純粋な少年と強気な影
「破壊浸透・・・」
その言葉がこの短い物語の最初の言葉
同時に吹き飛ぶのは若い男性の左腕
左腕を吹き飛ばされた男性は驚愕の表情で敵を見る
その顔は滑稽
絶望も含んでいただろう
「くっ・・きっさまぁぁぁぁぁぁ!!」
左腕を吹き飛ばされて、直も男性は敵に立ち向かう
その右手には日本刀
見れば、男性の格好は動きやすい服装で纏められ、赤いショートヘアーに赤い瞳を持っていた
そして、その行動を第三者が見たならば「無謀」と罵るだろう
何故なら・・・
「無謀かつ無価値・・生を受けた瞬間より罪」
敵・・相手も見た目は人間であった
更に細かく言うならば、少年
赤く長いマフラーを首に巻付け、グレーのショートヘアー
ランニング状の服に黒いジーンズを装着している
身長はせいぜい、中学1年くらい
正直、格好の見た目は気にしていないようだ
しかし・・その少年と左腕を吹き飛ばされた男性とでは絶対的な差があった
「キケケッ!バァカが!!死に絶えろ!!」
長く赤いマフラーをした少年の足元から全身を渦巻くように出現した黒い物体
その触手のような黒い物体の先端には狼のような顔が存在した
そのまま、突っ込んでくる男性目掛けて狼の黒き触手は飛び掛る
「ぐっ・・・あぁぁぁぁぁぁ!!」
突っ込んできた男性は狼に腹部を貫かれ、そのまま消滅する
死体が残るわけでもなく「消滅」である
まるで煙の如く、消失してしまった
残った物は無い
「・・ふぅ・・疲れた・・」
赤く長いマフラーをした少年は安堵の息を付きながら、そこら辺にあった手頃な岩の上に座る
この場は荒野
在るのは雲が多く、青い空
煥発した大地
枯れ果てた木々
そして・・彼が座っている他にも存在する岩だけである
「クケケケッ!そんなんじゃ〜これから先が不安だなっ!シュリ!」
少年を取り巻くように先程、男性を消滅させた狼が述べる
そうやら、この少年の名は「シュリ」と言うらしい
「むっ・・戦闘中はクエルが「冷酷かつクールになれ!」って言うからやってみたのに〜・・」
「クケケケケケケッ!!そうだったな!まぁ、やっぱつまんねぉから!何時も通りのシュリで行こうぜぇ〜!」
「もぉ〜・・・」
呑気そうに笑う先端が狼の顔の黒い触手
いや・・これは「影」だろう
彼らの名は「シュリ」と「クエル」
赤く長いマフラーをした人物が「シュリ」
狼の顔をした黒い触手状の影が「クエル」
ここで、彼らの生い立ちや目的などを一気に説明しておこう
この世界は腐っていた
人間は「狂菌」という世界中に広まったウイルスによって狂った
そして無意味な殺し合いを始めた
各国の大統領は「核・・撃つべし!撃つべし!!撃つべしぃぃぃぃぃぃ!!!!」
とか言いながら、核を出鱈目に発射するし
軍は軍で「パラリラパラリラ♪」なんて声をスピーカー大音量で声が枯れるまで言い続け、他の国に突っ込むし・・・
そんなかんだで、世界は死に絶えた
そんな中・・まだ残っていた狂菌に取り付かれていない科学者たちが世界に平和をもたらす希望として開発されたのが「コア」と呼ばれる生物
これは人間に取り付く代わりに、その宿主の願いを叶えるという優れもの
「クエル」もこの「コア」の一つである
コアはすぐに様々な人間に取り付いた
そして・・世界は更に壊れた
強大なコアに取り付かれた人間の一人が己の欲望のために、コアを使った
これによりコア開発に関わった科学者たちは全て絶命
狂菌はコアに取り付いた人間に感染する事は無かったが・・
今度はコアに取り付かれた人間が全てを支配するようになった
そして、全世界に「コア狩り」を提案
生き延びた人々はその強大なコアに取り付かれた人間に恐怖を抱いていた
そして仕方が無く狩りへと行かされる
コアも宿主が死ねば死ぬ
コアの力は強かったが、宿主は人間
銃で撃たれたりすれば死ぬ
そんな調子でコアに取り付かれた人間は次々と死に絶えた
中には、強大なコアに取り付かれた人物に忠誠を誓う、コアに取り付かれた人物も存在した
それを許可した強大なコアに取り付かれた人物は巨大組織を作り上げた
名を「絶界」
この組織は僅かながら反発する人間、コアの消滅を目的とする組織へと成長していった・・・
そんな中・・クエルは一人の少年に取り付いた
少年は両親を狂菌で無くし、天涯孤独だった
そんな時に出会ったクエルは正に「初めての友達」であった
クエルは、最初は少年の純粋な心に戸惑っていたが・・
序々に心を開き、今では良い相棒である
そんな二人・・いや、シュリがクエルに取り付かれた際の願いとは・・・
「この世界に永久の平和をもたらしたい」
そんな純粋な願い
コアは純粋な願いであれば、その力を増す
今まで、その願いをして来た人物は沢山居た
だが、全ては己の欲望を抑えて、世界平和のために仕方が無く言ってきた人物ばかりである
だが、シュリは違った
本当に心の奥底からの願いである
そこに一点の穢れ無し
その瞬間から、シュリとクエルは、強大な力を持ったコアに取り付かれた人物を倒すために旅を続けていた・・・
そして現在では「ギルド」と呼ばれる絶界に唯一対抗できる巨大組織の一員として働いている
先程、闘っていた人物は絶界の一般兵である
それを倒したところで、シュリとクエルは一休みをしていた
「ね〜クエル・・まだ絶界の本拠地には着かないの〜?」
「む〜・・まだだな・・まぁ、着きさえすれば、俺様とシュリであっという間に絶界なんて壊滅だけどな!クケケケケケッ!」
そう言って笑うクエル
「世界に平和をもたらすためだもんね・・頑張ろうねっ!」
「応っ!」
そう意気込む二人
そこへ・・・
「クッ・・ククク・・あの方を倒す・・ですか?」
冷たい笑い声が聞こえた
「クケケケケッ!早速、敵さんのお出ましぃ〜!ってかぁ!?」
クエルはシュリの影から分離し、人型の形態を成す
それはまるで人間
黒いショートヘアーに黒い瞳
身長や服装はシュリに近い物である
違うのは、シュリのしている赤く長いマフラーは無く、代わりに頭にヘッドバンドをしているところである
「最近、あの方に反発するコアが居るからと聞いて来てみれば・・」
学者のような白い服
コートに近い物だろう
右目には片眼鏡
ショートヘアーな白髪
瞳の色は緑
そんな人物はスッ・・と蜃気楼の如く、二人の前に現れた
「弱そうな少年と影のコアですか・・クククッ・・私で十分ですね」
「あぁん!?殺るならさっさとしやがれ!」
気の荒いクエルは学者のような敵を威嚇する
「待ちなさい単細胞・・クククッ・・起きなさい、ガーゴイル・・出番ですよ」
「ケッ・・ケキキキッキキイキキッキキキキィィィィァァァァァァァ!!」
奇声を上げながら、学者の腹部から飛び出してきたソレは・・・
紫色の全身
隆々とした中々の筋肉
鋭く尖った爪と牙
白眼は見る物を恐怖に狩り立てる
無残にも垂れ下がった髪
下半身は科学者の身体の中に入っているため黙認不可能
「私は絶界特攻隊第二部隊所属特攻副隊長・・レイズ」
「あの方の野望のため、反発する貴方方を排除しますよ・・クククッ!」
「ハッ!やってみやがれ!!」
駆け出すのはクエル
その右手で作った拳をレイズの顔目掛けて振るう
が、それは見事に空を切った
「・・・あり?」
そんな間抜けな声を上げている間に、レイズはシュリの背後に出現した
「ガーゴイルの能力は「蜃気楼の様な瞬間移動」です。クククッ!」
レイズの腹部から飛び出していたガーゴイルがその右手で拳を作り、シュリの後頭部目掛けて放つ
「コア本体と分離した状態・・これで貴方は只の人間!!」
「ギッゲガキケァァァァァア!!」
ガーゴイルの拳がシュリに当たる・・
事は無かった
「なっ・・!?」
「クケケケッ!バァカめが!!」
シュリの巻いていた赤く長いマフラーがまるで意思を持ったかのように動き、ガーゴイルの拳を止めた
その際のマフラーは鋼鉄の様に硬かった
「あー・・えと・・その・・残念でした?」
シュリはどうしたらいいか困った様にしながら、クエルの方を見る
「はぁ・・そーゆー時はだな!「バァカめが!!そんな物効くかっ!!そら!お返しだっ!!」とか言いながら、攻撃すんだよっ!!」
「あっ・・うん・・!ば、バァカめが!そんな物効くかっ!それ!お返しだ!」
鋼鉄の様に硬いマフラー、今度はその強度を保ったままで伸縮自在の鞭の様にしなやかに舞う
そのまま呆気に取られていたレイズを吹き飛ばす
「ぐっ・・!」
「アブゲレレレレレレ!」
レイズは飛ばされた直後、受身を取って着地
「これが・・シュリの願った力だ・・今はまだ弱いがな・・これから更に強くなる・・!」
シュリの側に駆け寄ったクエルが叫ぶ
「チッ・・力なら私も願ったハズ、なのにこの圧倒的な力の差は何だ・・!?私は・・ガーゴイルとの融合程度だったのに!!あのガキは・・!コア無しでも十分闘えるなんて・・!!」
驚愕と同時に一撃を喰らった事でシュリの力を見抜いたレイズは怒りを覚えた
「テメェなんかとは、思う力がちげぇんだよ」
「あ・・その・・そうみたいです・・はい」
悪魔で強気なクエルと控え目なシュリ
「くそっ・・もっと力が・・欲しい・・!!」
そうレイズが呟いた
その時
「ならば、俺に身をよこせ」
「なっ・・ガーゴイ・・あっ・・アァァァァァァァ!!」
突然、叫びだしたレイズ
両手で頭を抱え、俯く
同時に地面の砂が上空に吹き飛ぶ
「なっ・・何・・!?」
それに驚くシュリ
「くっ・・あのバァカ・・!更に力を望みやがったから・・コアに取り込まれやがった・・!!」
「アァァァァァァァッァァ・・・ガッ」
叫び終わった
同時に砂も落ちる
俯いたままのレイズ
いや・・・ガーゴイル
そして・・・
ビクッとレイズの身体が跳ねた
次の瞬間には、メキメキという音をたて、レイズの身体から出てきたガーゴイル
いや・・正確にはレイズの身体を食い破った・・だろう
その全長は七メートルぐらいだろうか
巨大である
上半身は先程のまま
下半身もやはり筋肉が凄い
更には長く太い尾まで生えていた
「狂ったフリをし・・この時を待っていた・・礼を言う・・お詫びに貴様らを喰らってくれよう・・」
ガーゴイルはしっかりとした口調で、二人に告げる
「ヘッ・・!バァカが!デカいからってビビるかよ!」
「あっ!クエル!」
クエルはガーゴイルに向かって走り出ながら、右手を軽く上げる
すると、ガーゴイルの影が黒い触手となってガーゴイルの身体を縛り付ける
「ぬっ・・・?」
「これで動けねぇだろ!?喰らいやがれっ!!」
飛んだクエルが右手に力を篭め、ガーゴイルの顔目掛けて一撃を放つ
しかし・・・
「それで仕舞いか・・?」
「効いてねぇ!?ぐぁっ!!」
軽く縛り付けていた影を振り払い、クエルを右手で掴み、締め付ける
「ぐっ・・あぁ・・!!」
「フン・・その程度か・・では、食われろ」
ガーゴイルはその大口を開ける
刹那・・赤いマフラーがガーゴイルの右手を攻撃
「ぬっ・・!」
その意外な痛みにより、ガーゴイルは右手を放してしまった
「ダメッ!!クエルを・・クエルを食べさせはしないっ!!」
赤いマフラーがクエルをガーゴイルの右手から救った
「小僧・・良かろう、二人まとめて食せば問題無い」
ガーゴイルは余裕の表情で二人を見下し、近づいてくる
「大丈夫・・?クエル・・」
心配そうにマフラーも乗っているクエルを見るシュリ
「う・・いや、大丈夫だ・・迷惑かけたな」
「え・・いや!クエルが無事なら僕もそれで良いから!」
満面の笑みで答えるシュリ
「・・・へっ」
それに照れくさそうにそっぽを向くクエル
その視線の先にはガーゴイルが映った
「んじゃ・・そろそろ終わらせるか?」
「うん・・そうだね」
二人は顔を見合わせ、ガーゴイルに向き直る
「覚悟を決めたか・・では・・死ぬが良い!」
ガーゴイルは右腕に筋肉を集中
これにより、右腕は膨らみ、更に強大な凶器と化した
「膨張・・エネルギー200%!!」
その右手を二人目掛けて放とうとするが・・・
「行くよ・・クエル・・!」
「応っ!!」
見ると・・クエルは元の影に戻っていた
しかし、今の姿はまるで砲台
シュリが両手を合わせ、その両手に覆いかぶさるように狼の顔が取り付いている
その狼は口を開けている
覗かせているのは砲身
そこに黒い影が序々と溜められて行くのが見てもわかる
まるで本当に砲台がビームを発射する直前みたいだ
「絶対破壊兵器・・・」
「グングニル・・・」
「「発射ぁぁぁぁぁぁぁ!!」」
二人の声が重なり、溜められた影の波動がガーゴイルを襲う
「くっ・・・ぬかった・・・グッ・・ギィィィィィィィィィィ・・!!」
それだけ述べ、紫色の悪魔はこの世から消え去った・・・
「じゃ・・休憩も終わったし、行こうか?クエル」
「クケケケケッ!そうだなっ!!」
二人は元の状態に戻り、休憩を終え、目的地に向かう
最終目的地・・「絶界」へと・・・
同時刻
壁に真っ黒で巨大な人の座っている姿のシルエットのみが浮かぶ部屋
そこに存在する圧倒的な殺意
それに怯えながら、一人の人物がシルエットしか見えない人物に告げる
「総帥・・特攻隊第二部隊所属特攻副隊長レイズがやられました・・」
「フン・・そんな奴も居たか・・まぁ、良い・・で、やった奴は・・?と言わせたいのだろう?」
「い、いえ、滅相もございません・・」
「まぁ良い・・どうせ、ギルドの奴だろう・・?」
「はっ・・そ、そうでございます」
その部屋に常に巻き起こっている殺意にやはり怯えを隠せないまま、話を続ける人物
「ケッ・・どうせ俺の手駒はまだ沢山あるしな・・」
総帥と呼ばれた男はパチンッと指を鳴らす
すると・・・
更にシルエットが13個ほど増えた
それぞれ、個性的な姿をしている
「おい」
「はっ、はい!」
「ソイツの名は・・・?」
「は、はっ!シュリとクエルでございます!」
「・・・分かった。下がって良いぞ」
「ははっ!」
報告に来た人物を下がらせ、総帥は椅子に座って微笑む
「ここまで来れるか・・?シュリ・・・」
シュリとクエルの任務はまだ終わりそうにない・・・