第六章 全国ネット! 初めての漫才!! (20)
この間にも二人のテンポのいい漫才は続いた。
その駆け引きとも言える中で瑠伊は少しづつ観客が見えてきた。
顔は見えていたが表情まで見えてきたのだ。
『ウケている!!』
率直な感想だ。
今まで一太郎の所属する芸人とピンチヒッターとしてコンビを組んで漫才をしていた時にはない爽快な気分だった。
反対に相沢は、
『まただ!!つかみの後は先輩がボケに回る!!このままではシラけてしまう』
こういう台詞での駆け引きの漫才にとっての致命的欠点を見抜いていた。
「ほんじゃ、ほんじゃ、瑠伊ちゃんや。おいおい、どこを見とるんやねん」
相沢は瑠伊の肩を叩いて自分に向けさせるなり右目をウインクした。
何の合図!?
瑠伊はサッパリ分からなかった。
頭が突然エラーを起こしてしまった。
「どこって、床!」
言ってることはボケてるが。
「そんじゃまー、主夫になるには最低三つの条件はクリアせな駄目やからな」
「三つもいるの、けーすけくん。」
「そや、三つや。瑠伊ちゃん、人が生きていくのに必要な物が何か知ってるか!?」
「そーやなー.... .... ...」
「着る物と食べる物と住む所や!瑠伊ちゃん、鈍すぎるで」
瑠伊が考えるポーズを取ってる間に相沢が早口で言い切ってしまう。
「けーすけくんが早すぎるんや!衣食住やろ、知ってるって」
語尾を跳ね上げて、相沢の胸を叩いた。
「さすが伊達に歳を食ってない!では手始めに衣食住の食の場合!」
「普通、衣と違うん?」
「ええからええから」
パアン!!
相沢は手を思い切り叩いた。
同時にいきなり舞台の空間のイメージが街に変わる。
ごく普通の休みの日に買物に繰り出す同年代の人達で溢れる街が瑠伊の頭脳明晰の頭がイメージをした。
「よー、ねーちゃん。タコ焼き食べさせてやろーか!?」
イメージが出来上がったタイミングを計った相沢が切り出した。
瑠伊には不意によってきた男と何も変わらない。
『いきなりフラれてしまった。どうボケればいいの!?』
焦りが一歩リードする。
亀が百メートルの世界新記録を樹立するのと同じスピードである。
特に真っ正面で期待しているユメノ荘の連中の視線が更に加速度をつけた。
『この状況下で一番えげつないと言えば』
亀がそのままのスピードでフルマラソンを半分ぐらい完走する手前で瑠伊は一つの兆しを見付けた。




