01 鼠狩り
泥鼠。迷宮の至る場所で繁殖を続けている魔物の名だ。
奴らは大いに喰い、多くに増える。他種族とも貪欲に繁殖を行い、その個体数は数億にも及ぶと言われている程だ。
恐らく“迷宮”において最もメジャーな魔物と言って良いだろう。
俺たち人間にとって迷宮の魔物はとても身近な存在だ。
人類は何百年も昔から、この暗く巨大な迷宮の中で生活している。過去の偉人たちが迷宮の一部を踏破し、魔物を駆逐し、街を作り、“人類生活圏”を作った。
掃除屋は定期的にその生活圏の外である未踏破の迷宮に潜っては、こうして魔物を駆除している。
そして魔物たちは迷宮において人類よりも遥かに先輩だ。生存能力と適応力に長け、戦闘能力も高い。俺たち人間が相手取るには厄介な害獣だ。
封鎖された鉄扉を開き、迷宮に踏みこんだ俺の視界では、危険な魔物である泥鼠がひしめき合っていた。
「多いな……これ本当に単独でこなす任務なのか?」
パッと見回すだけで十匹を越える泥鼠たち、それらは一斉に俺を見てドタバタと駆け回る。
その内の一匹が、人間の子供ほどの巨体を震わせて飛び掛ってきた。
「うぉ、危なっ」
体当たりを間一髪で回避した俺は腰から片手斧を取る。そして泥鼠の無防備な首に目がけて、思いっきり振り下ろした。──どちゃっ、と音を立てて刃が肉に突き刺さる。頚椎を破損させた手応えがあった。泥鼠はジヂヂヂと不快な声を上げてもんどり打ち、血を吐いて絶命する。
そんな惨状を見て、部屋の隅で様子を見ていた泥鼠も毛を逆立てて威嚇を始めた。
「悪いけど、お前らを駆除して、ここに新しい集合住宅を造る予定なんだ」
可哀想だが泥鼠には、俺たち六級掃除屋の崇高なる使命である“人類生活圏の拡大”の礎になってもらう。
「俺たちの生活の為に、死ねッ」
牙を向いて飛び出した泥鼠の口内に手斧をねじ込み、頬を裂くようにして喉元まで刃を通す。切り口から噴き出した血液がドバドバと上着を汚した。泥鼠は簡単に絶命したが代わりに斧が深く刺さって抜けなくなってしまった。
その隙を付くように横から飛び掛ってくる別の泥鼠、俺はそいつの額に蹴りを入れて一瞬怯ませると、背中に飛び乗って首に腕をかけて仰け反らせる。メキリと背骨がへし曲がる音と、苦悶に塗れた獣畜生の断末魔が響いた。
「これで三匹。残りは……数えてられないな」
手放した斧を回収している暇が無いことを悟った俺は背中から鋭い直剣を抜き放ち、近場にいた泥鼠の眼孔に向けて真っ直ぐに突いた。
磨かれた刀身はズルッと脳にまで到達し、引き抜く時もスムーズに抜けた。きっと苦しむ事もなく絶命できた事だろう。
順調。今日の俺は調子が良かった。
もちろん油断もしていない。壁面の穴から新しい泥鼠が湧いて出てくるのを確認した。俺を取り囲む個体の数は時間と共に増えるだろう。
「この数を単独で仕留めたら報酬も多いだろうな」
もしかしたら今日は、いつもの培養装置でブクブクと増やされたクズ肉なんかじゃなく、本物の家畜肉に齧り付けるかもしれない。そう思うと腹の底から力が湧いてきた。
「こいつら全滅させたら、尻尾を切り取って成果を報告する……そしたら肉を食おう」
俺は今度は自分の方から泥鼠に向かって飛び掛っていった。全てはより良い生活の為に。




