第六章 全国ネット! 初めての漫才!! (21)
「喧しいわ!!このガキャー!!」
ドゴォォォン!!
相沢に繰り出された瑠伊の黄金の右の鉄拳がヒットした。
「い、いきなりなにさらすんねん?ねーちゃん、ワイのタコ焼きを食いに来たんとちゃうのか!?」
「喧しい、それはウチの腕前見て言え!ウチはな本場でもないのに本場や本家とか言い寄る奴見てると、虫ずが走るんやっ!!」
外人に喧嘩を売るように、ビシッと指を立てた。
「ウチは明石のタコ焼きしか食わんことにしとんのやっ!!ああ、そう思うと行きたくなっちゃう」
腰を振っていたりする。
「そこまで態度変わるかぁー!?普通」
「女は恋と食べモンに目がないのっ!!常識よっ!!じょーしきっ!!」
荒い口調で瑠伊は相沢を叩く。
思い切り普段であれば完璧に白目を向いているほどの強さ。
相沢は夢の舞台というダイヤモンドよりも強い意志で持ち堪えている。
静香、曰く。
「ありゃー、帰ってきたら即刻病院行きやなー」
俗に言うドツキ漫才を超えた、流血漫才という恐い単語がちらついたからである。
実際にパンチを繰り出している瑠伊は、そんな非難する声を無視している。
そんなシビアで時にはコミカルに言う瑠伊に観客は笑っている。
それも事実なのだ。
「瑠伊センパイ、吹っ切れてません!?」
しのぶは率直に呟いた。
「なんて言うんだろ。相沢センパイに乗せられていたのに、突然ピアノ線が切れたように弾けたというか... ... 」
「それはおそらく、しのぶちゃんがダンスに熱くさせた瞬間と同じだよ」
「内村... ... さん?」
しのぶは真後ろに座っていた内村に視線を向けた。
内村はポップコーンを頬張ると、
「テンポの良さ、リードをしている相沢君の爽快な話術。瑠伊ちゃんは今、それを必死に追い掛けているんだよ」
穏やかな顔でも冷静に二人の漫才を見れていた人間の一人であった。
「なるほど!つまり画伯は受験生が自然と引き込まれたと言いたいんやな。漫才の世界に」
「それなら俺にも分かるな。俺とアフロの出会いもそうだった」
桜井がしみじみとアフロの思いを綴っているが、誰一人として聞く耳を持たない。
その間に、
「あらあら... ... もう、終わりですねぇ〜」
くるみの言う通り二人の漫才は幕を閉じた。
観客は大いに沸いた。
室内の温度が五度も違うほどに沸いた。
「助かりましたよぉ〜。即席でぶっつけと聞いて不安でしたけど、あんな蔵人顔負けの漫才を見せられただけでも驚きました」
終始黙っていた角田が、生命が初めて腹式呼吸を始めた頃のような息を出した。
「これなら次の仕事も間違いなしです!」
「ウチもマネージャーと同感や」
静香と角田はこの成功を喜んだ。
瑠伊と相沢が舞台から姿を消して次のコンビが出てくるまでの三分間は、地鳴りと勘違いしてもおかしくない喝采で響いた。
同時刻、朝倉が入院している病院でも。
「凄い強敵ですね、瑠伊さんは」
林檎の皮を剥いていた手を休めて朝倉と一緒にテレビ画面を見ていた奈々子が言うた。
「のせた圭介も凄いけど」
後から付け足して。
そこで朝倉が言う。
「でも篠原さんがやらなかったら、私達二人で『ミイーラズ』なんてコンビでやっていたかもしれないわね」
「ははは... ... 」
笑えない冗談であった。
正面に聞いてしまった奈々子は疲労感一杯の感情のない声で笑った。
一方、一太郎もテレビを見ていた。
マンションの一人暮らしだがテーブルには清楚な女性の写真立てがあった。
テレビの電源を止め、二つのワイングラスに赤ワインを注ぎ、一太郎は瑠伊には全く見せたことがない渋い男モードで写真立ての女性のワイングラスに、
「我が娘の一歩だ... ... 二人で今日は飲もうか」
カァーン.... .... 。
グラスで鳴らして一太郎はワインを口に含ませた。




