9. 真の悪役令嬢は
少し間が空いてしまいました。
何ですの?
何でこのお二人がココにいるのですか? ねえ、ハインツ様にレインベルト様!?
エレンツィード殿下がお住まいになるお部屋は、大理石のアーチが美しい白薔薇の咲き誇る庭の向こう側になるのですって。
王宮に来るのも久し振りなのですわ。何と言っても、5歳の時と10歳の時のエレン殿下のお誕生パーティーと15歳のデヴュタントの時位かしら。
毎年行われているエレン殿下のお誕生パーティーも、既にジョイル様という婚約者が決まっていた私としては、
『わざわざ今更、行かなくてもいいんじゃね?』
と、ばかりにバックレていました。だって、王子様のお誕生パーティーなんて婚約者探しの出来レース的なイベントでしょう?
『正直、面倒臭いですわ。だって、私にはジョイル様がいるし。ジョイル様が王子の側近でいるのなら、別に私がお近づきにならなくても彼で用は足りますわ』
面倒臭い社交などは、ジョイル様にお任せして私は屋敷でゆっくりしましょ。貴重な隣国の文学全集もありますし。
それに、あのエレン殿下よ。エレンツィード殿下。
私の社交の躓きは、アイツから始まったのよ?
白薔薇の香りを楽しみながら広間を横切ると、エレン殿下付きの侍従、バレン様が出迎えて下さいました。とっても素敵なロマンスグレーになっているけど、この方一体お幾つなのかしら? 陛下に見込まれて、エレン殿下の侍従に抜擢された元伯爵家のご子息だとか。
「ヴィヴィエット・レベンデール公爵令嬢、お待ちしていました。殿下がお待ちですので、こちらにどうぞ」
滲むように微笑む姿が素敵ですわ。優雅で無駄のない所作とは、こういう事を言うのね。思わず見惚れてしまいます。
「急な面会の申し入れに、ご面倒をお掛けいたします。随分とご無沙汰しておりますわ、バレン様」
確か、5歳の時の殿下との取っ組み合いで、私を抱き上げて下さったのはバレン様だった。あの時は、私の涙とよだれと鼻水で、黒の上質な燕尾服はべたべたになったわね?
因みに、エレン殿下はキラキラしい近衛騎士様に抱き上げられていたわ。騎士様の白い式服がきっとべたべたドロドロになっていたはずよ。
私は泣きながらバレン様の首に縋る様に抱きつき、バレン様は優しく私の身体を支えながらエレン殿下を諫めていたわ。
私から見えなかったけれど、騎士様に抱かれたエレン殿下にこう言ったのよ。
『エレンツィード殿下。可愛らしいご令嬢を泣かすなど、紳士のやる事ではありません。きちんとお詫びして下さい』
耳元で聞こえる柔らかな深い声に、私はすっごく安心したのよね。
でも、エレン殿下は謝らなかったわ。
だって! とか、でも! とか泣きながら言うばかりで、言葉にはならなかった様に思うけど。
うーん。もう、忘れましたわ。
「ご無沙汰しております。本当にお久し振りですね。お会いできて光栄です。良くいらして下さいました」
バレン様にそう言われると、何だか面映ゆいですけど。
「エレンツィード殿下、ヴィヴィエット・レベンデール嬢をご案内して参りました」
オーク材で出来た彫刻の見事な扉の前で、バレン様が声を掛けられました。
「入れ」
エレン殿下の声です。
随分、偉そう。まあ、偉いのですけど。
そして、そして静かに開いた扉の向こうに……
『何で、ハインツ様とレインベルト様もいらっしゃるの!?』
ちっ! 二人がいるなんて聞いていないわよ!?
~ ~ ~ ~
「という訳で、アリアーヌ様を追ってジョイル様が、伯爵家を出てしまいましたの。殿下の許可も取っていませんでしょう? 側近である以上、無分別な行動は以ての外ですもの」
「ちょっと待って。何でそんな事君が知っているの? アリアーヌ嬢がダンデル氏の実の息子と家出するなんて、どういう事?」
さすがにエレン殿下も、息子の事まではご存じ無かったのね。
「アリアーヌ様はダンデル氏の息子、ブランドル様とも懇意だったみたいですわね? ブランドル様は御年22才ですから、まあアリアーヌ様とも釣り合います。何と言っても元子爵家の令嬢だった、ご正妻の一人息子ですから。いずれはレベネン商会を継ぐことになるのではありません?」
エレン殿下にハインツ様、レインベルト様は無表情になっています。聞こえているのかしら? ああ、もう全部言わないと男性には判らないのかしら?
「つまりですわね、借金の返済の為に親子以上に年の違う男性に、自分より年下の可憐な美少女が嫁ぐのですわ。借金の為に身売りするような結婚を強いるのが、自らと血が繋がった実の父親。目を潤ませて、我が身の運命を憂う彼女を、放って置くことが出来なかった……なんていうストーリーじゃないでしょうか?」
「「「……」」」
あら、どうしまして? 三人とも顔色が良くありませんけど?
「因みにですけど、アリアーヌ様はダンデル氏のお見舞いと言って出かけて、実はブランドル様と逢瀬を重ねていたようですわ。ダンデル氏もまさか信頼する息子が、自分の妻となる女性と昵懇だったなんてご存じ無かったでしょう」
ここまで言えばお判りになりますわね。とてもジョイル様の手に負える女性ではないのですわ。アリアーヌ・ポルテス男爵令嬢は。
「そう……か。男爵家としてはレベネン商会に娘を嫁がせることには変わりはないし、普通に考えれば、父親であるダンデル氏よりも、年回りも良いブランドル氏の方が適正だな。いずれ商会を継げるなら、身体の不自由な親より年上の男より、年の近い次代の息子に賭けるな」
エレン殿下が腕組みをしてソファアの背もたれに身体を預けましたわ。脱力しましたか?
「つまり、昨日の醜聞が広まって結婚が早まる前に、逃げたのか……既成事実を作ってしまえば、ブランドル氏と結婚するしかないだろうな。婚約破棄の原因となるより、彼との家出の方がよっぽど純な話題となりそうだ」
ええ。そう言う事になりますわね。
「じ、じゃあ、追って行ったジョイルはどうするんだ!? 完全に当て馬じゃないか?」
ハインツ様が頭を抱えて唸りました。そうなんです。仮にも元、元婚約者ですから余りに可哀そうでしょ?
「ですから、何とかジョイル様を連れ戻して頂きたいのです。これ以上、彼が傷付くのは見たく無いのです。最悪、疑う事を知らない彼が無体な事をしないか……心配なのですわ」
思わずハンカチを握りしめて、エレン殿下を見詰めます。
元婚約者が事件の犯人とか、絶対嫌ですもの。そこは阻止! でしょう!
エレン殿下。貴方が発端の私達の婚約破棄は、結構イイ感じに混乱してきましたわよ?
さあ、どうなさるおつもり?
ブックマーク、誤字脱字報告、感想も
頂いて感謝です!
何でしょうか、ジョイル君が
可哀そうになってきました。
次は、アリアーヌちゃん視点で行きましょう。
実は一番の悪役令嬢は彼女じゃないかと。
女の子の怖さを感じる男子三人でした。
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