34. 何かが起きそうな気配
初めて人様の恋愛事情を目の当たりにしました。恋愛事情と言うには、少し様子が違うような気もしないでも無いですけど。
レイン様は、一体いつからカテシーナ様の事を想われていたのかしら? だって、生徒会で初めてお会いしてからまだそんなに時間は経っていませんでしょ? 顔合わせをした時には、そんな素振りは一切感じられませんでしたもの。それとも、私だけが気が付かなかったとか?
もしかしてですけど、私が鈍かったのかしら? 皆さんは気が付いていて、私だけが気が付かなかったのかしら? このヴィヴィエット・レベンデールともあろう者が? 私の情報網に引っ掛からなかったという事なの?
『……ねえ、ヴィヴィは気が付いていたの?』
くぐもったヒソヒソ声ですけど、思いがけず近い距離からの声が。エレン殿下の声ですわ。
『ねえ、ヴィヴィは知っていたの? レインとカテシーナ嬢のこと』
イヤイヤ、気が付いてなんかいませんでしたわ。
今初めて知ったのですから。今目の前で手を握り合い、頬を染めたお二人に驚いていますし、ぱぁっと周囲に煌めく光が飛ぶようなこんな光景は初めて見ましたわ!
ああ! 何でしょう! 胸の奥がキュンとしてお二人から目が離せません。
『ヴィヴィ? そろそろ離してくれないかな。さすがにこの距離は、幾ら何でも近すぎでしょ』
『おぉうっ!?』
指先をやんわりと掴まれて、はっと我に返りました。
きゃあぁああああ! 私はエレン殿下の口を手で塞ぎ、尚且つ凭れ掛かる様に殿下を抑え込んでいるじゃないですかっ!
「ああっ! た、大変、し、失礼しましたっ! 申し訳ございません!」
慌ててエレン殿下の口を塞いでいた手をどけようとしましたけど、キュッと握られて指先を絡められてしまいました。うっ、にんまり顔で見下ろされる視線が何とも意味深に見えますけど。
「あの、殿下? この手を離して頂けませんか?」
エレン殿下のもう片方の手は、私の腰に回されていているのですわ。一体いつの間に? そして、この絡めとられた私の指先を、何で自分の口元に持って行くのですか?
「これで勘弁してあげる。お返しだよ」
そう言って、チュっと私の指先にキスをしたのですわ!
「はっ? な、何で?」
キスと同時にぱちりとウインクをすると、エレン殿下はスルリと私から離れてご自分の席に向かわれました。
なんなの? さっき迄レイン様とカテシーナ様の甘々シーンに釘付けだったのに。エレン殿下が絡んでくると、どうも調子が狂いますわ。
このヴィヴィエット・レベンデールともあろう者が!!
エレン殿下が生徒会長の席に座ると、私達も漸く平常心に返って着席しました。チラリと見ると、流石レイン様ですわね。カテシーナ様の椅子を引いて差し上げていますわ。そして慌てることなく、テーブルを挟んだ反対側の席に腰掛けました。レイン様の振る舞いをじっと目で追っていましたけど、この方思っていたより脳筋じゃないのですわ。いけませんわね、無口で寡黙な騎士のイメージが強くて、先入観を持っていたみたいです。まあ、コレも実はジョイル様から聞いた数少ない側近方の情報だったのですけど。
「僕が来る前に、一仕事してくれたみたいだな。で? 何でこうなった? まあ、おめでたい事ではあるが、レイン?」
そう言ってエレン殿下は、会議用テーブルに広がっている招待状の山に視線を向けましたわ。そして、話を振られたレイン様に、これ以上無い位の笑顔を向けて尋ねました。
「……」
「レイン?」
「……」
「レ・イ・ン?」
耳まで赤くしたレイン様ですが、唇を一文字に結んだまま真っ直ぐ前を見詰めています。これは無視を決め込むつもりでしょうか、それとも経緯を言うべきか悩まれているのでしょうか?
ニンマリ煌めくプリンススマイルで、頬杖を突いてレイン様を見詰めるエレン殿下ですけど、そろそろ止めさせた方が良いかしら。何だか居た堪れなくなってきました。チラリとお隣のカテシーナ様を見ると……こちらも同じような茹蛸状態で、尚且つ精神は明後日に飛んでいる様な感じです。
このままでは、何時まで経っても埒が明かないでしょう。私は意を決してエレン殿下に話し掛けようと、顔を向けました。
『っ!?』
エレン殿下と視線がバッチリ合いました。それも滲むような柔らかで甘々しい視線ですのよ? 思わずドキリと心臓が高鳴ると、話しかけるタイミングを逸してしまいました。
「殿下、それ位にしてやってください。レインとカテシーナ嬢に悪いですよ。
ところで、殿下は学院長室に呼ばれていたのでしょう? 何か急用でもありましたか? 滅多に呼ばれるなんて事は無いでしょう?」
ハインツ様です。さすがのタイミングで話を逸らしましたわね。と言っても、エレン殿下の視線は私と合ったままなのですけど。ああ、胡散臭いその笑顔で見詰めるのは辞めて頂きたいですわ。ジト目で見返す私に、更に目を細めてにんまりと微笑んでから、ハインツ様に視線を向けられました。
「ああ、まあそのことなんだけど、ちょっと面倒な事を頼まれたんだ」
小さくフッと溜息を吐かれたエレン殿下は、制服の内ポケットから一通の封筒を取り出しました。
「エレン殿下、それは?」
ハインツ様がほんの少し眉を上げた様に見えました。
「……お隣から届いた。招待状を送る前に、園遊会の噂を聞き付けて送って来た」
エレン殿下が封筒から便箋を取り出すと、ハインツ様に向かってひらりと手渡しました。薄っすらと見えたのは、金色の透かし模様……って、王家専用の便箋ではありませんこと?
「隣国、ゴートベニア国から王族がやってくる。園遊会に参加するのが目的と言うが……面倒事が増えた」
ゴートべニア国から王族の方がいらっしゃるのですか? 確かに招待状には近隣の各国、駐在する大使宛の物はありました。でも、直接王族の方がいらっしゃるなんて、そんな大掛かりな催しものでしたっけ? あくまでも学生主体の国内のイベントでしょう? 違いまして?
それに、王族のどなたがいらっしゃいますの? 確か隣国の王族は、一夫多妻制で沢山の王子サマや王女サマがいらっしゃると伺ったことがありました。
「来るのは、第2王子のクラレンス殿と第8王女のメリーナ王女だ」
そう言ってエレン殿下が、深い溜息を吐かれました。お行儀悪く椅子の背に凭れ掛かっていますけど、そんなに脱力する位面倒な事ですか? 第2王子のクラレンス様って言えば、正妃様のお子様じゃなくって? ってことは、実質次期国王様でしょう。 それに第8王女様は第2王子様と同腹でしたっけ。ご兄姉の一番下の末っ子姫ですよね。
何でこの方達が、エレン殿下を脱力させるのでしょうか。まあ、クラレンス様は私達と同い年ですし、噂では少し変わった方という情報も聞いているわ。まあ、どんな風に変わっているかまでは判りませんけど、私にとっては良いネタかも? なーんて。うふふ。
この時、私はこれから起きる事など、何も想像できていませんでした。
ブックマーク、誤字脱字報告、
いつもありがとうございます。
さあ、いよいよ何かが起こりそうな気配がしてきました。
隣国の第8王女様って、そうです。エレンの婚約者候補でした。
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