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ロリババアって〝職業〟なの??  作者: 森羅 葉
第一部〝世界八大の謎伝・一項目の謎〟
21/31

20(負重)の違和感

「あ"~~~………全く、騒々しい目に遭ったわい」

 (あ"~~~………くっそ、面倒な目に遭ったぜ…)


むす~っとした顔ですんすんと泣きの余韻を残すポーラを尻目にロイリーヌは弟子の涙と鼻水でべたべたになった顔を濡れた布巾で拭っていた。

大きなお友達がこの場に居たらおそらく「我々の界隈ではご褒美です」と言っているであろうこの状況に置かれながら、魂自体は〝彼〟である彼女にはそんなことは関係なく普通にべたべたになって居心地が悪くなるくらいにしか思っていないのだが、何はともあれ窮地は脱したようである。

弟子の涙と鼻水で窮地に陥るという中々に滑稽かつ意味の分からない状況下なわけだが、それはそれとして。


(お前目の前にいるのが純正の日本男児だったら襲われても仕方ねえからな!?)

と、魂の言葉が口から出るのを必死に抑え、ロイリーヌは佇まいを正して向き直った。


「ったく、冗句一つで取り乱しおって、別の意味で『なんちゃってエルフ』なのかやお主」

 (ジョーダンかましただけで大泣きしやがって…だから『お惚けエルフ』だってんだお前……別の意味で)

「え~ん」

「泣く時だけ口元に表情が出るのは何某かを刺激しかねんからせめてしかと反応してもらえんか」

 (口の形だけ感情豊かってどういうこった、大きなお友達の性h…ん"ん、どうにかなっちまうからちゃんと表情見せてくれよ


まるで鼻の上まで兜を被った女性騎士のような印象を受けかねない表現である。



知り合ってから1年も経過してはいないのだが、弟子として親密度は高まってきたのか、冗句なりとも多少の表現を多彩に活用し出している。

『なんちゃってエルフ』という単語を、元は『頭抜け林人』とロイリーヌの口を介していた過去があるが、それはまた別のお話。


「大体お主は――――」 (そもそもお前は――――)




刹那。



ほんの刹那だったが、何かを察知したのか、二人の意識が同時にそちらに向いた。

先程のギャグめいた表情・顔つきから一転、意識を向けていた二人の表情が次第に神妙な面持ちへと移り変わる。


「――――お師匠、これって…」

「気付いたかお主よ。益々以て天賦の才極まっとるの」

 (やはり気付くか…天才肌が努力したら無敵だな)



刹那レベルの超絶短い時間だったにも拘らす二人とも察知したのは感嘆を超える。

問題の違和感の正体についても、粗方察しはついているようだった。


「ここまで明確な違和感は数百年ぶりじゃ。わらわがこの森を、長い年月をかけて無害化するまでのあの感覚そのままじゃ」

 (こんな思いをしたのはいつ以来だったかな…俺が途方に暮れそうなほど時間かけて森を安全化させようと奮闘していたことを思い出す)

「ということは、やはり…」

「うむ…今までずっと自然と共に温厚に過ごした、彼奴等の昔の気配じゃの」

 (ああ…あいつらが獰猛だった時の気配だ。安全化してからはずっと仲良かったのにな)


かつてレイレスティオ共和国にて、悪気あっけに囚われたような人物が生来の性格や言動と食い違う、あるいは堕ちているようなものへと変貌するといった事象があったことを二人は思い返した。

だが、それは「影響した/された人物を原因として生じるものである悪辣な心気」のことであり、今回感じた違和感の正体はこれとはまったく別物であることに、ロイリーヌは久しからぬ思いを抱いている。


(しかし、エサに混ぜてずっと調子を見てきたあいつらが、何故また異変を起こしたんだ……そこがわからねえ)




現ログハウス近辺では、はるか昔―――と言っても二百数十年前の話だが、独りスローライフをしつつも作物被害に遭い続けてきた〝彼〟の途方もない年月をかけて生み出した薬剤を投与して抑えつけてきた、人間以外の生物が身を堕とす危険性を孕むという性質に影響される要素がある。

一度でも身を堕としてしまった生物は本来の野生の力を十二分に発揮するため、基本的には王国直下と同義に捉えられている『閃光の白騎士隊』を初めとする部隊がこれを捕獲ないし討伐して世界の均衡を保とうと人類は戦ってきた。


尤も、その中でも過去類を見ない速度で隊長の座を取り切った林人エルフに贈られる名誉の職≪ルルストル・ハイエルフ≫を拝しているポーラほどの実力者ならば、ロイリーヌを背後に負ってもなおものの1秒足らずで全てを斬り伏せる事は容易い。

しかし、ロイリーヌと出会った今のポーラは、全てを斬り伏せる事よりも『全てを掬い助ける事』を選ぶ。

何故なら、ポーラは師と仰ぐ彼女と出会ったことで『全てを掬い上げ、また救い上げてくれた大恩人』であることに由来している。



「お師匠、私はあの子たちを一斬に伏すようなことはしたくありません。ついては、何らかの対策とご指示をいただけないでしょうか」

ポーラが問いかけるも、ロイリーヌから回答は帰ってこない。

「お師しょ――――」


目線を軽く向けただけで、ポーラは一瞬で多量の汗を感じ、総毛立った。



(な―――なんだ、この『紅い流動』は――――!?)



エルフ齢25の彼女がこのレベルの強力な気配を感じ取ったことは数える程度にしかないだろう。

それでも長く目線を向けていると、自身の根幹から全てを刈り取られてしまいそうな、そんな危険すらも手に取るようにわかる。

経験浅くも明確に感じ取れるこのオーラめいた『紅い流動』に曝され続けると、自分も恐怖で気が狂ってしまいそうになる。


そう感じるほどの、ロイリーヌの『怒りのオーラ』だった。




(せっかく苦労してトモダチになれたあいつらを何の目的があって暴走させたのか知らねえが―――)


ロイリーヌの魂の声が、拡声器を使ったかのような声量で窓の外にまで響き渡った。






「(誰かは知らぬが、往生の覚悟は済ましとれよ―――この痴れ者がァ!!!)」






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