序章
その場所はとある駅前の商店街の裏通りになる。
裏通りといえば怖いお兄さんが歩いてたり、「ちょっと、お兄さん。遊んでいかないかい!? 」と誘う悪魔のような店が軒並みに並んでいるが、それらを無視して歩けば少しだけ立派に見えるホールらしい建物に辿り着く。
このホールではこんな出し物をやっていた。
『第五回 新人漫才コンテスト』
文字通り、新人の漫才芸人が明日の生活の為、テレビ出演の為に同僚達を蹴散らしていくという、この世とも思えない苛酷な戦いが行なわれているのだ。中にはその場でコンビを解散してしまう悲惨な奴等も見る、ある意味で受験よりも厳しいのだ。
そんな芸人達を見るギャラリーも後を絶えない。それこそ大昔はビジュアル系という言葉が流行って芸よりも顔をセールスして伸し上がってきた芸人もいたらしいが、今ではやはり芸が命なのだ。
いつしか、誰かが言っていた。
「時代は繰り返す!」
まさしく、その通りだ。
この日もホールは超がつくほどに満員らしい。
彼は常連なのだろう、表情も変えずに気軽に本屋さんで立ち読みをしに来たように、明日の夢を見る芸人達のライブを見ていた。
つまらない芸人と断定すれば後は眠りつく彼がこの日は違っていた。
「やっと、見付けた」
漫画にすれば、彼の瞳はお星様が輝いている。
もちろん物凄い興奮状態だ。
その彼の視線は二人組の女の子のコンビだ。一人は背丈が低くていかにもお笑いの世界に賭けていると分かるが、彼にしてみれば突っ込む芸がお粗末すぎるから見向きもしない。
そりよりも視線を向けているのは、もう一人の女の子だ。年はおそらく彼と似た年齢に見えるし、彼女はどうやらボケ役のようで先程の女の子からの突っ込みにすかさず返している。また、その返しが彼を引き付けていたようだ。
終わってみれば漫才の内容は最悪だが、
「あの人こそ、僕と組むのに相応しい! 」
彼にしたら大きな収穫になっていたらしい。拳を握り締め恥ずかしさもなくガッツポーズを決めて立ち上がった。
もちろんライブ会場は彼に注目した。
それでも彼は気にせずにスタスタと会場を後にしたのだった。