第四章 ども、朝倉渚です。 ⑴
あっという間に九月に月変わりしたが、未だに真夏のような暑さである。
少しでも外へ歩けば十分後には喫茶店で涼しんでいる人さえいるだろうが、そんなだらしない態度が許せない場所もある。
気の張り詰めた、重苦しい雰囲気。
冷たそうなコンクリートの建物。
看板には、予備校の文字が見える。
その四階の教室の一室に瑠伊がいた。
「さてと」
取り出したのは一枚の紙切れである。
「あの寮に来てからの、初めての模試の結果は... ...と」
一週間前に行なった全国模試の結果を見ていた。
その結果は二位だった。
トップとはわずかに十点の差であった。
ふぅーと息を吐き出し、
「まぁー、こんなものか。あの寮に来てロクに勉強してないもんね」
満足した笑みを浮かべて鞄に入れ立ち上がって前に足を出した瞬間に誰かとぶつかった。
当たったのは女性であった。
勢い余ってというには、とても程遠い当たりである。普通ならば蚊に刺された程度とは言わないが、全然ちっとも痛みすら消えてしまう当たりであったはずだった。
だから瑠伊も悪気なく、
「あ。どうも、すみません」
一礼すれば済むことだと思っていた。
そう思っていたのに、
「... ...って、あ、あれ?」
ドサァと床下に倒れてしまったのだ。
瑠伊でなくても、
「だ、大丈夫ですか!?」
駆け寄ることだし、こんな人の出入りの多い場所であれば尚更である。
瑠伊はその女性の顔を見た。
見事に青ざめて白目も向いてて、おまけに口から血が流れ出ていた。
「ち、ちょ、ちょっとぉー。あなたぁ、しっかり!!」
体を揺さ振ってみるが反応がない。
「もしかして... ...」
胸に耳を傾けた。
一分、二分、そして五分と傾けたが、生きていれば当たり前のお馴染みの音が聞こえてこないのだ。
驚きで声が出てこない瑠伊は手首も押さえてみた。
「... ... ... ...」
二分間も。
「脈がない... ...。し、死んでるっ!?」
一瞬の静寂が訪れる。
洒落にもならない恐怖の静寂が訪れる。
次の瞬間、瑠伊はとんでもない台詞を言ってしまった。
「ち、違う!私は無実、無実よ!!」
騒ぐ前に自分から騒ぎだしたのだ。
周りも何事かと二人に集まって騒ぎが拡大し始めかかった時に、
「ども。すみません」
その女性が起き上がった。
当然、二人に集まった人集りは一斉に引いていった。一人で騒ぎだした瑠伊は何がどうなっているか分からないまま、
「あははは」
顔を強ばらせて笑うしかなかった。




