空子とあの人の、二人の時間
…むにぃ~。
さっきまでぼーっとしてたのに、なんだが突然びびっと目が覚めた。
私さっきまで真っ白な病院にいたのに、今はすっごく真っ赤だよ!
もしかして、病院燃えちゃった?お母さんはどこかな?天国のお父さん、助けてくれるかな?
しばらくじーっと考えてると、突然ぴかーんって明るくなって、私はごつごつ岩の場所にいた。
「ここ、どこなの?」
よくわかんないけど、私は歩いてみた。
すぐ近くに、真っ赤なお水が流れてる。
血なのかな~って思ったけど、違うみたい。
近づくとすごくあっついし、ジュージューお肉の焼ける音がする。
「なんだろ?」
触ってみようとすると、
「お嬢ちゃん、こんなのに触ったらあたしみたいになっちまうよ。危ないから、離れな。」
って声が後ろから聞こえたの!
「~?だあれ?つのはえてる…おにさん?」
「そうそう。鬼さんだよ。怖い?」
「こわくないよ。だっておねーさん、あぶないっておしえてくれたでしょ?やさしいひとじゃん!」
怖い人は、こういう時教えてくれないと思うもん。このおねーさんはいい人に決まってる!
「そうかい。そりゃあうれしいね。で、お嬢ちゃんはまだ裁判受けてないよね?」
「さいばん?よくわかんないけど、やってないよー。」
「そ。じゃあ案内するよ。おいで。」
おねーさんはとことこ歩き始めたから、私もとことこついてった。
ついてくとその先には、黒ーい服のおじさんがいた。
「おじさん、だあれ?」
「やあ、お嬢ちゃん。おじさんは、閻魔だ。」
「えんまさまあ?よろしく、えんまさま!」
本に出てきたんだ、えんまさま!
ホントーに会えるなんて、ラッキー!
「さて、早速裁判を始めよう。えー、君は特に悪いことはしてない…むしろいいことをしているね。じゃ、どこに行くか選んでいいよ。天国、地上、それとも生まれ変わるか。」
「てんごく、ちじょー、ウマレカワリ…。ウマレカワリってなに?」
「あー、もう一度人間として生きることだ。」
「わたし、にんげんだよー?」
「…君は今、もう死んでるんだよ。幽霊だ。」
「ゆーれー…。」
ゆーれーはお化けのことだったはず。じゃあ私、お化けになっちゃったんだね。
「うーん、おばけかあ。いつなっちゃったんだろ?びょういんにいたんだけど…。」
「お嬢ちゃんは…病気、だね。病気で、死んでしまったんだ。」
「びょーきかあ。たしかに、なんだかとってもいたくていたくてちぎれちゃいそうだったきがする!」
「…そうなんだね。それで、どうする?地上か天国か生まれ変わりか。」
私はとっても悩んでみた。
ちじょーは今まで私がいたとこ。天国は楽しそーなとこ。ウマレカワリは人間になること。
「そーだなー。ちじょーにする!わたし、むしさんもおはなもだいすきだもん!」
「よし、わかった。では、さようならだね。」
「えんまさまも、おねーさんもばいばい?」
「そうだ。またいつか、な。」
えんまさまは手を振ってる。
私もばいばーいってしよーとしたら、
「お嬢ちゃん、お名前聞いてもいいかな?」
「なまえ?わたしはね…みやかわそらこ!」
「空子、か。じゃあ、またね!」
おねーさんも手を振ってくれたから、今度こそばいばい。
私はふたりにぶんぶん手を振った。
「わざわざ名前を聞くなんて、お前らしくないな、鬼子。」
「…なんかね、あの子はいつか、でっかくなる気がしたんだ。」
「ははは…それがらしくないと言っているんだよ。」
気が付くと、私はちじょーにいた。
「んー、私のいたまちかなー?」
私がいたのは、あんらくちょーっていう町。
なんか似てるけど~、よくわかんなくなってきた。
「こんにちは、新人さん。」
その声が聞こえるまで、私はしばらく考えてた。
「…こんにちは、おばさん。」
「おばっ…。」
まあ、まっ白でふよふよだからおばさんかどうかはわからないけどー、多分おばさん!
「…まあいいわ。それで、あなたのお名前は?」
「わたし、みやかわそらこです!はっさいです!よろしくでーす!」
「はいはい、よろしくね。」
おばさんは疲れたよーに頭を振った。どーしたのかなー?
「あのー、ここってどこですか?」
「見ての通り、安楽町よ。あなたの故郷のはずよね、ここにいるんだから。」
「やっぱそーかー。それで、なんでそんなにふよふよしてるの?」
「幽霊だからね。ここではあなたみたいな人型の方が珍しいわ。」
「めずらしーかあ!やった!」
珍しーとみんながちゅーもくしてくれるらしい。
だから私、アイドルになれちゃうかも!
「それで、家とかにも案内するわね。あ、ちなみに私の名前は美香。こう見えて、ここのリーダーなのよ。」
「そっかあ、みかさんかあ。あらためまして、よろしく!」
こうして、私のゆーれーせーかつが始まったのだっ!
それからしばらく経った。
時々鬼子と鬼子のお友達の鬼太が遊びに来る。だから暇しなくてちょー最高!
それはともかく、最近うわさっていうのが流れてるんだよねー。
なんか、えんまさまがえんまやめちゃったから、他の人を探してるんだって!
美香さんが「フフフ、あなたも立候補すれば?なーんてね。」って言ってたから、私えんませんきょにでることにしたんだよ!
周りの人はふよ白さんばっかりだったんだけど、私だけ人でゆうりってやつ!
鬼子たちも私がいいって言ってくれたから、このまま勝てそう!
もーすぐ発表なんだ!すごく楽しみ!
今ね今ね、えんませんきょのしょーしゃがわかるけいじばん見てるんだ!
それでね、それでね、私えんまになったんだよー。
すごいでしょ!これで私もアイドル!
まず、じごくで元えんまさまにお仕事を習うんだ~。
早速地面をずるずるる…
ってしたら地獄につくんだ!
あー!えんまさま見っけ!
「ああ、よく来たな、お嬢ちゃん。」
「こんにちは!えんまになったから、お仕事教えて!」
「まあまあ、慌てるな。じゃあ、早速裁判のやり方を…」
それからまたずいぶん経った。
もお勉強はめっちゃ大変だった!
漢字とか覚えないといけないし、裁判も大変大変!
でもやっと覚えたから、今日から本当に閻魔になったよ。
鬼子たちも手伝ってくれるし、頑張らないとね!
あ、早速幽霊来た!
「こんにちは。えーっと、あなたの犯した罪は…」
「っていう感じだったんだ。昔は大変だったよ…。」
「そうなんだ。」
私は今、地獄で千広と一緒に午後のティータイム中。
「空子ちゃん、前の方が今よりもっとはっちゃけてたんだね。」
「アハハ…昔は、今より頭も悪かったから。今ではもう頭がいいはっちゃけ具合になったよ。」
ん?頭がいいはっちゃけ?よくわかんないこと言っちゃったや。
閻魔にならなかったら、私はずっと頭が悪いはっちゃけだったんだろうな…。
そう考えると、閻魔になってよかったと思う。
閻魔じゃなかったら、千広にも会えなかったかもしれないからね。
考え事をしていると、私の唯一にして一番の友達が、
「どうしたの、空子ちゃん?」
とたずねてきた。
「…ううん。なんでもない。」
今は千広と一緒ティータイムなんだから、そっちを優先しないと。
考え事をする時間は、あとから作ればいい。
私たち幽霊の時間は無限大。尽きないものだから、終わりなんて考えなくていい。
掌には、閻魔をやっているうちに飲めるようになった紅茶の入ったティーカップがある。
幽霊は肉体も精神も成長しないっていうけど、なんだかんだ言ってちょっと私の精神は成長した気がする。
昔の頭が悪いはっちゃけは卒業してしまったのだから。
って、いけない!ティータイムだよ、ティータイム!
「今日の空子ちゃん、らしくないね…病気かな?」
「ち、違うよ!ちょっとだけ考え事してただけ!」
「その考え事をしているのが、らしくないって言ってるんだけどなあ。」
…あれ?
このやり取りを、どこかで聞いたような気がする…。
って、これ以上こんなことをしてたら千広が帰っちゃう!
お菓子も何も一口も食べてない!食べられちゃう!
「ん?千広、お菓子食べてなかったの?」
「だって、せっかくの空子ちゃんとのティータイムだよ?二人で一緒がいいじゃん。」
「…。」
「照れてる?」
「照れてないって!」
本当に、本当にちょっとしか照れてない。
私は慌ててクッキーを手に取り、食べ始めた。
横では、千広もクッキーを口にしているのが見える。
一人より、二人一緒の方がいい。
一人でお茶を飲むくらいなら、あなたと一緒にいたい。
…これもどこかで聞いたことあるような…。
まあ、そんなことはどうでもいい。
二人で一緒にいる時間は、何よりもかけがえのないもので。
…二人で一緒に食べるクッキーは、いつもより甘かった。
「一人でいるくらいなら、あなたと一緒がいいわ。自分の部屋で孤独に過ごすのなら、あなたと一緒にいたい。空子も、そう思わない?…お母さんは、そう思うなあ。」
あの空子ちゃんが閻魔になれるんですから、人の形ってよっぽど得なんですね。
二人で一緒に、病院に行く?地獄に行く?