第六章 全国ネット! 初めての漫才!! ⑴
翌日、六時。
朝といえど寒いが今帰ってきた奴が約一名いた。
七十年代なら憧れたヘアースタイル。
七十年代なら憧れたファッション。
今となれば、お笑いの種にすぎない。
ポストに丸められている新聞紙を広げた。
「篠原瑠伊!?相沢圭介!?世の中には同姓同名がいるものだな」
こんなお気楽な奴だからこそ、変に関心と驚きの混ざりきらない台詞が出るのだ。
事実はすぐに知ることになる。
今、ジョキングを終えたばかりのしのぶによって。
「桜井さん、お早ようございます」
「やあ、お早よう。しのぶちゃん」
二人にとって何も変わらない、毎日の日課のような挨拶だ。しのぶは軽くタオルで汗を拭くと、
「それ、スポーツ紙ですか!?」
しゃがみこんで新聞紙を見ている桜井の背後から覗き込んだ。
「ああ、そだよ。でも珍しいね。篠原さんと圭介の二人と同姓同名の人間が、お笑いコンビを組んだって。これを見れば圭介の奴、歓喜の余り気絶するんじゃないか!?」
等と、冗談も言えちゃう始末だ。
普段のしのぶなら桜井に付き合って、「本当ですね」と笑うところだろうが、この日のしのぶは笑えなかった。
「ねぇー、しのぶちゃん」
「その二人、瑠伊センパイと相沢センパイですよ。桜井さん」
「へ?」
桜井の体が硬直した。
「も、もう一度言ってくれないか!?」
桜井は我が耳も疑う気分になった。
だが、事実は事実。
「この一面、昨日の夕方に寮へ押し掛けてきた取材の一面です。瑠伊センパイと相沢センパイの芸能界デビューです」
しのぶのクールな説明が終わった。
桜井は聞き終わって更に硬直した。
「相沢センパイなんか歓喜の余り一晩中屋根の上にいるんじゃないですか?」
と、言っている側から、
「やったぞぉー!!」
と、こんな叫び声が木霊する。
「なあーんて、叫んでいるでしょうね」
しのぶは可笑しく笑っていた。
だが桜井はつられなかった。
しのぶの遥か後方に視線を向けて完全に沈黙していた。
その代わりに聞こえたのは、
「僕はやったんだぁー!!」
屋根から聞こえる絶叫の歓喜の声だ。
しのぶは振り返って、太陽が昇りかける眩しい空を見上げた。
屋根に誰かいる!?
それが確認出来ただけでもたいしたものだろう。
「本当にいるんじゃないか?圭介の奴」
「そ、そうみたいですね」
二人は呆れ果ててしまった。
こんなに期待通りにしなくてもいいのに。
しのぶは胸の奥で呟き、
「何かとしでかしてくれる人ですね」
実際にも同じような台詞を呟いた。




