第二章 ようこそ! ユメノ荘へ (12)
只今の時刻は六時三十分。
夏といえどすっかり日が落ちている。
蝉がうるさく鳴いているだけだ。
それでも暑さを感じていないような人がいるとしたら、おそらく、この人の事を言うのだろう。
慣れた手つきでじゃが芋の皮を剥ぎ、棒状に切り、またしてもフライパンを取り出して熱している。
だが、その顔は退屈そうであった。
はぁ〜と、息を吐いたところで気が紛れることはないが、
「そろそろ来てもいいですよね」
何かしないといられない心境にさらされているようだ。
「あ、くるみさん。まだ、夕御飯作っていたんですか?」
タイミング良くしのぶがくるみの前に姿を現した。
くるみがのんびりと「勉強してたの」とか聞けば、「ええ」とすんなりと返事を返す、ごく当たり前の会話である。
しのぶはどうやら暇そうだと、くるみは正面に感じ取れた。
だから、こんな指示が言えた。
「しのぶちゃん。ちょうど良かったわ。このお鍋にお湯を沸かしてくれない!?」
「は、はい」
この程度の会話で五分経過。
「沸いたら、ほんの少しだけお塩を入れて火を小さくしてね」
「はい、くるみさん」
更にこの会話で五分が過ぎた。
別にしのぶが遅いわけでもない。
しのぶの行動も遅くはなく反対に迅速に動いている。
一方的に遅いのは、くるみの言動である。
そのくるみに合わせてしのぶは動いていただけであった。
ついでにくるみは聞いた。
しばらく考え込んでから。
「あのぉ、くるみさん!?」
「そう、そう。奈々子ちゃんから電話あったかしら?」
「ないですよ。それより、お鍋、沸いてるんですけど」
しのぶがそう言えば、また考え込む。
その間に、
「いい匂いですね。しのぶちゃん、お手伝いかい!?」
いかにものんびりとした声が舞い込んだ。
「え、は、はい。内村さん」
驚いていた。
後には奈々子ともう一人の女の人、つまり瑠伊が立っていたからだ。
奈々子に親しく話している様子を伺えば百パーセント、深く考えなくても親しい仲である事は理解できる。
しのぶも十分、理解できた。
しかし、この組合せは理解が出来なかったらしい。




