第三章 酔っても、グチっても.... .... ⑼
その頃、大阪にある一太郎の芸能事務所では社長室に一太郎と奈々子がいた。
奈々子は何やら緊張していた。
もしもクビにされたらどうしようかと、あれこれと思い当る節を考えていたがそれは杞憂であった。
一太郎の口から出た台詞が、それを物語っていた。
「我が娘は元気かね」
「は?」
蚊も殺せない、勢いのない声で奈々子は言った。
「我が娘は、君の寮にいるんだろ!?」
ドォキーン!!
奈々子は冷たいものを感じた。
「隠さなくてもいいんだよ。昨日、瑠伊のバッグに角田の自作した発信機を付けていたんだからね」
ピピと音を鳴らしているパソコンの画面を奈々子に見せた。
「でも、それだけで場所を断定するのは無理ですよ」
「そう思って、美歌の持ち物にも発信機を付けたのだよ」
手際よくキーボードを打ち込んで奈々子に見せた。二つの点が見事に同じ場所で点滅していた。
「これは、昨夜の記録だがね。美歌と君は住所が同じだからね。すぐに割り出せたよ」
不敵な笑みが奈々子の顔を強ばらせた。
同時にこんな疑問も浮かんだ。
いつ、付けたのだろう。
これって犯罪行為じゃないか。
奈々子でなくても思いつく。
だが、一太郎は思っていない。
平然とした趣で、
「ところで君は司会をやってみたいと思わないかね!?」
いきなり奈々子の話となった。
「司会... ...ですか?」
「そうだ。それもテレビのゴールデン番組だが」
「ゴールデン番組の!?」
信じられないといった顔で奈々子は繰り返す。
「来月からなんだが瑠伊とのコンビで是非ともやってもらいたいんだよ」
「瑠伊さんもですかぁー!?それって、難しいですよ」
奈々子は、この親子を知り尽くしているだけに大変に嫌がった。
「だから頼んでいるんだ」
「社長は瑠伊さんが寮に引っ越した原因を知ってて言うつもりなんですか!?」
「もちろん」
「だったら無理です。瑠伊さん、今が大事な時期なんですから」
奈々子はきっぱりと断った。
ただ、これでテレビの仕事がなくなるのが惜しくなるが条件があまりにも悪いしリスクを負うからである。
それに奈々子は分かっていたのだ。
「社長、いくら寂しいからといって嘘の企画を言うの止めてください。それに、もしかすれば瑠伊さん、心変わりをするかも知れませんよ」
一太郎の娘を想う気持ちが。
一太郎は舌打ちをした。
図星であった。
「それでは私、出ますので」
奈々子がドアのノブを握った時に告げた。
「司会は嘘だが君のコンビがテレビに出るのは本当だぞ」
「それも... ...来月ですか!?」
「そうだ。アイドル系で売っていくことに決まった」
淡々とした口調で仕事のプランを話した一太郎に奈々子は素直に喜んだ笑みを浮かべた。
「あ、有難うございますっ!!」
奈々子は大声で社長室を出たが一太郎は不安で一杯であった。
「あのコの相方... ... ...出演出来るんだろうかなぁー!?」
首を傾げた。
そして誰も予想すらしていない、意外な展開が待っていた。




