第二章 ようこそ! ユメノ荘へ ⑹
まぁー、駅前であるからあるのも不思議はない。
運転席に乗っている、いかにも厳つい中年層の親父が、煙草を吹かしながらスポーツ新聞を読んでいる姿が見える。
当然、乗るお客というのは足腰が間にならないお年寄りか、観光目的の人達ぐらいだ。 地元で乗るのは珍しい。
奈々子は迷った。
もちろん、いやだという観念と経済的な苦しさがあったが、
「そうですね。瑠伊さんも荷物の整理があるし」
ここは瑠伊の願いを聞くことに決めて瑠伊よりも先に進みだした途端、
「ちょっと、ナナちゃん」
瑠伊が奈々子の肩を掴んだ。
「ナナちゃん、何か勘違いしてない!?」
「え!? タクシー、乗るんでしょ!?」
「違うって。確かにバスを待つ気なんてないけど、わざわざ料金の高いタクシーなんて乗らないわよ。もっと、安いタクシーを見つけたの」
「安いタクシー?」
「うん。それなら、寮までタダだって!」
「タダ!?」
奈々子は、目を丸くした。
タダ、つまり無料で寮へ行ってくれる、なんて良心的でお人好しなタクシーがあるなんてと奈々子は驚いた反面、そんなことはありえないと少し疑う。
それが普通で、当たり前。
瑠伊だって、
「そんなに疑わなくてもいいよ」
本当にあったら疑うような声で断るだろうが、次の言葉で奈々子は更に目を丸くすることになる。
それは、こんな言葉であった。
「絶対、ナナちゃんの知り合いだから」
「絶対!?」
「うん」
「る、瑠伊さん。誰なんです、それ」
奈々子はこの時間で寮から外に出る行為はおろか、まして向かいに出向くなどという好意は絶対にないと決め付けていた。
その奈々子の認識が、大きな誤りを生んでいた。
「さあ。とにかく、車を見れば」
「車!?」
「そう、車」
瑠伊はそう頷くと、奈々子の手を引っ張って外へ連れ出し姫路城の方へ向かって歩きだす。そのうち、最初の曲がり角に差し掛かる手前に一台の黒い車が見える。一見、何も変わっていない車だが、
「この観音開きのドアは... ...」
奈々子は車のドアを見て、息を飲む恐怖を感じた。




