第二章 ようこそ! ユメノ荘へ (16)
だが、世間という枠組みは意外にも狭かったりするものである。
奈々子は玄関に入る中学生ぐらいの女の子に直視した。一瞬で奈々子の悪い予感のサイレンが高々と鳴り響く。
水木美歌である。
美歌がこの騒ぎを黙って通り過ぎることはない。
「今日はパーティーですか!?」
美歌のハスキーな声が響いた。
「おお、美歌ちゃん。今、お帰りかい?」
「ええ、内村さん。で、何のパーティーですか!?」
「今日は新入りの篠原瑠伊ちゃんの歓迎パーティーさ」
「え!?瑠伊さん!?」
美歌が驚いて奈々子を見つける。と、そこには瑠伊と相沢が話しているのも見える。美歌も当然、行かないわけがない。
「瑠伊さーん」
「え、美歌ちゃん!?ここに住んでたんだね」
「はい」
瑠伊の背中を叩いて軽い挨拶をした。
そして、次の言葉で奈々子の予感が的中した。
美歌は奈々子と瑠伊の間に入り込み、
「今日の後藤先輩と瑠伊さんの漫才、まぁまぁでしたよ」
ごく普通に話を切り出されたのである。
当然、奈々子と瑠伊の頭は一瞬にして真っ白になった。
完全にバレてしまったのである。
同じく当然、側にいた相沢は、
「あのコ、篠原先輩なんですか!」
喜びの歓喜の叫びがあがる。
しのぶは新しい料理をテーブルに置く寸前で、「嘘!?」と驚いた結果、料理を落としてしまった。
相沢は狼狽しつつ、しっかりと両手で瑠伊の手を握って叫んだ。
「篠原先輩!!」
「は、はい!」
思わず瑠伊も叫んでいる。
全員、二人に目を向けた。
「僕と新しい、お笑いの一ページを築きませんか!ぜひ、僕と組みませんか!!」
奈々子は静かに合掌した。
しのぶは未だに取り乱していた。
そして美歌の、
「新コンビ、結成!?」
この一言で瑠伊の理性が完全に怒りに変貌した。
「冗談じゃないわよ!!お笑いなんて、お笑いなんて... ...」
瑠伊の拳が相沢の頬にヒットした。
同時に相沢は体ごと、およそ五メートルぐらいは飛ばされた。
当然、くるみの料理も同時に散らばった。
瑠伊は叫んだ。
「お笑いなんて大嫌いよっ!!金輪際、私を誘おうなんて思わないでっ!!」
奈々子と美歌、そしてしのぶは真っ青になった。
当然である。
相沢は完全に白目を向いていた。
内村と静香、そして桜井の三人は、完全に足腰が立たない状態で酔っていた。泥酔という奴で、「いいぞぉー。」とか言って、歓喜をあげて拍手している。
唯一、立てるくるみは、
「あらあら、相沢君。こんな所で寝てるとねぇー... ...、寝てると鮪の祟りにあっちゃいますよぉー」
この場では絶対にウケないだろうが完全にボケていた。
瑠伊は一杯だけビールを飲み、
「もう、寝ます!」
一人、先に部屋に戻ったのであった。
くるみは首を傾げて、疑問を呟いた。
「鮪の祟りって、本当にあるんでしょうか?」
絶対に、ないと思う。
今、それを言ってくれる人は誰一人としていなかった。
こうして瑠伊のユメノ荘での寮生活が始まったのであった。




