14 心が安らぐ場所
工房に戻ってきた俺は、頭に大きなタンコブを抱えたヨシマサにもう一度キュウを預けた。
彼は文句の一つも言わずにキュウに強めの麻酔を打ち込んで作業を再開するが、その表情は何やら険しい。やはり怒っているのだろうか。
「……あー、次からこいつのメンテは小僧が自分でした方が良いな」
ヨシマサが手を動かしながら呟く。
突然そんな事を言われては俺も困惑するしかないが、とにかく何にせよ彼の力を借りられないのはまずい。
俺ではキュウの劣化を完全に止めることは出来ないのだから。
「どうしてだ? キュウが暴れた事なら、本人も反省してるから許してやって欲しいんだけど」
「俺は別に、金さえ払えば仕事はするぜ? だが、その嬢ちゃんは小僧に修理して欲しいようだからなぁ?」
ヨシマサは小声でブツブツ呟きながら、何故か、傍で座っているシィに目配せする。
「さっすが、ベテランは解ってるッスねぇ。後で説明する手間が省けたッスよ」
「俺はその小僧とは違って人生もベテランだからな。……だけどなぁ小娘、お前はそれで良いのか?」
「うん、良いの。だって最後には私を選んでくれるって決まってるもん」
「ははぁ! なるほどな!」
二人でコソコソ話していたかと思えば、今度は大声でヨシマサが笑う。しかもそれに合わせて、シィまでケラケラと笑い始めた。……どういう理屈で意気投合したんだこいつら。
「そうだ小僧、約束を忘れるなよ!」
「約束? 何の話だ?」
「馬鹿野郎! この仕事が終わったら、お前が俺の弟子になるって話だよ!」
──すっかり忘れていた。いや、違う。まさか本気だとは思わず、覚えようともしていなかったのだ。
つまり俺は、これから定期的にヨシマサに改造屋の仕事を教わるというのか? 本業は掃除屋なのに。
「俺にそんな時間は無い」
「底辺ほどヒマな世の中だろ、小僧みたいな負け組は時間を持て余してるさ!」
「俺はシィの世話をしなきゃいけないし、掃除屋の仕事もあるから」
そういえばヨシマサには俺の本業をまだ伝えていなかった。俺が多忙な掃除屋だと分かれば、これ以上無茶は言わないはずだ。
「はぁぁ? 掃除屋だぁ? 小僧てめぇ、今は何処に住んでる?」
「……外縁居住区の八百八十八番地だけど」
「ド底辺じゃねぇか! 向いてねぇよ掃除屋!」
──なんて事を言うんだろう、この分からず屋は。この俺が今まで必死に数年間、命懸けで続けて来た仕事が向いてないだって?
「そんな事はないだろ! これでも六級の中では優秀な方だぞ!」
「若いうちに才能の無い道に進んだガキは哀れだな……まぁいい。どっちにしろ、そんな辺鄙な場所に住んでたら仕事が不便だろ」
それはその通りだった。
人類生活圏の端っこにある外縁居住区は、言うなればド田舎。生活に必要なものが何も無い。仕事どころか全てが不便だ。
「俺に良いアイデアがある。お前ら今日からここに住め。ここは清掃会の支部も近いし、駅も近い。都会だから大型マーケットもあるぜ。部屋なら地下に広いのが一室だけ空いてるから三人で仲良く使え」
「……いいのか?」
「その代わり、お前は俺の弟子になれ」
やむを得ない。それで住まいを提供されるなら、しばらくお世話になろう。
それに所詮は口約束だ。嫌になったら出ていけば良い。
「あ、そうそう。オッサンにはもう一つ頼みたい仕事があるッスよ」
「おう? 構わんが金は取るぞ? 一応お前らはもう顧客だからな」
「ふふふっ、ここに札束があるッス。何でも思いのままになる金額ッスよ」
「……それ元々は俺の金だろうが。それに何でもと言えるほどの大金でもねぇぞ」
「金は金ッス! 黙って私の注文を聞くッスよ!」
ヨシマサの足元に這い寄って、シィが何やら悪い顔で商談を始めている。握り締めた札束には、俺たちが仕事で稼いだ分も全て含まれていた。
あれは三人で山分けする筈だったんだが、一体何をするつもりだろう。




