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これが私の生きる道?!  作者: 今井 純志
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第二章 ようこそ! ユメノ荘へ ⑷

 ちょうど、その頃。

 この寮の本館から少しだけ離れた元新館の二階にある物干し台に女の子がいた。

 髪型は、ボブカット。

 背丈も年齢層等にあるとは思えない程に小さいと見える。

 顔も童顔で、愛らしさがある。

 女の子というよりも、むしろ少女と言い換えた方がいい。

「さてと」

 少女は今、物干し台にいる。

 しかし、ここの物干し台は広さのスケールが違う。何しろ、寮の住人の洗濯物が全部干せても、広さに余裕がある。畳にすれば、三十畳は必要だろう。

 少女の目の前に干してある洗濯物も半端ではない。下着はもちろん、シーツや服、布団まで干してあるのだ。少女は、これらを片付けにここまで来た。

 時間は夕方。普通なら、一人でやれば二時間はかかる量を一人で片付けるらしい。

 だが、これが少女の日課である。

 腕をグルグルと回して、気合いも十分に入っている。

 そこへ、

「手伝おうか、しのぶちゃん」

 一見にすれば好青年といえる男が、物干し台の入り口にいた。

「相沢センパイ、帰ってきたんですね」

 しのぶと呼ばれた少女は、相沢という好青年の声に振り向いた。

 相沢はごく自然に大物の布団から片付け始めると満遍な笑顔で、

「今日ほど僕の人生でいい日はないよ、しのぶちゃん」

 しのぶに語り始めた。

「へ〜、そうだったんですか」

「そうさ。ようやく、僕の長年の夢が叶うかどうかの瀬戸際に立つんだぜ。こんなに嬉しいことはないよ。」

「へ〜、それはよかったですね」

 しのぶは小物の方を終えていた。

「ああ。明日からの人生、薔薇色になるだろう」

 相沢も、最後のシーツを取り込んだ。

 意外にも早く、二人で十分で片付けてしまった。

 慣れているということは、時として当事者も知らない驚異を生み出すものである。

 しのぶは一人で浮かれている相沢に一言だけ言った。

「これで、真面目に学校に行ってくれるんですね」

 と。

 相沢は面食らった顔で、

「なんで!?」

 聞き返した。

「センパイ、行かないんですか?」

「ああ」

「ああって.... ....、高校に入ってから一度も行かずに、大阪に通い詰めていたじゃないですかぁー!!」

「ああ」

 相沢は物干し台の手摺りにもたれて、一人で騒ぎ立てるしのぶとは反対に平然と答えていた。

「センパイ。以前、言いましたよね?」

「何を」

「『僕の夢を掴めるパートナーがいたら、学業に専念する』と」

 しのぶは大きな瞳を細めて疑う。

 相沢は一時、腕を組んで考え込んだが、

「あー、それか。したね、確か」

 手打ちした。

「やっと、思い出したようですね」

 しのぶは、息を吐いた。

 だが、次の相沢の答えを聞いたら、安堵感も疲れに一変する。

 相沢は、言った。

「確かにしたが、今日の段階では見つけた程度さ。まだ、彼女の名前も住んでる所も、あまつさえ髪型は鬘だったからなぁー。はっきりとした素顔さえも知らない」

「ほとんど、アテもないんですか?」

「ない」

「はぁー」

 しのぶは、落胆した。

 思い切り、それも清水の舞台から飛び降りる勢いで落胆した。

 そんなしのぶを見て、相沢は可能か不可能かも検討もつかない台詞を言い出した。

 おそらく、不可能に近いのだが。

「でもさ、諦めたわけじゃないんだよ、しのぶちゃん。もちろん学生なんだから学業もしてるんだよ、予備校で」

「予備校、ですか」

「そう、予備校。だから高校なんて行かなくても、三年間ちゃんと予備校にいっていたら卒業も出来るんだよ」

 そんな非常識な高校があるのなら、誰でも行くことだろう。

 相沢も言った後だが、真に受けて納得する人間なんていないよなぁー、無理矢理すぎたかなぁーと思っていた。

 しかし、

「へぇー」

 しのぶの返事は意外にも相沢が思っていた嘘という軽蔑なものではなく、そういうものなのかなぁーと言う一部分は信じている曖昧な返事であった。

「へぇー。高校生って、いいですねぇー」 

しのぶに羨ましく思わせた相沢は、内心だがガッツポーズを決めた。

「でも、自分の在籍している学校へ行ってくださいよぉー。二学期から」

自分の部屋へ戻ろうと、しのぶは向きを変えた。

「分かっているよ、しのぶちゃん。それにさぁー、例の彼女の事も分かるから」

 相沢はやけに自身有りげに言うから、しのぶは驚いていた。 

「分かるって、先程、素顔さえも知らないって.... ....」

「言ったよ」

「じゃあ、どうして!?」

 一度は自分の部屋へ行こうとしたしのぶだが、再び相沢の目の前まで戻ってきた。

 その顔は、興味津々と輝きを増していた。 

相沢は手摺りから離れた。

 黄昏の太陽も沈みかけていた。

 しのぶは、息を飲んだ。

 これが普通の恋愛の一場面なら、どんなに情緒にあふれていたことだろうが、この場合は全く違う。

 相沢の顔が今にも綻びそうなのだ。

 その異様な笑い方に、しのぶは薄気味悪さを感じていた。

 だが、聞きたいという悪魔の誘惑が、逃げてしまいたいという天使の誘惑との葛藤で圧倒的な強さで勝ってしまったのだ。

「センパイ、焦らさないでください!」

 しのぶの目には十個の一等星の輝きが散らばっていた。

 二等星や三等星、ましてや十等星なんて明かりの暗い星は間違っても無かった。

 それほどまでに、相沢に期待している。

 相沢もそんなしのぶの心理を、百ほど承知していた。

「ナナに聞けば、分かる!!」

 この瞬間、相沢の笑い声が建物全体に響き渡った。

「奈々子センパイ、なんですかっ!」

 同時にしのぶは、大きな目を更に大きく見開いて驚いた。

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