表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲキドク!  作者: 解剖タルト
第1章〈私はそれを識っている〉
11/36

【第2部:過去と今と未来の私】第11話「グッド・バイ」

「自分を犠牲にしてでも欲しいものはあるか?」

 あるさ。なければとうの昔に死んでいる。

 ──第11話「グッド・バイ」

 東蓋と優香、そして社長はバベルズの中を歩き回っていた。

「ゆうちゃんの話では直人さんは能力が使えるらしい。しかもかなりめちゃくちゃな能力です」

「えっめちゃくちゃなの?」優香が驚いた顔で東蓋を見る。「消しゴムにいちごの香りをつける能力だよ?」

 東蓋は話を続ける。「蚊を圧死させたり、ぬいぐるみをふんわりとさせたり……、能力の法則というか方向性が読み取れません」

 社長が優香に分かるように説明をする。「能力にはその元となるモチーフのようなものがあるんだ。例えば東蓋ちゃんの場合、書道が能力の始原にあたる。でも優香ちゃんのおじいちゃん能力はその始原が分かりにくい。始原が分かりにくい場合、考えられる理由はふたつある。ひとつ、始原そのものが概念的であったり曖昧なものであったりするパターン。例えば〈時間〉を元に能力を考えようとしても、形がないものだから能力の方向性が読みにくいでしょ」

 優香は納得した様子で相槌を打つ。「確かに時間って言われても、時間を止めてスカートめくりするとか、スカートめくりした過去を改変するとかいろいろできそう」

「わかるよおじさんもスカートめくりしたい」

 東蓋が社長を睨みつけ「ぶち殺しますよ」と釘をさした。

「うぐっゲホゲホ……、それで今の例で能力の元が〈時間〉であると知らない場合、始原が〈スカート〉である可能性や〈風〉である可能性などあらゆる考察がなされる。概念的な始原だと技の法則から能力の正体を解き明かすことが難しいし、それはすなわち能力の対策が難しいということにもなる」

「なるへそ!」と優香が言う。

「それともうひとつは能力を覚醒させている場合。例えばそうだな、〈生ゴミ〉を元にした能力が世界を震撼させることになるとは夢にも思わないだろう?」

「生ゴミ? すごく臭いとかそういうこと?」

「いやその逆だ。もちろん昔は臭かったかもしれないが、今はむしろ何の匂いもしないはず。生ゴミが臭くないとはどういうことか、そのからくりは単純だ。〈生ゴミ〉という能力の持ち主は自身の能力の解釈を変更した、それだけだ。だがそれによって恐ろしい能力を手に入れた。その能力とは能力の使用者が不要だと思ったあらゆるものを棄てるというものであり、更に、棄てることで能力の使用者は加速度的に力を増していった。そしてついには無駄なものを全て削ぎ落として神と呼ばれるまでになった。その名をアウフヘーベンという」

「生ゴミが神様になるのか……。おじいちゃんもそっちのタイプなのかな」

「どうだろう。断定はできないけれど、どちらにせよ優香ちゃんのおじいちゃんは強い」

 東蓋が立ち止まり、それに気づいた二人もその場に留まる。

「今のところ、直人さんどころか彼の能力の痕跡さえ発見できていません。すなわちめちゃくちゃに強いはずの直人さんがその能力を使えずにいるということになります。その場合考えられるのは彼が能力の使えない状況下に置かれているということです。そこで私の墨域でバベルズを解析したところ、一箇所だけ解析が不可能な場所がありました」

 社長が言う。「そこに優香ちゃんのおじいちゃんがいる可能性が高い」

 優香は東蓋の腕を掴む。「ねぇ、その場所ってどこ?」

「それは、演劇ホールです」

 優香が東蓋を引っ張る。「よし、演劇ホールね。じゃあ早速行こう!」

 東蓋が制止する。「ゆうちゃんちょっと待って。その前にいろいろと考えなきゃいけない」

「何を? はやくおじいちゃんを助けに行こうよ」

 社長が優香をなだめる。「落ち着くんだ、優香ちゃん。演劇ホール内で能力が使えないということは、当然東蓋ちゃんの墨も使えないということになる。どのように救出するかをある程度シミュレーションしておく必要がある」

 優香が言う。「おじいちゃんの方へばばっと走っていって、おりゃっと担いで、とりゃあと逃げる。能力が使えないならそれしかなくない?」

「まぁ実際そうなんだよね。でもおそらくだけど……」と社長は言い、東蓋の方を見る。

「墨域での解析の結果、演劇ホールの前に何かがいます。十中八九、敵です」

「そんなぁ」優香はしなしなになった。

 東蓋は微笑み、優香の両肩を掴んで力強く言う。「敵は私たちが何とかする。だからゆうちゃんがおじいちゃんを助けてあげて」

 優香は大きな目をキラキラさせて東蓋を見た。「うん! 私頑張る!」

 優香がルンルンとスキップをする。社長が東蓋に近づきコソコソと言った。「大丈夫なのかい?」

「社長にも手伝ってもらいます。最悪、時間稼ぎさえできれば何とかなります」

「そのこともあるが、優香ちゃんだよ」

「……ゆうちゃんも自分で分かっていると思います。その上でおじいちゃんを助けたいと言っているのですから、私たちがそれを止めることはできません」

「まぁ、それもそうだね」

 東蓋は優香に声をかける。「ゆうちゃーん、私たちから離れないでー」

「はーい!」と優香が返事をし、東蓋たちのもとへ駆けていった。


「さぁ演劇ホールの近くまで来た。準備はできたかい」と社長が二人に向かって言う。

「おっけー!」「大丈夫です」と二人はうなずいた。

「おじさんもいつでもおっけーだよ。東蓋ちゃんのタイミングで始めてね」

「わかりました」東蓋は目を閉じ、手を合わせて集中力を高める。

「いきます!」

 墨域発動、空間転移、デコイ召喚、束縛。それら全てを同時に実行し優香を演劇ホールに送り込むことに成功した。

「我々の邪魔をするというのか? 痛い目を見ますよ」

 五メートルを超える巨大な化物は機械音声のような無機質な声でそう言うと、墨による束縛を力ずくで解除した。

 社長が東蓋に言う。「あれは暴力の代理、オベリスクBだね。いやはや、王族毒物を討伐すると書類作成が面倒なんだよ」

「そんなこと言ってる場合ですか、集中してください」

 オベリスクBは亜空間移動により社長の背後に回り込み、拳による強烈な一撃を放つ。衝撃が空間全体に伝わり、窓ガラスが粉々に割れる。

「どっこいしょっと。おじさんは社長だからね、時間を稼ぐんじゃなくってお金を稼ぐことにするよ」

 先ほどの衝撃はオベリスクBの拳によるものではなく、社長が化物を地面に叩きつけたためのものであった。

「社長めっちゃ強いじゃないですか……、お好きにどうぞ。適当に補助します」

 化物は立ち上がり、瞬時に体勢を整え、再び亜空間に移動した。今度は東蓋に拳を振るうが東蓋は身体を墨化させてこれを無力化、墨化の後ろで構えていた社長が化物の拳に呼応するように自らも拳を振るった。拳が重なり、再び空間が大きく揺れる。

「おや、先ほどより強くなったね」と社長が化物に言う。

「我々は暴力を吸収し、自らの力に変換する。全ての暴力を独占し、我々に歯向かう者たちの暴力を禁ずる」

「そうかい」と社長は呟き、蚊を追い払うような動きで手をばっと振ると、化物はその衝撃に耐え切れず、たちまち音を立てて崩れ去った。

 社長はかつて化物だった瓦礫に向かって話しかける。「それより気になるんだが、君たちは何体いるんだい?」

「えっ……あぁ“我々”ってそういうことか」と東蓋が納得する。

「我々は子孫です。地獄の底から始祖が蘇る」

「話聞いちゃいないな」と社長は呆れ顔をする。

「それにしても社長強いですね。少し見直しました」と東蓋が社長に言う。

「もっと褒めてきゃるるん」

「あぁすごいキモいです」

 突如バベルズ全体が揺れ、少し傾いたかと思うと、階下からバキバキと床を破壊しながら猛スピードで何かが這い上がってくる音がする。

「あれ、ここって地獄なのかい?」

「さっき言ってた“始祖”でしょうか」

「ご名答。我々が始祖の復活です」瓦礫から、壊れかかってノイズ混じりの声が聞こえる。「さあ始祖よ、ここにいる全ての者を滅ぼしたまえ」

 社長たちがいる階の床が破壊され、始祖が現れる。先ほどのものと比べてはるかに不気味で禍々しい。かつてオベリスクBだった瓦礫を鷲掴みにし、口をあんぐりと開けて丸呑みにした。

 オベリスクBの始祖が二人をギロリと見、不敵な笑みを浮かべる。

「これはこれは小岩井の餓鬼じゃないか、美味しそうな者たちを引き連れて何をしているんだい?」

「君たちを殺しに来たんだよ」

 オベリスクBの始祖は充血した目をぐりんぐりんと回しながら頬を上げて「ひっひっひっひっひっひっ」と機械のような声でけたたましく笑った。

 始祖が社長を睨みつけ言う。「地獄に来てまで仕事熱心なことだ。全てを失ったお前に我を殺せるか?」

 天井が破壊されオベリスクBの始祖とほぼ同じ大きさの拳が現れる。拳は隕石のように社長と東蓋に降り注ぎ、二人をはるか階下まで突き落とす。

「……? なんと、女の方は無傷ではないか!」

 東蓋がぽっかりと空いた巨大な穴から顔だけを具現化させて蛇のようにぬるりと這い上がる。墨化させた身体を元に戻し、地下まで続く穴を見つめた。

「あまりに急だったので社長を助けることはできませんでしたが、まぁ大丈夫でしょう」

「攻撃を無効化できるとは。その能力、いただこう」

 巨大な拳がもうひとつ現れ、ふたつの拳で東蓋を絶え間なく攻撃する。

「それにしても社長遅いですね、何をしているのでしょうか」

「亜空間から我の子孫を呼び出した。ざっと百体はいるだろう。残念ながら小岩井はここで死ぬ」

「そうですか」

 東蓋は墨化させて攻撃を回避し続ける。

「賢い小娘だ。我に攻撃すれば、我は更に強くなる」

 始祖は丸々とした目を東蓋に向けた。「でも残念でした、もう見切ったよ」

 始祖は巨大な手でパチンと、蚊を潰すように東蓋を潰した。

「成功、血がついた。さて、いただこう」

 手のひらにへばりついた東蓋をつまみ、大きな口をあけて丸呑みにした。

 ──そんなに欲しいなら、あげるよ。呪いだ。

 始祖の身体が奇怪に変形したかと思うと、大きく膨らみ、破裂した。赤紫の血が夕立のように降り注ぎ床を濡らした。

 東蓋は床の極小さな黒いシミからぬるりと現れた。「さすがにキツいな」

 だが安心したのもつかの間、化物の汁と瓦礫の中に何者かがいる気配を察知した。

「本物の我を見たのはキミがはじめてだ。光栄だと思いなさい」

 30代の黒いボサボサ髪で筋肉質な男性──オベリスクBの始祖の本来の姿である。

「油断した。これは困りましたね」

「次こそ頂こう。我が一部となりなさい」


 時間を少し遡り、優香が演劇ホールに侵入した場面。

「おじいちゃん!」

 小寺直人はバベルズ内にある演劇ホールの舞台上で椅子に座らされ、手首と足首を鎖で固定されていた。

 目を閉じていた直人が顔を上げ、困惑した様子でホール出入口の方を見る。

「ゆう! ……どうしたんだ、その──」

「助けに来たよ、おじいちゃん!」

 優香は直人のもとへ一目散に駆けていったが、段差につまずいて転んでしまった。

 直人は首を横に振り、「こちらに来てはだめだ」と言う。

「なんで?」優香は床に横たわったまま顔を上げて直人の方を見る。

「自分が一番よくわかっているはずだ。自分を大切にしなさい」

「……」

「今ならまだ間に合う。大丈夫、二度と逢えなくなるというわけではないんだ。帰って一眠りするといい」

 優香は立ち上がり、直人の方へ歩いていく。

「わかってる。自分のことは自分が一番。私、目が見えなくなってきてるんだ」

「そうだろう、でも今ならまだ──」

「でもおじいちゃんの姿ははっきり見えるの……、ねぇおじいちゃん」

 二人は見つめあう。

「もう死んじゃったんだね」

「あぁ、ごめんよ」

「ううん謝らないで。私が助けに来るのが遅かったの」

 直人は首を横に大きく振る。「違うさ、どの道こうなる運命だったのだ。それに、最後にこうやってゆうに逢えたじゃないか! 俺は幸せだぜ」

 優香が優しく微笑む。「おじいちゃんに言わなきゃいけないことがあるの。おじいちゃん、手紙のお返事できなくてごめんね」

 直人は豪快に笑った。「あはは! 全然構わないよ。そうか、届いたか! いやはや手紙を書いたことはもちろん覚えているが、まさか届くとは思わなかった」

 優香がスカートの左ポケットから手紙を取り出した。「手紙を書いてきたの。文章ヘタクソだけど。ええっと、こっちの向きであってる?」と言い、直人が手紙を読みやすいように手紙を前に差し出した。

 直人は深く頷く。「あぁそれでいい、ありがとう」と言い、手紙を読みはじめた。

「……あっ、おじいちゃん泣いてる? 泣いてるよね!」

「泣いてなんかないさ! 男が泣くな、みっともないぜ!」

「おじいちゃんその考え古いって」と優香が笑う。

 黙読──直人が鼻をすする音だけが聞こえる。

「手紙ありがとう」

「うん! あ、それでねそれでね──」優香は直人の隣に座った。

 直人と優香は逢えなかった数年間を埋めるように様々なことを話し、笑った。

「ゆうがせっかく来てくれたんだ。良いものをプレゼントしよう」

「プレゼント! なになに?」

「希望の光だ」

「何それ!」優香が笑った。

「さて、そろそろ外の友達がゆうを連れ出してくれるはずだ」と直人が言う。

「もっと話したかった」

「そうだな」

「おじいちゃんも消えちゃうの?」

「大丈夫。ゆうを守るのが俺の仕事だ。ずっと見守ってるさ」

 直人は優しい声で言った。「忘れ物はないか? ハンカチとティッシュは? 携帯とお金は持ったか?」

「オールオッケー!」

「大人になったな」

「うん!」

「行ってらっしゃい。気をつけて」

 優香は涙をこらえて元気よく手を振った。「行ってきます!」


 場面戻ってオベリスクBの始祖との戦い。

「……そろそろ社長が下の敵を討伐し終わった頃でしょうか」

 東蓋は社長に助けを求めるため、墨域で階下から社長を引っ張り上げた。

「痛たたた、ぎっくりぎっくり」

 社長は階下の全ての敵を倒したが、ぎっくり腰になってしまっていた。

「盾の代わりにはなりそうです」

 始祖が首を鳴らす。「我が為に命捧げよ」

 東蓋と社長は臨戦態勢に入る。だがその背後に、別の気配。二人の背筋が凍りついた。

「すみません、通ります」

 東蓋と社長の間を通り抜ける者。東蓋とほぼ同じ背丈、長く艶やかな銀髪、凛とした美しい横顔、青い瞳、白い肌に水色のセーラー服。

 オベリスクBが怪訝そうな顔をする。「何者だ?」

 社長が東蓋に目配せをし、東蓋は演劇ホールの出入り口をちらと見る。「一か八かです」

 東蓋が墨域を発動し、それに合わせて優香が演劇ホールの扉を開く。

「ただいま、とっちー!」

「おかえり、ゆうちゃん」

 社長、東蓋、優香は無事その場を離れることができた。

「逃げられてますよ、気づいてますか?」

「お前、我を馬鹿にしているのか?」

「まさか! 始祖様を馬鹿にしたら舌を抜かれてしまいます」

 そう言いながら彼女はべーっと舌を出した。

 始祖が巨大な拳を召喚したかと思うと、次の瞬間には床に大きな穴が空いていた。

 彼女は元いた場所から動くことなく、宙にぷかぷかと浮かんでいた。

「私は死にませんからいくら殴っていただいても大丈夫ですよ」

「死なないだと?」

「私は時間を捨てましたから歳をとりません。また、肉体も捨てました。ですから死ぬことがないのです。あなたはここで死ぬのですね、愚かしい」

「小生意気な娘、……もしやお前、ア──」

 オベリスクBが喋り終わらないうちに、突如としてバベルズが切断され、それに巻き込まれるようにオベリスクBは胴を袈裟斬りにされ息絶えた。

 彼女は間一髪でこれを避けた。「この閾はおそらくあのクソガキでしょう。さっさと死ねばいいのに。いいえ、時間の問題でしょうね。あぁ愚かしい」

 ──第11話「グッド・バイ」終

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ