2の世界を跨いだ経緯
「まったく、何故わらわはわらわになったのじゃ……」
あどけない彼女は“転生体”であり、本来この世界の住人ではないことは先の言葉で理解していただけたことだろう。
転生して間もない彼女の言葉遣いが本場のそれである理由は後述する。
まずは彼女がこの世界に“転生体”として誕生した―――というのは実は正しくはないが、ともかく現状を生み出すこととなった経緯を見ていこう。
元々、彼女の中の魂は本来、筆者の住まう世界に存在する『日本』という国に存在する人間のうちの一人の器に収められていた。
時は元世界にして西暦2032年、世界的に見ても経済状況が芳しくなく、『日本』という島国に於いては衰退の一途を辿りかけているような状況であった。
ある意味ではとうの昔に滅亡していたとしてもおかしくないような状況が長年続いている最中、“彼”は前向きだったということだけは疑いようがなかった。
「今日もよかったな~、『ブラックロック・プリンセス』!」
その時“彼”はスキップを無意識に踏むほどに頗る機嫌がよかった。
“彼”が口ずさんだアニメのタイトルと思われるものについて詳細は省くが、何はともあれその作品を視聴したが故の機嫌の良さなのだろう。
「特に今日から出た新キャラがまさに『儂が賢者なのじゃ!』的なBBA口調なのに外見はしっかりと幼女っていうどストライクな属性持ちなんだからそりゃあスキップも自然に出るよなぁ!しかもしっかりと実年齢は人間では到達できない人類不踏の値で、エルフとも魔女とも言える長命種の特徴としてもがっつり理に適ってるのに外見が小学生なのか幼稚園生なのかっていうギリギリのラインを攻めてくる強気なキャラ設定は昔あったあの『ロー○ンメイ○ン』を髣髴とさせるよねって親友に言ったらガチ同意でさらに理解を深められるからロリBBAはマジで至高のジャンルだと言っても過言ではないよな!そんなキャラが今日からアニメキャラとして縦横無尽にフラグを立てては壊し立てては壊しの連続でこの先何が起こるかわからないって伏線文句を使うほど暴れてくれるんだから俺的には今から来週が楽しみで仕方なくて仕事も手につかなくなりそうだけどその点についてはあのキャラがいる限り問題なくテンションMAXで全部片づけられるはずだからますます楽しみが募ってヒャッハーな気分が抑えられねえぜ!!」
長い長い長い長い。
マニアックすぎるというか、感想を伝えたいのか気分が高揚していることだけは伝わってくる。
元々そのような趣向があったということも、今の長科白から容易に理解できただろう。
逆に、今のような気分の高揚が油断を招き、凄惨な事態になろうとはだれも知る由はなく―――それは間もなくして起こった。
急停車しようとした大型トラックの急ブレーキ音と、
その後の衝撃音、あるいは衝突音が盛大に響き渡り、
一人の男性は、僅かな時間宙に浮き――――
そのまま12メートルほど先まで、ブッ飛ばされてしまった。
慮外な方向から、“彼”は自身の左側面から甚大な衝撃を抵抗なく受けてしまい、肉体の損傷もまた甚大な状態に陥ることになった。
即死までとはいかなかったものの、痛覚を体感するまでもなく、薄れゆく意識の中でまばゆい光かと思うほどの“何か”から目を逸らせないまま、次第に“彼”の瞼は現世から下ろされた。
実際のところ、筆者の世界における『ライトノベル』や『なろう系小説』などでもよくある、交通事故死による異世界の転生であるわけなのだが―――
大体の場合、現世での死亡から異世界への転移までの間に何かしら神様(主に女神)らしき存在が彼の魂の前に姿を現し、様々な手助けをしたり手違いであったが故に優遇したりなど、異世界で生活する上でのアドバンテージを授かるのが王道とされているようである。
だが、こと“彼女”に於いては記憶をいくら前世まで遡ろうと体感したような感覚はなく、そのような経緯はなかったんじゃないかと、すでに結論はついている様子だった。
不思議なことに、前回『無意識に表示したステータスウィンドウ』の中には、
≪加護 【創造神アーシア】≫
の項が明確に表示されていたため、この≪創造神アーシア≫たる存在とのアプローチがなかったわけではない。
というより、彼女自身が邂逅した記憶を持っていないだけだったのだ。
意識が奥深くに沈んだまま神界に送られてきた当時の状況を振り返ってみると―――
≪神界側の不注意でも手違いでもなく、あれはただ単にその方の気分高揚による不注意で起きた予定外の損害である≫
≪本来の予定はもっと先だったのだが、あれほど幸せな思いを抱いたまま現世を離れた魂は極めて稀≫
≪それを初めて目に出来た僥倖の礼代わりに、異なる世界に於いて転生を言い渡す≫
意識を取り戻せていない魂の前にあったのは、人間世界の単位にして身の丈数十メートルはあろう神体に、見目麗しい顔作りをしていながら荘厳な雰囲気を醸し出している女性のような存在であった。
≪とは言うものの、あちらに空虚なままの身体へ魂を定着させるという手法を取る以上、厳密には転生ではないが、この魂が身体を変えどう生きるのかに興が乗ったのも事実―――≫
≪彼の者が趣向としていたそのものの存在はこれまでにない素質を持ちながら開花に至らず、期を同じくして魂が世を離れた空の器。そのままでは口寂しい思いをするだろうから、少しばかり僕の加護を下ろしておいてやろう≫
≪後は己が力で何とかせよ≫
と、ここまでが彼女になる前の魂の時にあったアプローチであった。
便宜上『転生』として取り扱うと彼の創造神も言っていたためそれに倣うとして―――
彼女がこの世界に転生する前の魂だった時に授かったうちの一つが、前述した加護である。
そして無意識にだが表示させた『ステータスウィンドウ』も能力の一つであるが、今この時点ではまだ気づいていない。
そして一番最初の科白について補足があるとすれば――――
「まったく、何故わらわはわらわになったのじゃ……」
(まったく、何で俺はわらわキャラになってんだ……)
“彼”が出すはずの本来の言葉は、“彼女”として出る今の言葉に、自動的に変換されている―――ということだった。




