第三章 酔っても、グチっても.... .... ⑻
「そーいや、お二人とも、なぁーんでこんな田舎まで来たんれぇすかぁー!?」
唐突な質問に静香は迷った。
「ねぇー、なぁーんで!?」
ワンテンポ遅れて、この人が言い切った。
「ここの寮の皆は、種類は違うけど夢を持っているからよ」
「へぇー、そーなんだぁー。でもさぁー、私は違うんだよねぇー。家の稼業とはいえ、漫才の舞台に立たされるのがイヤでしょーがなくて、ここへ来たんだから」
吃逆をする。
「でも、篠原さん。あなたの夢は東大に行くことにあるんでしょう」
くるみは両手でジョッキを持ち上げて二人に負けず劣らずのピッチで空にした。
「そ、東大。東京に行っちゃえば、お笑いなんて皆無な普通の青春が待ってるだけで、将来の夢なんてちっとも考えていない」
涙ぐむ。
「別に東大でなくてもいいけど就職するにも学歴第一だから決めちゃっただけ」
「うーん」
静香は唸る。
それでも東大受験できればええやろ。
胸の内で静香は思う。
「でもさぁー、我ながら感心するんだよねぇー。ただ逃げたいだけで華の高校時代を勉強ばっかに注ぎ込んでさ。友達ともあんまり遊ばなかったし、部活も止めたし、学園祭も参加しなかったし、彼氏もつくんないで勉強しているんだから」
少しだけ顔が和む。
「だったら余計に東大目指さないといけませんね」
くるみはビールをジョッキに注ぎ込みながら笑顔で言う。
続けて、
「ただ逃げたいだけなら、それこそ家出しちゃえばいいんですからね。それが、東大という目標を見付けて突き進んでるのなら何か目指している事になると思いますよ」
またしても早いピッチで飲み干した。
「私もコック、目指してます。だけど一度だって辛くなったことがない。余計に好きになっていくんですよね、そんながむしゃらな自分が」
「そや。ウチも今はフリーターやっとるけどな、これでも起業家を目指してるんやで」
二人の話を聞いて瑠伊は泣きだした。
何故泣いているのか瑠伊自身も分からない。
「でも、嬉しそうですね。篠原さん」
くるみは今の瑠伊の顔を直視した。
瑠伊は泣いているが笑っていた。
静香はこの場に合わないと千鳥足でリビングから離れた。
チーズと焼き鳥を交互に食べてからくるみは聞いた。
「ところでですねぇー。篠原さんも漫才師、目指しているんですかぁー!?」
「違いますっ!!」
酔っていても、さすがに漫才の話となれば反応が早い。
「でもさっき、漫才がどーのこーのと言ってましたからつい... ...」
「そ、それは相沢君が、昨夜と同じ事を言っていたからです」
「同じ事?」
首を傾げたが、すぐに分かったらしく、
「あー。漫才のコンビに誘われたんですねぇー、今日も。だからビール飲んでたんですか」
納得した顔で頷いた。
「そーです。なぁーにが、先輩は天然のボケなのよ!漫才がイヤでこの寮に入った矢先にですから余計に飲まないと気が済まなかったんです」
愚痴る瑠伊にくるみは笑っていた。
「何か、おかしいですか」
ワンテンポ、遅れて言うた。
「いいえ、相沢君らしいなぁーと。彼、信じ切ってますからね」
「え?」
「自分の漫才は、最高なんだからボケも最高の人とやりたいと」
一瞬、瑠伊は黙ってしまった。
「だっ、だったら、余計に迷惑です!私は普通の受験生なんだから」
これにもくるみは笑っていた。
そして言うのだ。
「昨夜といい、今日といい... ...。結構、ハマってますよ」
と。
瑠伊は立ち上がり、
「ハマってません!!最悪ですっ!!」
リビングから、またしても階段を上がっていった。
くるみはそんな瑠伊を見て、
「面白いコ」
更に笑っていた。




