第二章 ようこそ! ユメノ荘へ ⑸
ちょうど、その頃。
「くしゅん」
「夏風邪?瑠伊さん」
「な、なんでもない。誰かが噂してるんでしょーよ」
瑠伊と奈々子の二人は大阪発の新快速の終点駅である姫路駅に着いて、商店街の通りのマクドナルドで道草をしていた。
奈々子が注文をしていたのがノーマルなハンバーガーとバナナシェイクに対して、瑠伊はLサイズのポテトにアップルパイ、コーラーに極め付けはダブルチーズバーガーを注文していた。
瑠伊は乱暴に、そのダブルチーズバーガーを食べていた。
「案外、社長かも知れませんよ」
奈々子はシェイクのストローをくわえた。
「パパが!? ありえないって」
高らかと笑う。
「いきなり一人娘が家出したんですよ。普通なら警察に届けるでしょうね」
「普通だったらね」
手についたチーズを舐めた。
奈々子もハンバーガーを噛る。
「そう、普通なら一人娘の受験勉強の邪魔もしないし、家業の為とはいえ、わざわざプロの舞台に出させることもないのに」
依然として憤然となる瑠伊は、カバンから単語帳を取り出した。
ブツブツと単語帳の英単語を読む瑠伊。
その様子を伺うように見る奈々子。
とても仲が良いようには第三者からは見えないが、奈々子がさり気なく瑠伊のポテトを食べても何も言わないのは暗黙の了解という奴だろう。
結局、奈々子がポテトを全部食べてしまった。
「さてと、瑠伊さん。そろそろ、寮に行きましょう。寮の皆が待ってる頃ですから」
奈々子が瑠伊のトレーを取り上げた。
瑠伊は慌てて、
「え? もうぉ!?」
と言って、時計に目を向けた。
五時三十分。
確かに空も薄暗い。
瑠伊は食べていないアップルパイだけ取って、先を行く奈々子を追う。
マクドナルドを出た二人は急ぎ足で駅へ向かって南下して、駅の手前にある百貨店へ通ずる横断歩道を渡ってバスターミナルへ行くわけだが途中で瑠伊が、
「あれ、食べてみたーい」
等と、駄々をこねたりしたので徒歩五分の道のりが倍になってしまった。
十分もかかる距離でもないはずなのにかかって、バスターミナルに着けば、
「次のバスまで、一時間半もある」
瑠伊の驚いた声よりも奈々子は、
「はぁ〜。もう、踏んだり蹴ったりだよ」
蓄まっていた疲れが、一気に吹き出したような息を吐いた。
奈々子が諦めてターミナルに設置してあるベンチに座って瑠伊の姿を追うがいない。
「え?瑠伊さん」
慌てて立ち上がって辺り一辺を見渡そうと後へ振り向いた。
「ナナちゃん!」
瑠伊は、先程渡った横断歩道へ出る出口で手を振った。
奈々子は慌てて、瑠伊に近寄った。
「もう!何処に行っていたんです!?」
「ゴメン、ゴメーン。バスを待ってても時間がかかるなら、ほら!」
「え?」
瑠伊が後へ親指で指した方向へ、奈々子が顔を突き出して見た。
そこから見える物は、人混みとビルの街並と、
「タクシー!?」
であった。




