第四章 ども、朝倉渚です。 (15)
その頃。
「渚、渚!?」
内村のクラウンに後からぶつかったローバーミニの運転席で気絶している朝倉の頬を叩いてくるみは叫んでいた。
奈々子、静香には頬を撫でて、赤ん坊を起こしている母親のように和やかな声に聞こえているのが本当である。
もうこうして五分ぐらいは経過している時に、
「焦れったい!退きな、コック!!」
痺れを切らした静香が交代して思い切り朝倉の体を揺さ振った。
だが、反応が無かった。
無言の奈々子は朝倉の胸に耳をあてた。
「し、死んでいる?!」
声が裏返った。
「な、なんやて!?」
静香も確認した。
固まった。
「ひいぃぃぃぃ!!」
二人揃って叫んだ。
のんびりと見ていたくるみは水道の蛇口を緩めてホースにつなぎ、
「起きなさい、渚」
朝倉の顔面に水をかけたのだった。
これにも二人は叫んだが、
「ども。また気を失ってました?」
死んでいるはずの朝倉が起き上がった方がもっと驚きであった。
「あらあら、おかまを掘られてますね」
「アンタがやったんや」
朝倉の天然なボケに静香も呆れてしまった。
でも、心配事もある。
「渚さん、足、痛くないですか?骨折しているんですよ」
奈々子が言った。
朝倉は、「あらまぁ」と自分の右足を見た。
膝から下が明後日の方向に向いていた。
「本当に見事。危ないところでしたね」
朝倉は笑った。
ワンテンポ遅れて、
「本当ね。死んでたら縁起でもないね〜」
と、くるみも笑っていた。
奈々子は包帯と車庫に置いてあった板切れを持ちだし、
「これで、添え木しましょう」
朝倉の折れている右足に巻き付けた。
奈々子は、この程度では動じない。
コンビを組む相方のことは全て知り尽くしているからである。
静香は頭を抱えていた。
「ホンマに似たもの同士やなぁー」
それは、誰と誰の事とはあえて言わない。
こんな大それた事をしても笑える人間なんてこの世に二人しかいないから。
ピーポー、ピーポー... ...。
救急車が近付いてきた。
「渚、また逆戻りね」
「そうね。残念だけど... ...、後藤さんには悪い事をしたわね」
朝倉は気遣って奈々子を見た。
「明日、お見舞いに行くよ」
奈々子は車に運ばれる朝倉に言うた。
そして、朝倉は病院に運ばれていった。
救急車が行ってしまい壊れた朝倉のローバーミニを見た。
そして一言。
「渚の免許取り消しは決定的ね」
ぽつり。
奈々子は現実すぎてフォローすら言えなかった。
「ホンマやね」
静香も同感であった。




