36. 来賓
少し短いです。
美形さん登場です。
大小の噴水が階段状に並んで、豊かな水量で水音を立てている。
真っ白な大理石で建造されたそれらは、豊かな緑に囲まれて煌めく木漏れ日を反射させていた。白と緑の鮮やかなコントラストが大層美しい。
王宮の中央にある大噴水庭園は、ゴートベニア国の自慢の建造物だ。建築技術に優れているため、国公立の建造物は全て美しく、王都を中心とした街並みは近隣諸国の観光地としても人気があった。紺碧の海と豊かな山脈からの恵みも受けて、国自体の繁栄は誰が見ても感じられているほどだ。
そんな中央大陸のやや南側の位置にあるゴートベニア国には、他国と大きく違う特徴があった。
一夫多妻制だ。
過去、ゴートベニア国は多くの小国の集合体であったので、一国に纏めるために婚姻と言う形を取っていた。それも形骸的になりつつあったが、現在の国王であるアンシェル国王は3人の妻を娶っていた。そして5人の王子と8人の王女がいた。
「お兄様! クー兄様!」
淡いピンクのスカートを翻して、中庭の東屋に駆けてくる人影があった。
「メリ。こっちだよ」
東屋の中で椅子に寝そべったまま、ひらりと片手を振った。そして、読みかけの本をクッションにそっと置くとゆっくりと半身を起こした。長い銀色の髪がさらりと胸元に流れて、紺色の上着に模様を描く。
「クー兄様、こんな所でまた、さぼっていたのですか? 準備はもうお済みですの? 幾ら行きたくないからって、出発は明日ですのよ!」
東屋に駆けこんできたのは、まだ幼い少女だ。クー兄様と呼ばれたクラレンスの同母妹で、今年9歳になるメリーナだった。乱れた息を鎮める様に深呼吸をした後に、クラレンスの前で腰に手を当ててそう言った。随分と大人ぶった言い方だ。
「そう言うメリ、君はどうなの? 大体終わっているんじゃないかな? 昨日大きなトランクが幾つも運ばれて行ったからね。私の私物なんて大した量じゃないし、ほとんどは衣装だろうね。でも、男の準備なんて些末なもんだよ」
クラレンスは肩を竦めて答えると、メリーナを膝に載せ、明るいストロベリーブロンドの前髪の乱れを直してやった。年の離れた妹を大層大事にしているようだ。
「私だってもう終わっています。後は、明日の出発を待つばかりですわ」
後ろを振り向き、少々大人ぶった物言いをしているが、その顔はまだ幼さが残っている。母譲りのストロベリーブロンドがツヤツヤとして、耳の両脇に纏められた髪型は、まるでデニッシュのように見える。
「ねえ、メリ。この髪型はまるでお菓子みたいだね。美味しそうだよ? 食べていいかい?」
「……イ・ヤ・です。お菓子みたいだなんて、何か子供っぽいです。私の髪は結っていないとフワフワして纏まらないんですもん。クー兄様みたいにストレートなら良いのに」
少しむくれた様な口振りで、メリーナが肩先から流れているクラレンスの銀髪にサラリと指を通した。
クラレンスの髪は、父親である国王似。そしてメリーナは正妃である母親似で二人は白金と紅金の兄妹と言われていた。髪色は両方の親から受け継いでいるが、その瞳はゴートベニア・ブルーと称される特徴のある王家の鮮やかな碧色だった。
「そろそろ部屋に戻ろうか。陛下との打ち合わせが始まるのかな? それで呼びに来てくれたのだろう?」
メリーナを膝から降ろすと、クラレンスは本を持って立ち上がった。スラリとした長身に、背中まである銀髪が流れる。襟の詰まった濃紺の上着はくるぶしまでの丈で、脇に入っている長いスリットのお陰かスタイルの良さが良く判る。
「クー兄様って、しゃべらなければ良いと思うのよね。なんか残念な気配がするんですもの……」
溜息と共にメリーナがそう言うと、クラレンスはひょいっと彼女を抱き上げた。どこにそんな力があるのかと思われるが、顔色一つ変えずに片抱きすると彼女に本を渡した。
「メリ。私の大事なお姫様。さあ、部屋に戻ろうか。あ、でもこの本は持ってくれる? 大事な本だから落とさないでおくれ」
やんわりと微笑まれて、メリーナも頷いた。そして、本をしっかり持つと反対側の腕を兄の首に回した。
「クー兄様こそ、落とさないで下さいね」
この兄が自分を落とす事など、決してない事をメリーナは十分に知っていた。そして、飄々とした掴みどころが無いと言われている兄を、一番よく理解しているのは自分だと思っていた。
翌日早朝に、クラレンス第二王子とメリーナ第八王女はゴートベニアを旅立った。
一路、園遊会の行われるグレイデン王国へと。
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何をしてくれるのか……
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