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千早ノイズ  作者: 桜花 山水
2章   買い物に行こう!
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13/51

12話

 そして夜の7時、かいでインターホンが鳴る。

 きっと彼方かなただ。

 千早は足早(あしばや)に階段を降りて、玄関の扉を開けた瞬間、てんになった。

 彼方がかたから()げてるスポーツバッグが、なぜか遠足に行くみたいにパンパンなのだ。

「えっと……。ソレ、なに?」

 出迎えの挨拶(あいさつ)もなしに尋ねると、彼方は愛嬌あいきょうタップリの笑みで口を開く。

「エッヘヘ~♪ もちろん、勉強道具()()に決まってるじゃん。なんたって、折角のお泊まり会なんだもん。おっ(じゃ)()っしま~す♪」

 勉強会を、さり気なく『お泊まり会』にすり()えてきた。

 千早はいやな予感を感じつつも、彼方かなたを家の中へと(まね)き入れる。

「…………どうぞ、いらっしゃい」

 千早の心配事は(ほか)にもあった。

 彼方のげん一杯な声が、母親のこうしんを刺激したかも知れない。

 千早の予想はごとに的中し、彼方が(くつ)を脱いだ直後、喜色満面(きしょくまんめん)の春風菜奈が、

リビングのとびらを勢いよくけて廊下に飛び出した。

 しかも、こんな夜遅くなのに、なぜか余所(よそ)()(よう)のオシャレな服装である。

 玄関に、(くせ)のある(かみ)をサイドアップにまとめた小動物を発見すると、千早の母は、彼方の両手を()(ばや)く取ってマシンガントークをぶっ(ぱな)す。

貴方(あなた)が、千早ちゃんの言ってたお友達? 初めまして~。私は千早ちゃんのママの、春風菜奈(ナナ)って言うの。これからも、千早ちゃんのことを(よろ)しくね(キラリン)

あっ! ついさっき、クッキー焼いたばかりだから、()かったら食べてく?」

 DOS(ドス)アタックにも似た矢継ぎ早(やつぎばや)の台詞に、弾丸娘の彼方がしょちしている。

 千早は、よこから母親の身体(からだ)をグイグイと押しやり、強引にリビングへとかえす。

よるべると、太るから好い!」

 バターンと扉を閉めて、()(じん)封印(ふういん)を完了する。

 一方的に話し掛けられた彼方かなたは、呆気に取られたままだ。

「えっと、今のは……?」

 出来できれば、()()の存在は知られたくなかった。

 千早は(ざん)()()えない表情で吐き捨てる。

「近所に住んでる女の人よ」

 抑揚に(とぼ)しい親友の答えに、彼方も事情をいくらか察して、苦笑いで相槌(あいづち)を打つ。

「ずいぶん近くに住んでるんだね」

「まぁね……」

 まったく()(もう)な時間であった。

 あまり1階をウロウロしてるとロクな事がないので、すぐに2階の自室へと向かう。

 二人が階段をがり切った所で、階下から、またしても母親のけが押し寄せる。

「千早ちゃ~ん。お風呂、()いとくからね~♪」

 恥ずかしさのあまり、千早は階段下かいだんしたに向かってキレた!

()くのはゴハンで、お風呂は()かす!!」

「なんと……。普段は大人おとなしいあのちーちゃんが、家の中では()()ないツッコミ役だ」

 感心する彼方を連れて、千早は()()()()と自室へ移動する。

 中に入ると早速、彼方は(しつ)(ない)をソワソワと見回した。

「へえぇ……。此処(ここ)が、ちーちゃんのお部屋かぁ」

 千早は(ほお)を紅潮させて、羞恥心(しゅうちしん)から目を閉じた。

「あんまり他人(ひと)の部屋をジロジロ見ない」

 別に、部屋の装飾に自信がないわけじゃないが、なんだか自分の裸を見られているようで恥ずかしい。

 部屋の色調は、全体的にピンク色。

 室内中央、カーペットの上にあるのは、(もく)()の見える丸テーブル。

 その周囲を(かざ)るのは、(なめ)らかな()(ざわ)りのビーズクッションだ。

 冷たい印象の人当たりは単なる超能力(ノイズ)対策で、中身は(いた)って普通のおんなである。

 部屋の右側には、学習机とベッド。

 左は、本棚ほんだな・テレビ・クローゼットが配置されている。

 千早がパッと目を開けると、彼方はすでに、部屋の(すみ)っこへと移動していた。

「ねえねえ、ちーちゃん。此処(ここ)、なにが入ってんの? クローゼット、けてい?」

「勉強はっ!!」

 勉強前の(わる)ふざけが(ワン)セット終わったと思ったら、またまた千早の母が、ノックも無しにとびらを開けて現れた。

 しかも今度は、かみにパーマが掛けてある。

「千早ちゃん、折角(せっかく)お友達が来たのに、カーテン、ちょっと(よご)れちゃってるでしょ? 今の内に、新しいのにえ…………」

 千早は(しま)いには涙目になって、母親へ一生懸命いっしょうけんめいに懇願する。

「ああ!! もう()いから! お母さんは部屋から出てってば!!」

「イヤン♪ 千早ちゃんったら、ずかしがっちゃって」

 母親をろうに押し出して扉を閉めると、千早は、その場にペタンと座り込んだ。

――もうイヤだ。こんな展開……。

 千早がほうもない疲労感に(ふる)ぼけていると、彼方がまえで冷静に批評する。

「ちーちゃんは自分の母親のこと、『おかーさん』って言うんだね」

 はやは瞬時に、顔色を(あお)から(あか)へと染め替える。

「真剣に分析しないで!」

「アハハハハ! ゴメン、ゴメン……」

 わらつかれた彼方はテーブル前で胡座(あぐら)をかくと、両手を(くるぶし)の上にえて胸を反らした。

「にしても……。ちーちゃんのママさん、会うたび会うたびにれいが増してるけど、こんな時間に余所(よそ)きの服って、ホント、私が来たからってハシャいでるね」

 カラカラとたのしそうな彼方に反して、千早はとびらに背中を預けて、()げやりな言葉を返す。

「さあね……。彼氏カレシの所にでも会いに行くんじゃない?」

「ちーちゃん。いま、とんでもない事をサラッと言ったよ!? ちーちゃんの両親って、きっとまだ離婚してないし、どっちも生きてるよね?」

「どうでも()いわよ、そんなこと……。それより、テスト勉強べんきょう始めるからっ!」

「母親の(うわ)()の心配より、テスト勉強のほうが大事なの!?」

 千早は、こう混じりの疑問を黙殺(もくさつ)して、問題集と学習ノートを卓上に広げる。


 そうしてテスト勉強を始めてから15分、テーブルのかいがわに座る彼方が、

主人の帰りを玄関先げんかんさきで待つ犬のようにソワソワし始めた。

 千早もこのころになって、つばさとみずが、勉強会を断った理由がよく分かった。

 彼方は基本、注意力(けっ)(かん)児童で、誘惑の多い環境にいると集中できないのだ。

 つまりは、これっぽっちも勉強する気がないのである。

 さらに15分後、彼方が(おもむ)ろに口を開いた。

「ねえ、ちーちゃん。少しねむくなって来ちゃった……。ちょっとて良い?」

「ダメ」

 にべもなく()()けると、今度は名案(めいあん)でも閃いたように、テーブル上に()を乗り出す。

「じゃあさ、じゃあさ、今から買い物に行こうよ。私、お菓子かし食べたくなって()ちゃった」


『勉強はっ!!!』


 本日、同じ台詞せりふで二度目のツッコミを入れると、彼方がゆかうえに手足を投げ出した。

「ええぇ!! やだやだやだぁ~。お()かけしなきゃ、勉強しないぃぃぃ!」

 幼稚園児みたいに駄々(だだ)()ねる彼方に、千早は(しび)れを()らしてシャーペンを放り出した。

「あ~、も~う! 分かったから、子供みたいにジタバタしない! 言っとくけど、帰ったらちゃんと勉強してもらうし、途中で()()けるのは、今日だけだからね!」

 すると彼方は、急に()んだくうを取り戻して立ち上がる。

「えっ、ホント? ()ぅし、行こ行こぅ♪」

 交換条件だと、本当に分かってるのだろうか?

 千早は気乗(きの)りしない表情で(かみ)(ほど)き、コンタクトへと付け替えて(ぼう)()かぶる。

 さらには服の上からパーカーを着込んで、軽い変装へんそうを整えた。

 結局、クローゼットの中身を(だい)(こう)(かい)して、彼方にも服を()()えてもらう。

 フリルの付いたブラウスに、(しろ)(いと)縫製(ほうせい)された(ひざ)(たけ)のコットンパンツを下に合わせ、最後に、黒と灰色(グレイ)のチェック(がら)の帽子を被せて、彼方(かなた)専用のお(しの)びスタイルが完成した。

「エヘヘ……。なんか、ちょっとドキドキするね」

 千早はそれに答えず、部屋の扉をけて事務的に返す。

だまって出るのも悪いし、最低限、お母さん達には言っとくからね」

 すると彼方は、先生の()()()()を聞く保育児童みたいに、(つま)(さき)()ちで元気一杯に片手を上げる。

「ハ~イ♪」

 階段を降りてリビングに入ると、なんかもう、母親はドレス姿だった……。

 食卓には、ティーセットとクッキー。

 全体的に西欧風ヨーロピアンだが、反対側に座る父親が甚平じんべい姿で夕刊を読んでるのが、そのの雰囲気と最高に似合ってない。

 千早の両親を前にすると、流石(さすが)の彼方も(かす)んで見えた。

 個性的すぎるその空気に、千早の(うし)ろから『おおぅ……』と、彼方の()(おく)れが

聞こえる。

 千早が夜間外出の(むね)を伝えると、母親の春風菜奈(ナナ)は呑気に告げる。

「千早ちゃん、コンビニじゃなくて、24時間営業のスーパーに行くの? だったらついでに、ウチで食べそうな半額商品でも買ってきて」

 こんな時に限って放任主義をつらぬくあたり、年頃のむすめに対する配慮が欠けている。

 不用心な(よう)(せい)に続いて、父親の春風(けん)(ろう)が、役に立たないアドバイスを(でん)(じゅ)した。

「警察官に見付かっても、捕まるんじゃないぞ~」

 千早は、両親から無表情で(ぐん)()(きん)を受け取り、彼方かなたを連れて玄関へと向かう。

 外に出ると(しぶ)い表情で、今どき珍しい2千円札を、ポケットの中へと()()んだ。

 そんな親友に、彼方は遠回とおまわしな表現を使って形容する。

「ちーちゃんの両親って、もしかして『アレ』かね……」

 アレという隠語で、表現を()かす彼方。

 千早も、両親の(ユル)さを直視するのが(つら)くて、彼方の台詞セリフを引用した。

「ええ、『アレ』よ!!」

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