1から始める“ロリババア”…?
森林の奥深くにひっそりと佇む一軒家。
ログハウスとも表現すべきこの一軒家は、周囲の森林を素材に作られているだろう木材“のみ”で建築されていると思われる。
今は形式的にこの一軒家を『ログハウス』として呼称する。
内装は比較的簡素に構成されており、一般的なテーブル(一基)や椅子(三脚程度)、最低限の食器棚(大きいもの一点)にコンロのようなもの(大口一台)が備え付けられている。
端に作られているオープン型の階段を上に上ると、下階とは一変した毒々しい雰囲気を醸し出す作りになっており、階段と反対の方向に置かれている黒紫のベッド(シーツもやや黒めの紫)があり、そのベッドと階段を挟むように大きな蒼黒い壺のような鍋がこれでもかというほどの存在感を演出している。
随分と特殊な間取りになっているようで、階段やベッドの位置から察する通り家具や主要置物は隅ではなく壁の辺の真ん中にそれぞれ置かれており、残りの二辺の真ん中にもそれらしきものがある。
片方の辺には煌びやかとは言えないどころか真逆の言葉を使う方が適切だとも取れる控えめの鏡台が、ベッド側に椅子を置く形で存在しており、その反対側の辺には下階の食器棚とは似ても似つかない色をしているかなり大きな棚があり、中には様々な薬草類や薬瓶らしきものが乱雑に収められていた。
清潔感さえ感じる下階とは打って変わった、如何にも“魔女”がいそうな上階は床の至る所に薬草の端材やら鍋から飛び散ったと思しき液状の汚れやらがこれでもかというほどに散乱している。
二面性を持った人物が一人いるのか、それとも各階に一人ずつ住んでいるのか、判断に困るほどの雲泥の差の状態であった。
このログハウスが建っている位置の周辺は、前述した通り森林が広く続いており、そこかしこに様々なものが生態を築いている。
現代世界で見慣れたものや、そうではない異質なものまで種類は限りなく広大に存在していて、人がそれ目当てに採取に来ることも珍しくはなさそうである。
「珍しくはなさそう」と表現したのは、この世界が“現代世界”であればという話である。
何故なら、どこからともなく“現代世界”ではありえない獰猛な生物も等しく生態を共にしているからだ。
そんな中で一見佇むこのログハウスに、だれが住みついているというのだろう。
余程の物好き―――というよりは、余程の世捨て人でもない限り、ここを拠点に考えることはないだろう。
この状況の中、ログハウス上階のベッドに動きがあった。
「んあ~……」
明らかに声のトーンが高い声が、おどろおどろしい上階の雰囲気に見合わないまま聞こえてくる。
あどけない小さな体が腕を上げて伸びている様が、暗いながらに見える気がした。
「…はぁ。やはりわらわは一度死んだんじゃな」
ボソリと呟いた一言には多角な思いが詰められていた。
驚愕、後悔、絶望、放棄。
「仕方なかろう。じゃが今まだ数日経っておらぬ現状から、わらわは神に物申したい」
あどけない小さな体が伸びを終わらせてさらにボソリと一言呟くと、今度はその腕を天高く力いっぱい突き出して大きく叫んだ。
「なんでわらわの職業が“ロリババア”ってなっとるんじゃああああああああああ!!!」
彼女が無意識に表示したステータスウィンドウにはこのように記されていた。
詳細は今この時点では省略する。
≪職業 ロリババア≫
≪称号 転生者≫
≪加護 【創造神アーシア】≫
―――彼女が持つ苦難は、常人には理解し難いものなのだろう。