04 再起不能
俺はシィを担いで自宅に連れ帰り、木組みが腐ったベッドに寝かせて介抱した。病院は近くに無い。あったとしても高額だ。
シィには急いで応急処置を施し、市販の“回復薬”も投与した。回復薬は高額であり強い副作用もあるが、素人の治療で命を繋ぐためには仕方が無いと割り切った。
……毎朝六時に作動する設定の光源装置が居住区全体を照らし、そして十七時には消灯が起こった。そして先程それがまた点灯した。それでもシィは目覚めない。
任務の時刻から数えると、およそ三十時間は彼女は意識を失っている事になる。
「……はぁ」
「それは何に対する溜め息?」
背後から聞き慣れた声がする。振り返ると私服姿のニナが立っていた。
彼女はまるで宝石のような瞳と、織った金のような髪をしている割に、俺と同じような安物の上着とズボンを着ている。
「シィの意識が戻らない」
「介抱が長くなりそうで辟易してるワケね」
「そんなわけないだろ!」
思わず声を荒らげる。そもそもシィがこんな状態になったのは俺の責任なのだから、意識が戻るまで世話をするのは当然の事だ。
それをまるで面倒な作業のように表現されて少し頭に来た。
「何怒ってんの?」
「用が無いなら帰ってくれよ」
「あぁそう、なら言うけど、私は忠告に来たわ。アンタはその女を見捨てた方が良いってね」
──こいつは、何を言っているんだ?
俺はベッド横の椅子から立ち上がって、ニナと目を合わせるが、上手く言葉が出てこない。唇を震わせるだけの俺に向かって、先に彼女の方が口を開いた。
「その女は再起不能でしょ? 見たら分かる。もし目覚めたりしたらアンタに責任を押し付けてくるわよ」
「なにが、言いたいんだ?」
「分からないの? その女はね、弱かったからそうなったの。ただ任務で下手をこいて勝手に死に掛けてるだけの、カスみたいな掃除屋。アンタは何も関係無いし、何も背負う必要は無いわ。だからさっさと逃げなさいよ」
「ふざけるなよ、お前っ!」
俺は勢いに任せて、ニナに掴み掛かったが……特に何か出来るわけでもなく、ただ力無く彼女を医療室の外にまで押し出した。
その間ニナは一切抵抗せずに不思議そうな顔をしていた。
「……どうしたの? 私が間違った事を言ってる? 違うわよね、おかしいのはアンタの方」
「そうかもしれない、けど」
「この前だって、アンタと喧嘩してた男を私が殺してあげたから助かったんでしょ? 今回も同じことをすれば良いの。私が後腐れの無いようにしてあげる。どう? 嬉しくないの? アンタみたいなカスの為に、私が一肌脱ぐって言ってるのよ?」
「……ニナはいつも俺なんかを助けてくれる。今回だってニナが正しい。でも、今日は帰ってくれ」
俺はそれ以上は言葉を交わすことなく、逃げるように扉を閉めた。最後の最後までニナは困惑した顔をしていた。
「……センパイ?」
背後から声が聞こえる。俺はゆっくりと、振り返った。ベッドでは上半身だけを起き上がらせたシィが静かに微笑んでいた。
──暗く曇った紅色の瞳から、大粒の涙を流しながら。
「責任、取ってくれますよね?」
「……分かってる」
《六級掃除屋シィに関する報告書》
五等害魔獣“鎧豚”の掃討任務に失敗。
戦闘時の負傷による下半身不随、及び指先の運動機能の深刻な低下が見られる。また心的外傷による暗所恐怖症を併発。
状態、再起不能。
当該者を掃除屋名簿から削除することが確定。




