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いち

最近、僕は少し変なモノが見えるようになった。目の前、会話中の母の背後に何処から出したのかわからない大きな紙にせっせと文字を書く同い年くらいの女の子。

「聞いてた?」

聞いてなかった。全く意識が母ではなく、その後ろで文字を書く子でもなく、今日発売の漫画に向いていた。

「聞いてたよ」

ぱっと女の子に視線を向けると気に食わないような顔をしつつも知りたい情報が書いた紙を掲げてくれた。

『洗濯物干してくれる?』

「読み終わったら干すよ」

勝った。これで漫画に集中できる。軽く女の子に目を配ると母が首を傾げたのがわかった。

『大丈夫かしら』

『まだ学校がないからって遊びすぎじゃないの?』

むっ、このままだと長い説教コースになってしまう。母の口が動き出したので咄嗟に遮る。

「ちょっと友達に会ってくるよ」

『今から?』

『何をするの?』

『何時に帰るの?』

女の子が忙しそうにペンを走らせこちらに見せてくる。僕は最後の質問にだけ答える否、話す。

「1、2時間で帰るよ」

そう言って逃げるように家を出た。


もう分かってもらえたと思うが、人の喋ろうとする内容や考えていることを先に教えてくれる神様(の様な女の子)が見えるのだ。この神様は中学の卒業式から急に見えるようになってもう1週間が過ぎた。初めは幽霊の類が自分を呪っているのだと思ったが、寧ろ手助け(というよりズル)をしてくれるので神様だと自分を納得させた。

「そろそろ名前とか教えてくれないの?」

傍から見たら随分おかしな人に見えるが周りに誰もいないことを確認した上での発言だった。しかし彼女は首をふるだけで一言も喋らない。この一週間朝から晩、真夜中まで視界の中にいる神様を観察してわかったことは、喋らない若しくは喋ることができない、字を書くスピードが異様に速い、謎空間から無限に紙が出てくる、よく見ると結構かわいい、ぐらいだ。紙とペンがあるのだから筆談はできないのかと訪ねても首をふるだけでできそうにない。喋らない代わりにジェスチャーや表情が豊かで観察してると照れられた。

こっちも負けじと照れた。

とはいえいつまでも神様の加護があるとは限らないので今のうちに活用したいと思うのだがまだ子供なので賭け事に使えないしまず人と話す機会が少ない。

せめて高校入試より早く来てくれていれば面接で大失敗することも無かったのにと考えるのは無駄か。


ぽちぽちと裸足で前を行く神様が急に振り返り、紙を出す。

『どこに行ったのかしら』

『此処らは野良犬が多いから心配だわ』

『早く帰ってきてゆず!』

誰の心の声だろうか考える間もなく曲がり角から女性が辛辣なおもむきで出てきた。

「ゆず!」

神様が声をかけろと言いたげなジェスチャーをする。

「どうしましたか?」

「ああ、飼い犬のゆずがいなくなってしまったの。あの子小柄だから野良犬に襲われたらどうしましょう…」

神様は期待した顔でこちらを見てくる。

「…良ければ一緒に探しましょうか?」

「嬉しい!この辺りは入り組んでて途方に暮れてたの。助かるわ!」

すぐに愛犬ゆずと飼い主の幸せそうな写真とこれまた幸せそうなゆずのアイコ ンの連絡先をもらい探すことにした。

ゆずは小型のダックスフンドで怯えて隠れてでもいたら見つけることは困難だろう。だがこちらには最強の助っ人がいる。

『かわいいー!なんていう犬だろう?』

『首輪をしているけど飼い犬かな?』

よし来た。神様は迷い犬探しに向いている。急いで辺りを見渡してそれらしきことを考えていそうな人を探す。ここは住宅街だ。スーツを着たセールスの若い男性、買い物帰りの主婦、犬の散歩をするお爺さん、チャンバラごっこをする小学生、学校帰りの制服を着た女の子、、、、おっとその子は正面でもなく、スマホでもなく道端を見ている。恐らくこの子だろうから話を聞こうと急いで駆け寄る。

『なんかあの人こっちに向かってきてない?』

『え、やばい逃げたほうがいいのかな』

こちらを向いたその子は恐ろしいものを見る目で後ずさり始めた。結構心に来るものがあるが勇気を出して声をかける。

「すみません、ここらへんで小さな犬を見ませんでしたか?」

『よかった不審者じゃないみたい』

「わんちゃんならさっきそこで見ましたよ」

「どっちに向かったかわかりますか?」

『まあ自分と同い年くらいだし不審者な訳ないよね。ただ何考えてるかわからないような見た目だけど』

「私の学校の方に走っていったけどその後はわからないです」

「そうですか。ありがとうございます」

『意外と礼儀正しいじゃん』

「いえいえ、では」

……神様は要らない事を執拗に教える傾向がある。内心泣きそうだ。神様は僕の心が読めますか?読んでください。お願いします。


思い出の母校(といってもつい先週まで通ってた訳だが…)の周りを探すが見つからない。見つかるのは奇怪なものを見るような人の心ばかり。ダサい服着て必死に辺りを見渡していたら変な人と指を差されるのもおかしくはないか。気がつくともう太陽のピークは過ぎていてこのあとは探すのが困難になってくるだろう。

『もう帰ろう。』

偶然か僕の思いと同じことを書いた神様が僕を見る。

「もう帰ろう。」


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