第四章 ども、朝倉渚です。 ⑷
まるで違うじゃないかと驚くが、個性的という意味では今も変わらない。
「じゃ、桜井さん。アフロにしたのは? 」
瑠伊の問い掛けに桜井は箸をようやく置き、思い更けたかのように話した。
「失恋... ...、したからかな。でも髪型変えたから今のファッションが似合うんだよな、皮肉にも。おっと、これは寮の皆には内緒だぜ」
頬を紅潮させていた。
「ふ〜ん。でも、失恋の原因は!?」
瑠伊も十八の乙女だ。恋の話となれば興味ぐらいはある。桜井は照れ臭そうだが朝倉が平気に言い切った。
「もちろん、私の東大受験です。もう、三年も前の話ですけど」
あっさりと言うが、瑠伊は驚かずにいられない。
「三年前!?そ、それじゃ... ...」
「はい。今年、三浪ですよ」
「それって、東大を受け続けて三年目って事ですか?」
「ええ。私、頭悪いんです」
朝倉は言うが、模試の結果で言えばそうは見えない。
「特に本番前になると、グーンと成績が下がっちゃって、去年のクリスマスの時点で偏差値五十だったんですよ〜」
その本人は、本当の話には聞こえないほどに笑い話にしてしまっていた。
「でも、三人でいると思い出すなぁ〜。私と桜井君、そしてくるみといた頃を」
「へぇー、そうなんですか」
瑠伊は二人の顔を交互に見た。
桜井が言う。
「そうそう。俺がイラストレーター、くるみさんがコック、渚さんが東大生になる夢ですよね。」
「まだ、誰一人として達成すらしていないけどね」
と、朝倉は笑った。瑠伊もつられて笑う。
三人の会話が和やかになった頃、朝倉は腕時計に目を落とした。
「どうしました!?」
桜井が尋ねた。
朝倉は店内の置時計にも視線を向ける。
瑠伊も、
「まだ、一時ですよ。朝倉さん」
と、教えた。
「あー。やっぱり」
合掌合わせをして、
「これから、事務所に行かないと」
朝倉はようやく思い出した。
「とすれば、長居は無用ですね」
「そうね、桜井君。そろそろ、お勘定しましょうか。ね、篠原さん」
「は?はい!?」
瑠伊もそそくさと立ち上がる。
桜井と瑠伊の二人は出口の手前に設置していた長椅子に座って朝倉の勘定が終わるのを待つことにしたが、レジで店員さんが「一万五千円になります」と金額を言ったきりである。
「あら?」
朝倉が、何かに気が付いたようだ。
桜井と瑠伊が二人して、
「朝倉さんって、くるみさんに似てのんびりとした人ですね」
「いやいや。渚さんの方が上だよ」
と、話のネタにしていた直後である。
朝倉はバッグの中身を探っている。
「あれ!?あらまあ... ...」
「あ、あのぅ、お客様?」
と、店員さんが声をかけた途端、テンポ良く朝倉は言った。
「ども。お財布、落としてしまいました。」 お約束である。
「それじゃあ、とりあえずここは俺が立て替えて」
「お願いします、桜井さん」
「ん?」
桜井もまた、ズボンのポケットを探っている。
そしてまた、
「... ...俺も無くしたようだ」
二人揃って、財布を落としてしまったようである。
朝倉、桜井の二人と、レジで立っている店員さんの視線が瑠伊に向けられた。瑠伊は一度だけ、「はぁ〜。」とため息を出しながらも、三人分の料金を払った。




