表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
階段下は××する場所である  作者: 羽野ゆず
脱出ゲームで××なご褒美あります―Where's the Key?
61/162

9-4 ハマる!―【B】の部屋

「わかっちゃったもんね!」


 へっへっへ、と勿体ぶった笑いをする楓。

「チューリップの色は、赤、黄、青」

 左から順に、花が植えられたプランターを指す。

「英訳すると、Red、Yellow、Blue。頭文字を並べると? はい、水無月兄」

「R、Y、B……。モニターの文字と同じだ!」



挿絵(By みてみん)



「そして、チューリップは色ごとに本数が異なっている。――つまり、入力すべきは〈チューリップの本数〉ってことだ!」

「スゲー!」

 素直に感嘆する日向。

 一方、陽太はしらーっとしている。

「そんなんぐ気づくだろ」

「そうなのか?」

「常識だよ」

 もしかして、基礎的な発想なのか? この種のゲームを殆どしない日向にとっては、何もかもが斬新だ。ふいに背中を叩かれる。

「どいて、邪魔。えっと、赤が8本で」

 小さな身体をかがませて、カナがチューリップを数えている。行動が早い。

「ぼおっとしてないで、日向くんも数えてよ」

「……あ、うん」

 右端の青いチューリップ(造花)を数える。

 間近で見ると、花びらに水滴が付いていたりで、なかなか凝った造りをしている。が、お腹空いたな、と花より団子的なことを日向は考える。皆で分担し、あっという間に数え終わる。

「《赤》が8本で、《黄》が5本で、《青》が7本。――間違いないな?」

「間違いないと思う……けど」

「けど?」

 入力ボタンに手をかけた楓に、アカネが言う。

「この〈2times〉って、さっきの入力モニターには無かったわよね」

「それ、私も気になってました」カナは唇に指を当てて、「〈2回まで入力OK〉ってことですかね?」

「大丈夫だよっ! 答えはもう明らかなんだから。2回も入力する必要ないって」

「待って」

 Enterボタンが押される瞬間、陽太が声を張り上げる。

 ジーンズのポケットから、鍵を取り出す。【B】の部屋を開けた鍵だ。

「ここに【BLUE】って書いてあるだろう」

 持ち手に貼られたシールに表記された文字。

「それがどうしたよ。【青い部屋】の鍵ってことだろ?」

「【青】の部屋はここだけ(・・・・)じゃない(・・・・)もう一部屋(・・・・・・)ある(・・)

「――あ!!」

 陽太から鍵を奪った楓が飛び出していく。

 


挿絵(By みてみん)



 玲於奈が愛想よく手を振ってくる。そんな彼女にデレっとすることも忘れず、もうひとつの青い部屋――【E】の鍵穴に、楓は鍵を挿し込んだ。

「開いたぞ!!」

 はたして【E】の部屋には――

「ほら、やっぱり!」

 誰かが置き忘れたかのように、中央に、プランター鉢がひとつ在った。《青》のチューリップが1本()わっている。

「……ほんとに在った。よく気づいたわね、陽太」

「常識だよ常識」

 えへん、とカナに胸を張る陽太。「そうかぁ」と楓がうなる。

「これを見落とす可能性があるから、〈2回まで〉の入力が許されてるってわけだな」

「アタシたちは1回で済みそうね」

「よし、今度こそ正解だ!」 


 【B】の部屋に戻り、再び入力モニターと向き合う。

「もう一度確認するぞ? 赤8、黄5。青が、ここにあるのが7本と、向こうにあるのが1本とで、合わせて8だな」

 メンバーたちは各々うなづく。ピッピッピッと電子音。しばしの沈黙の後――


 ブッブー!


 全身の力が抜けるような、効果音が響いた。

「不正解!? なんでー!?」

「落ち着いて、もう一度数えてみましょうよ」

 アカネが提案し、この中でいちばん几帳面と思われるカナが数え直すが、

「――ダメ、やっぱり同じです」

 ふるふると首を振る。

「もしかして」日向が言う。「別の部屋に、まだ何か在るんじゃ……? カレンダーの部屋とか」

 クリアした【C】の部屋のことである。

「あそこにはチューリップなんて無かったぞ」

「出現条件をクリアしたら、新しいアイテムやイベントが発生するんじゃないかな。ほら、RPGみたいに」

 もしそうだとしたら、プランターを運び入れるのは、玲於奈の役割だろうか。

「まあ、一応確認してみるか」

 相変わらず素敵な笑みを向けてくる〈案内嬢〉の前を通り、【C】の部屋へ。


「無いじゃんか」

 不満げに息を吐く楓。

 楓が拘束されたシート、左右の壁に貼られたカレンダー……。何も変わっていない。

「今回の問題って、時間制限は無いんですかね?」

 タイム計測器の電光掲示板を眺めながら、カナが呟く。

「――まだ決めていないの」

 一同振り向く。玲於奈が戸口に立っていた。

「あなたたちの結果次第で、決めることになっているわ」悩ましげに手を頬にやって、「〈花の本数の問題〉ね。社長が心配してたわ。この問題にハマって、ゲームの制限時間をオーバーする可能性もあるって」

「はあ~!?」

 制限時間をオーバーするとは、一体どんな難題なのか。

「難題かどうかは人によるわね。“閃き勝負”っていうか。――ごめんね、ヒントを出すのは禁止されてるの」

 玲於奈は困ったように微笑み、健闘を祈るわ、と退場した。

「パパったら。どんな問題を考えたのかしら」

 社長令嬢のアカネが溜め息を吐いて、腕時計を見る。

「――そういえば、光、遅いわね」

「もしかして」楓が視線をさ迷わす。

「あのことがバレたのかも……」

「何よ、あのことって。味方してあげるから、言ってみなさいよ」

「本当ですか?」気まずそうに頬を掻いて、「道場で師範代の着替えを覗いたこと」

 最低、とカナが楓をにらむ一方、「覗けるのか?」と陽太が身を乗り出した。

「一回だけだよ、一回だけ! しかも一昨年おととしのことだから! いつもは失敗するんだよ、脱ぐ前にかならず気付かれるんだ。……でも、あの日は、何故だか成功しちゃったんだよなぁ」

 回想してニマリとする楓。

「それがどうして光が遅れていることと関係あるのよ」

「現場で証拠固めをしてるんじゃないかと……うぅ」ぶるっと身を震わせる。「アカネさんっ、オレの味方してくれるんですよね!?」

「いやーちょいキツイかなぁ。覗きはさすがにねぇ」

「そんなっ、お願いしますよ! うわっ!?」

 カレンダーの壁に頭から突っ込む楓。

 キャスター付きのパーテーションが押されて動き、何枚かのカレンダーが剥がれ落ちる。

「何すんだよーっ!!」

 四つん這いで楓がわめく。

 蹴った張本人――日向は悪気なさそうに、「足が滑った。わざとじゃないよ?」

「わざとだろうが!!」

「水無月くんも人を蹴ったりするんだね。貴重な瞬間を見たわ」

「なんだよっ、着替えを覗くくらい! そっちは、二人でお泊り旅行したくせに!!」

「えっ、そうなのー!?」

 日向がぎくりとした表情になる。

 光と温泉宿を訪れたことである。身内には秘密にしていたらしい。陽太が涙目で抗議する。

「ヒナタめーっ、光とエッチしたんじゃないだろうな!? 許さないぞ!」

「……お前もう帰れよ今すぐ頼むから」

「友達と行くって言ってたくせに。母さんに報告しなきゃ!」

「そうだ陽太、お前新しいゲーム欲しいって言ってたな。帰りに買ってあげようか?」

「ありゃ、そういえば――カナちゃんも彼氏できたんじゃなかったっけ」

「誰から聞いたんですか、それ?」

「アタシは何でも知ってるのよ。部活の先輩だっけ? やるわねーこの」

「たはは」

 だらけた雰囲気のなか、楓が当り散らす。

「なんだよっ、皆幸せですって顔をしやがって! オレなんか、バレンタインチョコ一個も貰えなかったんだぞ!」

「そうだったの? 教えてくれればあげたのに」

 義理だけど、とハッキリ付け足すアカネ。

「――っ! 気晴らしに玲於奈さんを拝んでくるっ!」

「そういえば、玲於奈さん結婚するらしいよ」

「……マジかよ」

 へなへなと楓が崩れ落ちる。報われない男である。

「結婚って、付き合ってた脚本家の人とですか」

「そうそう埜村さんと。結婚式の日取りも決まって、今、衣装合わせをしているんだって。玲於奈さんのウェディングドレス、素敵だろうなぁ」うっとりと手を合わせるアカネ。

「埜村さんもタキシード着るんですか。似合わなそうだな」

 茶化した楓にアカネは首を振って、「堅苦しいのは嫌だからって、スーツの胸元に花を飾るだけだって。玲於奈さんは不満そうだったけど」

「……胸元に花」

「日向くん?」

 真顔になった日向に、どうしたの、とカナが尋ねる。

 それには答えず、日向は部屋を飛び出した。


 横断歩道の定位置に、彼女が立っている。

 漆黒のスーツを身にまとう、美貌の〈案内嬢〉。興奮した様子で走り寄ってきた日向に、素早くほほえむ。

「あら、どうかした?」

Bの花(・・・)

 玲於奈の胸ポケットを指す。

「それだったんですね……?」

 優雅な笑みが消える。やがて赤い唇が開いた。

「驚いたわね。まさか本当に気づくなんて」

 胸ポケットに挿していた、黒バラ(・・・)の造花(・・・)を取り、日向に手渡す。

「一本だけ?」

「ええ。ボディチェックしてみる?」

「……信用します」

 きびすを返し、そのまま【B】の部屋へ。


「おい、いきなりどうしたんだよ一体」 

 後を追ってきた面々たちが入ってくる。

「思い込みだよ」

 振り返った日向は、チューリップが並んだプランターを順に眺める。

「赤、黄、青――の“信号色”。ここに来てから、その3色ばかり目にしていた。思い込みにハマってたんだ」玲於奈から譲り受けた黒バラの造花をかかげる。


「【B】はBlueじゃなく、【Black】の頭文字」


 罠は二重に仕掛けてあった。

 漆黒の暗幕、野巻氏と玲於奈のブラックスーツ――執拗なまでの【黒】。そのなかに、紛れるように在った、“黒バラの造花”。


「汚ねーっ! そんなん気づくわけないだろ。なんて引っかけだよ!」

 楓が悪態を吐いたが、日向も全く同意見だった。意地が悪い。

「そうか。【B】がBlue、Blackのどちらかを確認するため、〈2回〉入力が必要だったんだな」 

 呟いた陽太が、モニターに数字を入力する。

 先刻の答えを【B】は1、に修正して―― 


「よっしゃ!」


 小気味よい正解音が響いた。



【next…】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ