第六章 全国ネット! 初めての漫才!! ⑸
そこで静香が聞いた。
「マネージャー。わざわざ、ここまで足を運んだのがアイドルやあの二人でない、用があるのはウチか!?」
角田に顔を向けずに、もう一杯、水を飲んだ。
「ええ。実はあの二人のマネージャーをやってもらいたいんですよ。もちろん私の代役ですが」
角田は申し分けなさそうに切り出した。
「社長からは私が一人で美歌と二人の世話やマネージメントを任されてますけど、美歌は今がチャンスなんです。売れるか売れないは私の売り出し方にもあるし美歌自身にもかかってくる、本当に大事な時期です。そこへもう一組となると正直に言いますと難しいです。しかも分野が違いますし」
「そやな。アイドルは売り出し中でファンもようやくついた頃やからな。マネージャーも社長命令ならば他の同僚に頼むのも無理だしな」
睡眠中の内村の左側に座る。
「スケジュールから全部となりますと美歌の仕事を削るしかないんですよ。美歌一人で行かせるにも年齢的に無理ですし」
角田は頭を抱え込んだ。
おそらく、ずっと悩んでいただろう。
静香でなくても察知できる。
だが今一度顔を静香に向けた。
「そこへ思いついたのが二人の共通点でもある、この寮の住人です。美歌と同年齢のしのぶちゃんは除いて考えた結果、紺野さんしかないと思ったんです」
フルマラソンを走った後の酸欠状態のランナーの顔付きで静香を見る。
静香は「へぇー」と感心して聞いていたが、
「ウチかて急に言われてもバイトがあるからなー。そんなの無茶やで」
現実の情況を言うだけ。
いや、違う。
顔付き、特に細めた目が嘘と訴えている。
角田も感じた。
足元を見ている、と。
「分かってます。時給も弾みますよ。九百円でどうですか?」
「安い!」
「九百五十円!」
「昨日、寮に押し掛けたマスコミ連中を撒くのも重労働や」
静香はクレームをつける。
角田は時給を釣り上げる。
二人の交渉が続いた。
そして、小一時間。
「ほな、千二百円で手を打とうやないか」
静香はバンとテーブルを叩いた。
「千二百円ですか!?」
角田はイヤな顔をしたが断るのも出来ない。
「高くないで。相手はマネージャーの社長令嬢なんだから」
静香の駄目押しで。
「分かりましたよ、負けました。では、お願いしますよ」
角田は立ち上がると静香に手帳を渡した。
静香は手帳の中身を見た。
相沢と瑠伊のスケジュール表である。
角田はさっさとキッチンルームから出ていった。
静香は手帳を閉じて呟いた。
「こりゃあ、あと五百円は値を釣り上げるべきだったな」
結局、痛み分けであった。
隣の内村はまだ涎を垂らしていた。




