に落ちた何かを拾おうとしていた。それは、果実。

「……おいやめろ! それは星羅の罠だ!」

 猩猩が嫌な予感を感じ叫んだが、もう遅い。巨樹の幹を裂いて大きな二本の腕が瞬時に伸びて薫を包み込もうとしている。「我らに毒を」

 刹那、何かが星羅の腕を粉砕した。「……! 我らの閾が力負けしたと……。〈編集〉だ。薫の胴体を粉砕し、破壊された腕が元に戻る」

 だが腕は粉砕されたまま元に戻ることはなく、次の瞬間、薫の首が光を放ち、巨樹に大きな穴をあけた。薫は巨樹に空いた穴を見、泣いていた──頭がないのにも関わらず不思議とそう感じられた。

「〈全知〉に頭蓋は必要ない、何故なら世界そのものが頭蓋だからだ。能力を制限する役割を担う頭蓋、それを喪失することで、〈頭蓋=世界〉を手に入れることができる」

 光風霽月が皆に聞こえるように、ただしそれは光風の独り言という形式で語られる。その様子は先ほどまでの光風とはまるで別人のようであった。

 光風が話を続ける。「〈全知〉が頭を持たないように、〈全能〉に胴体は必要ない。世界そのものが胴体となるのだ。そしてここからが重要なのだが、〈全知〉や〈全能〉に関しては、その存在自体が私たちに危害を加える危険性があるという観点から毒物として扱う規定になっている」

 光風の眼差しは薫の頭蓋、正確にはもともと頭蓋があった場所に向けられている。「私が〈記述〉する世界に、書籍姫による〈編集〉の余地はない。何故なら私が編集するからだ。それと同じように、この世界において〈全知〉を抹消する方法も私だけが識っている」

 猩猩が言う。「薫を抹消するつもりなら俺はお前を止めなければならない」

 光風は猩猩の言葉に動じる様子はない。「あれはもはや世界の意志だ。その存在意義は世界の浄化、言ってる意味が分かるな。もうすぐ彼がこちらを向く。そのときの彼の動向によっては彼を消さなければならない」

 薫が光風らの方を向く。薫の首から強い光が発せられる。

「残念だが」光風は抹消を決意した。


 そのとき──


 金髪の女性がふわりと薫の後ろに現れて彼の背中に優しく手を伸ばした。「大丈夫、大丈夫!」優しく背中をさする彼女は瓏仙ろうぜんである。

 薫の首から発せられた光は消え、かわりに頭が生成された。薫の頭蓋と首がくっつかないという〈編集〉が解除されたのである。薫は元に戻った。

「おかえり!」瓏仙ローゼンが微笑む。

「ただいま、母さん」

 ザシュッ。

 薫の目の前で瓏仙ローゼンが袈裟斬りにされる。薫の視線の先には兎喰天とくいてんと帽ハット、それと見知らぬ化物がいた。その化物は子どものようにあどけない顔つきをしており、瞳は淡い緑色をしている。髪も淡い緑色で首下あたりの長さで整えられている。

「裏切り者を成敗したぞ〜!」と淡い緑色の化物は嬉々として叫ぶ。

「裏切り者が死んだ。キヒヒ、だがワシらにとってそれ以上に重要なのは星羅が死んだことだ! これでようやく爺さんも死んだ!」と帽ハットは巨樹に空いた穴をみて笑う。

 子×12や猩猩は目まぐるしく変化する目の前の展開に翻弄されながらも化物たちの反応を見てある違和感に気づく。彼らは神樹を守っていたのではないのか。なぜ神樹が死んで喜んでいるのか。彼らは“神樹を守るため”ではなく“殺すため”に動いていた。ではなぜ殺そうとしていたのか。その答えは兎喰天の口から語られた。

「私たちは長く続いた代理の座を手放し、ようやく始原の座を手に入れる。代理者の〈神樹の代理〉という原理が神樹の死によって無効(=〈編集〉)となった今、私たちは自らの存在を自らによって定義しうるのである。星羅よ、ご苦労であった。お前の役目はこれで終わりだ」

 兎喰天は光風らを見回し、それから薫を見る。だが薫は既に姿を消していた。

 兎喰天とくいてんは続ける。「薫の頭蓋、それの破壊をもって新世界は完成を迎える。すなわち世界のシナリオを書き換えることで我々の目的は達成されるのである。全ての代理者は薫の頭蓋を破壊するために動き、世界の在り方を変えなければならない。これは革命である。世界は薫の頭蓋を〈特異点〉としてひっくり返るのだ。ならば我々は薫の頭蓋を破壊することでこれを成し遂げなければならない。もう一度言う、これは革命だ。我々は革命のため、そして新しい世界の創造のために既存世界の支配者どもと戦争をしなければならない。間違った支配者を引きずり下ろし、今度は我々が天にとって変わるのだ。辛く苦しい日々を思い出せ、ゲキドクどもに殺された仲間を思い出せ、かたきは目の前にいて今も我々の命を狙っている。今こそ世界を震撼させ、覆し、我々の世界を創りあげるのだ。代理者諸君、準備はできているか? 最後の代理戦争を、そして始原者として永遠の平和を築き上げようではないか。神は死んだ。次は我々が神になる番だ」


 代理戦争とその先にある始原者の世界。代理戦争は薫の頭蓋の破壊によって終戦を迎える。ゲキドク側は薫の頭蓋を死守せねばならない。だが肝心の薫が姿を消している。

〈全知〉に頭蓋は必要ない、それは世界そのものが頭蓋となるからだ。光風の言説が正しいとするならば、薫の頭蓋の破壊とは世界そのものの破壊を意味する。

 猩猩は違和感を覚えた。薫の頭蓋が消えたのは薫が〈全知〉だからだとして、胴体の方が消えたのはなぜか。薫は〈全能〉なのか。いや、違う。違うが、薫の胴体が消えた要因は〈全能〉によるものだ──あくまでこれは仮説に過ぎないが、薫の中に「何か」がいる。そいつが〈全能〉だ。それが何らかの要因──おそらく金髪の女性の死亡──で覚醒(もしくは暴走)をしたために頭蓋だけでなく胴体も消えた。

 薫は〈全知・全能〉となったがそれ故に概念と化し、世界に干渉する術を失った。つまり〈無知・無能〉と成り果てた。薫を外在化させるための方法はあるのか。いや、ここで考えるべきは、〈全知・全能〉と〈無知・無能〉の両義性についてだ。対極にあるふたつの性質(もしくは能力)を交互に操る者を王と呼ぶ(それに対してひとつの性質を突き詰める者を神と呼ぶ)。〈全知・全能〉と〈無知・無能〉を内包=管理している「存在」がある。その「存在」は俺が作り出した文学的球体関節人形=代在ダーザインに近いのかもしれないし、或いは文学的球体関節人形を作り出した俺の方に近いのかもしれない。どちらにしても〈全知・全能〉と〈無知・無能〉が機能していると仮定すれば、それらを機能させるための「存在」があると考えることは可能だ。「存在」が早急に要請されれば、それはリポップという形で顕現するのか、もしくは〈全知・全能〉による身体の消失とのせめぎ合いで押し出されるように世界の外部に飛ばされるのか、残念ながらそこまでは分からない。

 王が王であるための場所、ふたつの性質を取り扱うための身体は必ずどこかに存在している。薫の居場所=玉座を探し出すために俺ができることは、頭蓋=世界を守ることと薫が生きていると信じて顕現の時を待つこと、究極的にはこのふたつしかない。識閾で薫の存在を感知できないのだから、今の時点で薫はこの世界に存在していない。後でリポップするのか、もしくは別の空間にいるのか、そもそもこの仮説自体が当たっているのかどうか、もう何もかもが分からない。つまり俺にできることは何もない。悲劇的な結論だ。

 兎喰天が声高らかに宣言する。「〈頭蓋戦争〉の開幕だ」

 オリーブが凄まじい衝撃音とともに現れた。彼女が持っているのはファーレンハイトの首である。

 子×12は代理者たちを見渡す。「兎は無限、翁は暴発、大きい緑は正義、小さい緑は支配。後ろにコソコソと隠れている者もいるようだ。光風霽月、ご指示を」

 光風が公共ゲキドクNO.1──すなわち全てのゲキドクの頂点──の地位と権力を行使して緊急通達を行う。「全てのゲキドクに告ぐ。樹神薫を見つけ出し、直ちに拘束せよ」


 子×12は猩猩に問いかける。「薫とやらはどこにいる?」

「知らん」

「そうか」

「あの……」とふたりに話しかけるのは火樹銀花である。

「なんだ少女よ」と子×12が火樹銀花を見る。

 火樹銀花はお前だって少女だろうと思いながらもそれを口に出すことはせず、早めに要件を済ませることにした。

 火樹銀花は上を指さす。「ずっと気になっていたのですが、あの大きな花は何ですか?」

「何と言われても花だと言うしか」

「いつから咲いていたのですか」

「何を言っているのだ、“最初から”に決まっているだろう」

「おいちょっと待て」と猩猩は言い、顎に手を当てて困惑した表情を浮かべる。「銀ちゃんの言うとおりだ。俺たちはアレを知らないが自然と受け入れている。最初から咲いていたっていうが、その最初ってなんだ?」

「それは……ん?」

「調べてみる価値はあるんじゃねえか? 薫があそこにいるとは限らねえが今回の件と関係ありそうな気がするんだ」

「彼の能力は〈花〉だったな。ファーレンハイト戦についてまとめられた報告書によれば、薫は吸う花と放出する花を自在に操るそうだ」

「あのでかい花がどういう性質のものかは分からないが、薫が咲かせたと仮定しても良いんじゃねえか」

「そうだとしても、わらわ達はなぜあの花について何も知らないのだ。あの花がいつ咲いたのか、なぜあれを違和感なく受け入れていたのか……全く分からぬ」

「同意見だ、全く分からんがとにかく公共の方で調査してみてくれ」

「分かった、こちらで調べてみるとしよう。だがそれはお昼寝の後だ。せっかく来てくれた敵たちには申し訳ないが、わらわはもうお昼寝の時間なのでアレたちにはご退場願うとしよう」

「そうだな、そうしてくれ」

 猩猩は空を覆うように咲く一輪の蓮の花を見、その真下にバベルズがあることに気がついた。「よく見やバベルズの真上に咲いてるんだな。あぁなるほどな、そういう事か」

「確かにな、それで何か分かったか」子×12が気だるげに相槌を打つ。

「全く分からん」

「そうだろうと思ったがやはりムカつくな。分かった風を装うなよ、この酔っ払いめが」

「へっ、全然酔っ払ってないんだが。生意気だなロリババアめ、おいこら」

 子×12は猩猩を無視して欠伸をし、それからひとつ手を叩いてこう言った。「サラバ」


【第3部:代理戦争】終

【第4部:頭蓋と天蓋のバラッド(仮)】執筆中

「『戻ってくる』とは言っていましたがまさかあなたの方だったとは、驚きです。そんなにここが気に入りましたか? えぇ知っています、あなたは好きでここに戻ってきたわけではない。世界がそう仕向けたというべきか、もともとそういう仕組みになっているというべきか。どちらにせよ、あなたは世界から追放されたのですから、ここにいる他はないのです。ですがね、あなたにここにいてもらっては困るのですよ。なぜかってそんなことあなたが一番よくわかっているんじゃないですか? あなたの大切な人はあなたの助けを待っている。それは私の大切な人でもあるんです。ですから、ここから抜け出して〈復活〉してしまいなさい。それで世界の在り方が変わってしまったとすれば、それは世界の方が間違っていたということです。大切な人を救えない世界など馬鹿げている。私が世界を終わらせてしまう前に、どうか姉上を助けてあげてください。そして姉上に獣耳をつけてあげてください。猫耳のカチューシャを託します。期待していますよ、薫さん」

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