第四章 ども、朝倉渚です。 ⑸
店を出た朝倉と桜井は、
「篠原さん、すみません」
同時に謝るのであった。
「いいえ」
半分は怒って半分は呆れていた。
結局は最年少の瑠伊がおごる羽目になったのだ。
「それじゃ、私は午後の授業があるから」
瑠伊はこの場で予備校に戻ろうとした。
桜井も、
「学校の授業に出るか」
退散するのは同じであった時だ。
「やっと、見つかったぁー」
「きゃあ!」
朝倉が背後から誰かに抱きつかれた。
その人物が誰であるかは瑠伊も桜井も瞬時に判別できた。
朝倉を振り向かせ、
「渚さん、どこにいってるんですか!?マネージャーから予備校だと聞いてみればいないし辺りの店を探しましたよ」
荒い息遣いだが冷静に言い切れるところがこの人の利点である。
「ナナちゃん」
瑠伊はすぐに声をかけた。
「る、瑠伊さん!?」
「よお」
「さ、桜井さんも!?」
奈々子は困惑していた。
まさに信じられないといった感じだ。
瑠伊は朝倉に聞いた。
「朝倉さん。事務所というのは!?」
おそるおそると。
奈々子がここにいる以上、あえて聞く必要もないが瑠伊は確かめるかのように聞いたのだった。
「ええ。篠原プロダクションという、芸能事務所ですよ。後藤さんとは一年前からコンビ組んで漫才してるんです」
「やっぱり」
瑠伊は愕然とした。
「何が、やっぱりなんですか!?」
朝倉は首を傾げた。
「渚さん、ここでボケないでください」
「はぁー」
桜井が首を振り、
「渚さん。この人、事務所の社長の娘さんです」
奈々子が教えた。
朝倉はそれでも、「篠原、篠原... ...」と呟いていたが、
「あらまあ。ども、すみません。一年前からコンビ組んでるといっても私、一年間も入院していたから面識がなくて」
ようやく分かったらしい。
瑠伊に平謝りするのであった。
奈々子は言った。
「本当に渚さんはのんびり屋さんで体も弱いんですから、あまり歩かないで下さいよ。去年の一年間は、独り舞台がほとんどで大変だったんですから」
これは半分はグチっているな。




