第三章 酔っても、グチっても.... .... ⑴
ここは夢の中。
そう。難しく言えば、深層心理の底辺りである。
誰の夢であるかは言わないが、賢明な人であれば推測できると思う。
「やりましたね。東大合格、おめでとうございます」
「あ、ありがとう」
いきなり来年の夢を見ているこの女性は実に幸せそうな寝顔であるが、これがうなされる五秒前である。
一、二回ほど寝返り、突然、金縛りにかかったみたいにうなされ始めた。
夢の中は地獄になっていた。
「それじゃあ、僕と漫才コンビを組みましょうよぉ〜」
「いやぁー!!」
男性がジェイソンのように、襲いかかったのだ。但し違うのはチェーンソーと漫才の台本の違いだけ。赤ん坊さえ殺せない限りなく無害な代物であるが、女性には十分に効果のあるパンドラの箱のような存在なのだ。
真剣に逃げる女性、それをゾンビの如く追い掛ける男性。走るが出口は見えない。迷宮に迷い込んだように逃げて、逃げて、来たところは断崖絶壁の崖である。
不敵の笑みを浮かべる、男性。
対する女性は絶体絶命の大ピンチだ。
「僕と組んでお笑いの伝説を創る。これはもう宿命なんです」
一歩、二歩と近付く。
足元が何故か崩れることに気付くが、時は遅かった。
声も出せない程の加速を付けて一気に落ちた。
ガタン!!
同時に、ベッドから落ちた女性の姿があった。
「いったぁ〜」
虚ろ虚ろとしている目蓋を擦り、起き上がる。ポニーテールにしている髪も解けて所々に寝癖もある。
それを気にしないで時計を乱暴に取る。
時刻は朝の五時。
場所は寮の三階の三百五号室と楠木の表札が掲げられている部屋。
この部屋の住人は昨夜の歓迎会で男をパンチで失神させた新参者の篠原瑠伊である。
瑠伊は握り締めてしまった。ピンクパンサーが横たわっている可愛い時計で瑠伊のお気に入りだったのに、とうとう潰されてしまった。
「お、おのれぇ〜、相沢の奴〜」
まだ意識は朦朧としているが、眼が既に逆立っていた。
「何が、漫才しませんかよ!何が、お笑いの新たな一ページを築きませんかよ!お笑いがある生活がいやでここにきたのにこれでは台無しじゃない!!」
瑠伊の憤りは頂点に達した。
で、やはり息が続かずに呼吸を乱した。
瑠伊は壊してしまった時計を片付けて未だ出されていない段ボール箱の封を解いた。
全部で段ボール箱は五つある。その内の二つが日用品で、もう二つが参考書類でもう一つの箱は通販で買ってしまった健康器具の数々である。もちろん使っていない。
「飽きる前に、壊しちゃいそう」
人と違う、瑠伊の理由である。
この箱は中身の確認だけですぐに封を閉じて押入れに入れた。そして日用品の段ボール箱から服を取り出して着替えた。モスグリーンのTシャツにジーンズといった格好である。この気取らない格好が、瑠伊は好きであった。




