第四章 ども、朝倉渚です。 ⑹
だが、ここで奈々子は顔を綻ばせた。
桜井、瑠伊は急に変わった奈々子の笑顔に不気味さを感じた。
奈々子は堪えきれないほどに顔を歪ませ、
「でも、渚さん。ビッグニュースです!チャンスです、全国進出の!!テレビの仕事が来たんです!」
今度は正面から朝倉に抱きついた。
当然、二人は道路に倒れこんだ。
「もうー、嬉しくて、嬉しくて」
奈々子が感激しているが、
「ナナちゃん、ナナちゃん。朝倉さん、大丈夫!?」
「え?」
瑠伊に言われて、奈々子はもう一度朝倉を見た。もちろん桜井は分かっていた。
瑠伊も大方の予想がついていた。
「きゃーーーー!!渚さぁーん!死なないでぇー!!」
パシパシと朝倉の頬を叩く。
二人の頭上には、すぐそこまで天使が舞い降りているはずだが、
「あらあら、すみません。長いコトお日様の下にいたので軽い日射病に... ....」
今度もスレスレのところで朝倉は気が付いたようだ。
「だ、大丈夫なのかしら?」
瑠伊にしても不安を覚えた。
「それを言うな、それを。俺だって渚さんが漫才する前に出会っていれば反対だったんだが、すでに漫才師やったからなぁー」
しみじみと桜井は呟いた。
「じゃあ、ナナちゃんと組む前から!?」
「ああ。奈々子とは一年前からだろ!?活動は今年からみたいだけど。その前は、意外にもくるみさんとやっていたんだ」
「くるみさんと!?」
瑠伊は桜井の台詞に、また驚かされた。
「事務所とかでなくて、いわば路上ライブと言う具合にな」
「よく、やれましたねぇー」
「俺にも分からんよ。それで何故かくるみさんはコックに目覚めて止めたんだ」
桜井が瑠伊に説明したところで朝倉が割り込んだ。
「違うよ、桜井君。路上ライブは元々、私がスカウトされるようにくるみに協力してもらったの。それに東大を目指しているのも、何となく宣伝にもなるかなぁーって」
朝倉は真相を打ち明けた。
「もぉー、渚さん。行きますよ」
奈々子に急かされているが朝倉は、瑠伊に最後に言うた。
「あ、でも篠原さん、それだけじゃないのよ。東大も漫才も私の夢ですから」
「はあ... ...」
どこかでも似た台詞を聞いたことがあるなと、瑠伊は思った。
「東大を目指す者同士、いいライバルになるといいですね」
瑠伊の手を握り締め朝倉は奈々子と一緒に人込みの中に消えていった。
同じく桜井も、
「やっばぁー。俺もそろそろ、戻るわ。篠原さん、お昼ご馳走様!」
駆け足で消えていった。
ただ一人だけ取り残された瑠伊は、
「夢かぁ... ,...」
呟いた。




