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ゲキドク!  作者: 解剖タルト
第1章〈私はそれを識っている〉
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【第3部:代理戦争】第16話「WELL, LIVE IN IT, THEN!」

「薫さん、パンツみますか?」

「やだよぉ、こわいよぉ」

「ふふふ、かわいい」

 ──第16話「WELL, LIVE IN IT, THEN!」

 寮に住む薫と居候のファーレンハイト、勝手に入り込んで寝泊まりしているアウフヘーベン。ゲキドクと代理者と神が集う場所は世界のどこを探してもここしかない。

「おいアウフヘーベン、水戸黄門がはじまるからそこをどけ」とファーレンハイトが床に寝転ぶアウフヘーベンを蹴る。

「あらあら、これはどうもひよっこさん。観たいテレビがあるのね。楽しみがあるってことは生きる上でとても大事なことよ。でも残念ね、今から私はゲオで借りてきたアニメを観るの」とアウフヘーベンが得意げにファーレンハイトを見る。

「今日は黄門様が鎌倉に向かうんだぞ。DVDならいつでも観れるだろうが!」

「私は今観たいと思ったの。何故だか分かる?」

「は? 知らねえよ」

「薫さんがケーキを買ってきてくれたの。ケーキを食べて、珈琲を飲みながらアニメを観る。最高のひとときだと思わない?」

「お前飯食べなくても生きていけるだろ。死ねよ」

「あぁ愚かしい。薫さん、こいつにガツンと言ってやって頂戴」

 薫は二人をなだめる。「二人とも、俺は今から相棒を観るから仲良く散歩でもしてきてよ」

「殺すぞ」

「頭かち割るわよ」

 暴言を吐く二人だが、なんだかんだ言いながらも二人で散歩に出かけていった。

「はぁ、相棒観たら晩御飯作らないとな」


 とぼとぼと歩くふたり。

 ファーレンハイトがアウフヘーベンに話しかける。「お前ずっとその格好なのか?」

「これ? えぇ、これでも一応女子高生ですから!」とアウフヘーベンはお嬢様のように制服のスカートをたくしあげる。

「えっそうなのか? もっとおばさんかと思ってた」

「まぁひどい」

「でもよ、女子高生でも年中制服では過ごさねぇだろ」

「まあ神ですから」

「そういうもんかね」

 しばらく無言で歩く。アウフヘーベンがファーレンハイトに聞く。「それで、どこに行くのかしら?」

「それは俺のセリフだろ」

「あら、私が行き場所を決めても良いのかしら」

「クソ暑いから涼しいところにしてくれ」

「ふふ、それなら……!」

 二人が向かったのは近くのショッピングモールであった。

「お前金持ってねえだろ。こんなところに何の用があるんだよ」

「お金?」

「お金を知らねえお嬢様のフリするんじゃねえぞ。見て回るだけだからな」

「ケチ!」

「死ね!」

 ショッピングモール内をぶらぶらと見て歩く。

「ねぇ見て、この服着たら薫さん喜んでくれるかしら」

「お前神なんだろ。服いらねぇだろ」

「ケチ!」

「死ね!」

 クレープ屋の前に来た。

「急にクレープが食べたくなってきました」

「出かける前にケーキ食ったろ」

「それとこれとは別です」

「空腹を感じないってことは、満腹も感じねえのか」

「ご名答」

「しょうがねえな、これで買ってこい」

「あなたも食べるんですよ」

「えっ?」

「食べてるところを見られると緊張するので。乙女なので!」

「何なんだよ、めんどくさいな」

 二人分のクレープを買い、席で食べる。

「お前、なんで俺たちに協力することにしたんだよ」

「ヘベと呼んでください」

「ヘベってなんだ。……アウフヘーベンのヘベか、独特な省略の仕方だな。ヘベはなんで──」

「暇つぶしです」

「……。何か理由あんだろ」

「薫さんの頭を縦に引き裂かなきゃいけないので」

「物騒だな」

「ジョークですよ。ゴッドジョーク」

「何だよゴッドジョークって。微妙に分かりにくいジョークやめろ」

「そういうあなたはどうなんです? 裏切ってまで薫さんにつく理由があるはずでしょう」

「アッチにいると水戸黄門が観れないんだ」

「それは後付けの理由でしょう」

「後付けでもデタラメでもいいんだ。人が居場所を見つける理由なんてよ」

「ま、それもそうですわね。でもずっと居候しているわけにもいかないでしょう?」

「金は入れてるぞ」

「うそ!? でも収入はありますの?」

「今は無い」

「ふふ」とアウフヘーベンは笑う。「だったら私と一緒にゲキドクになりませんか? 公共ゲキドクと代理者側の両方を裏切って肩身の狭いあなたでも民間ゲキドクなら雇ってくれるところがあるかもしれませんよ」

「民間でも公共のやつらの認可はいるから、たぶん無理だろ」

「薫さんが行っているところはどうです? 小岩井ゲキドクでしたっけ。上手いこと話を通してくれるんじゃないですか?」

「なるほどな、考えておくよ」

「ふふふ、もしそこに行くなら、あなた、私の後輩ですね」

「後輩……、もしや小岩井ゲキドクに行ってるのか!?」

「薫さんを通して申請してもらいました。試験が受かるまで見習いとして頑張りますよ!」

「お前も物好きだな」

「どうです? あなたもご一緒に」

「お前がいけるなら俺もいけるかもな。一度薫に相談してみるよ」

「感謝してください」

「なんでお前に感謝しなきゃいけないんだよ」

「紹介料五千円」

「そのクレープで我慢しろ。というかお前食べるの遅すぎだろ」

「乙女はお口が小さいので」

「死ねよ」

 クレープを食べ終え、再びショッピングモール内を歩く二人。

「もしゲキドクとして働くなら寮を用意してくれるんだろうか」

「あら、もしそうでも私は薫さんのところから出ていきませんよ」

「奇遇だな、俺もだ」

「珍しく気が合いますわね」

「飯付きってのが良い」

「ご飯目当て? ゲスいですわね」

「そういうお前はどうなんだ」

「ひとりはさみしいので」

「今までずっとひとりだったろ」

「まぁ神ですからね」

「そうか。でもよ、神がひとりなのは〈契約〉が付き纏うからだろ。〈契約〉で結ばれた関係は、確実だがお互いに孤独だ」

「その通りです」

「〈契約〉がある限り、お前はどこへ行っても余所者だし、神である限り、〈契約〉以外で他者と関係を持つことはできない。ってことは、俺らに協力するにも契約がいるんじゃねえか?」

「寂しいことを言わないでください」

「神の権力を保持するための法なのだから仕方ないだろ」

「私の在り方は私で決めます」

「神としてではなくヘベとしてってことか」

「そうです。ですから私はあなたがたの前で神の力は使いません」

「それでいいのか? 不死身の権能も無くなるってことだろ」

「大丈夫です。私は死にません」

「……お前が良いなら俺は口出ししないよ」

「へっ誰があなたなんかの指図を受けますか」

「ムカつくな」

「それより、薫さんに何か買っていきましょう」

「買うって何を」

「食後のデザートで良いでしょう」

「ケーキ食ってクレープ食って、さらにデザートも食べようとしてるのか? どうせ乙女だからって言うんだろ。太るぞ」

「大丈夫です。私は太りません」

「……それは羨ましい」

「でしょう」


 食後のデザートを買い、帰り道を歩く二人。

 ファーレンハイトがアウフヘーベンに話しかける。「なあヘベ、あの時薫と俺を殺そうとしたのはなんでだ?」

 アウフヘーベンは少し考え、「神の気まぐれってやつです」と答えた。「私はあなたがたも代理者ももちろんゲキドクもみんな殺すつもりでした」

「おっかないな」

「それはあなたも同じでしょう?」

「俺は面白いものを見れればそれでいいんだ」

「ずるいですね」

 二人はしばらく黙って歩いた。アウフヘーベンがファーレンハイトに話しかける。「そういえば薫さんを一人にしてよかったのでしょうか?」

「敵襲を心配してんのか?」

「えぇそうです。ほらあちらの方見えますか? 煙が出ているでしょう。化物が暴れているんじゃないかしら?」

「あっちって寮の方じゃないか?」

「あらら」

 二人が急いで寮に帰ると寮の周りのあちらこちらに氷塊があり、薫の部屋のドアの扉が開かれていて、薫以外の何者かの気配がした。

「薫、大丈夫か!」「薫さん!」

 二人が慌てて中をのぞくと、そこには薫と、薫に抱きつく青髪爽やかイケメン青年と、逆立ちの練習をする50歳過ぎの女性がいた。

「あらら薫さんってソッチ系だったのね」とアウフヘーベンがニヤニヤと笑う。

「ちょっと待って、違うんだって! これは兄!」と薫が慌てて誤解を解く。

「大丈夫だったかかおるぅ、怪我は無いかぁ」

「大丈夫だからちょっと離れてよ!」

「今日は逆立ちが上手くできんな」

 ファーレンハイトが呆れた様子で立ち尽くしていた。「キャラが濃いなぁ」

 薫が玄関に立つ二人を見る。「あっそうだ、ファーレンハイトとアウフヘーベン」

 アウフヘーベンが手を挙げて「ヘベちゃんって呼んでください!」と言う。

「ヘベちゃんとがぶちゃん」

「はい!」「なんだ」

「おかえり!」

 ファーレンハイトは「あぁ」とだけ言い、アウフヘーベンを見た。アウフヘーベンは微笑み、敬礼をして言った。「ヘベちゃん、ただいま帰りました!」

 ──第16話「WELL, LIVE IN IT, THEN!」終

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