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第7話 タナトスとダクネスと聖剣

 しかし、タナトスはやりはサンベリルに微笑むと、王の方へ歩いて行った。


「サンベール王、サンベリル王女との結婚を認めてくれるならば、私は過去を悔い改め、サンベールとダークレイの平和に尽力しよう」


 にこやかに告げるタナトスに、王はしばし言葉がでなかった。

 娘と封印されていたはずの「闇の支配者」と呼ばれたタナトスが……頭が追いつかなかった。

 王妃も同じで、ただタナトスに恐怖も抱き、夫の肩にしがみつくように彼を見ていた。


「騙されてはいけません! お父様!」


 スファレが両親を庇うように、片腕を伸ばして間に割って入った。


「お姉様を騙し、お父様とお母様まで騙そうなど許さない!」


 そして、自分も騙されていた。スファレは形相凄まじくタナトスをにらみつけた。



 タナトスは怒りと、悲しみの混ざった瞳でスファレを見返した。


 頭に血がのぼったスファレがその瞳に気づく前に、そして、サンベリルが口を開く前に、ダクネスがスファレと共鳴したように叫んだ。


「そうだ! 騙されぬぞ!」


 そして片腕をあげると、漆黒の長剣を出現させた。


 難なく出せたのはタナトスが結界を破ってくれたおかげだ。闇の魔力も問題なく使えそうだった。


 剣を見たタナトスは冷たい表情に変わると、片腕を伸ばしてダクネス目掛けて闇魔法を放出した。


 ダクネスは剣で受けたが強力で弾くことができず、喰らい続けるのはまずいと判断した。幸い、同じ魔法を持っておりタナトスの魔法にぶつけた。

 これならば近距離で受ける剣よりよい、しかし、タナトスの魔力の方が強いことを悟った。タナトスの細身を見た感じから、魔力量は自分の方が多いようだが、それでいつまで対抗できるかわからない。


「ああっ、ぐく……っ」


 闇魔法がぶつかり合う影響で、王が苦しみ始めた。


「お父様とお母様を早く、安全な場所へ!」


 スファレは命じると同時に、姉の元へかけつけた。


 サンベリルは座り込み、混乱に揺れる瞳で拮抗している闇魔法を見つめていた。

 スファレは膝をつき姉の両肩を抱いた。


「お姉様も早く、ここから離れて」


「いいえ、離れるなどできません」


 両手を地につけて拒み、タナトスを見つめた。

 彼が攻撃した驚きと悲しみに満ちた瞳で。

 タナトスもサンベリルの様子に気づいていたが、ダクネスの魔力に中々手応えがあり、今は彼女の方を見る余裕はなかった。


 そこへ、スファレの腹心の騎士が駆けつけた。


「スファレ様! 聖剣です」


 木製の宝箱が開かれ、全体が白銀に輝く短剣が現れた。


「でかした! これで……」


 手に持ってから、スファレは短剣であることに心許(こころもと)なさを感じた。

 以前は長剣もあったのだが、タナトスとの戦いの際に打ち砕かれていた。代わりに、タナトスを封印できるほど消耗させることはできたが。

 今は、タナトスだけでなく同レベルの王子もいる。

 短剣だけで、どうにかできるだろうか。


 動きが止まったスファレに、騎士がささやいた。


「早く、その剣でタナトスを仕留めてください。王子に気を取られている今なら!」


「や、やめて!」


 サンベリルは妹に手を伸ばした。


 スファレは奪われないようにと、グッと聖剣を握る手に力を込めた。

 しかし、心は揺れていた。

 タナトスを刺して姉を悲しめたくない。けれど、ダクネス王子を刺すわけにはいかない。

 そんなことをしたら、平和協定が崩壊するかもしれず、それに、父の病を気にかける優しさとタナトスに立ち向かう勇敢さと力を持つ男を傷つけたくはない。


 スファレは別に狙いを定めると、聖剣に光魔法を込めた。


 剣は光り、スファレの手から放たれて、闇魔法のぶつかりあう狭間に見事命中した。

 普段から、投擲(とうてき)ゲームをしてきただけはある。

 スファレはニヤリとしたが、それも一瞬だった。


「あ、危ない!」


 聖剣は跳ね返され、スファレとサンベリルに向かってきた。それを騎士が体で庇い受け剣は地に落ちた。


「大丈夫か!?」


「はい、こ、これしき」


 騎士は剣の当たった腕を見た。服は破れていたが、幸い強い痛みも外傷もなかった。

 スファレは急いで剣を拾い上げた。


「私の魔力では闇を切り裂けなかった、すまない。お姉様!」


 スファレは姉に聖剣を握らせた。


「これに魔力を込めてください。お姉様の力なら、今度はできます」


 サンベリルは両手で聖剣を包んだが、手は震え力が出なかった。

 タナトスもダクネスも傷つけたくはない。

 この場で剣を持つことに、拒絶心があった。


 その間状況を見回すスファレは、押され気味となって苦しげなダクネスに気づいて焦った。


「早く! ダクネス王子が負けそうです。もし、負ければまたタナトスの悪名が轟くことになりかねません。今のうちに終わらせるのです」


 スファレの言うように、タナトスがダクネス王子を死なせるようなことにはさせたくない。

 サンベリルは目を閉じて、祈るように光魔法を剣に込めた。剣はスファレの時より激しく輝き出した。


 スファレは聖剣を受け取ると、狙いを定め満身の力で投げた。


 聖剣は闇魔法の狭間にとどまると光りを膨張させ、ふたつの闇を切り裂いた。

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